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01-01 旅は、はじまり

01-01 旅は、はじまり 剣の王国 裏山の森のさき お手伝い途中 星々が綺麗な空の下。



「……

 魔王を倒せば、世界は、きっと救われる。

 魔王を倒せば、みんなが、幸せになれる。

 魔王を倒せば、悲しみは、全て無くなる。

 魔王を倒せば、だれかの夢がきっと叶う。

 魔王を倒せば、……

 ……」


 あの子の唄う声が聞こえる。




 夜が始まったばかり、星明りの下、動く人影が三つ。



 杖を持って魔法使いみたいなローブをかぶり唄い歩く、この子と

 神官みたいな法衣をまとって自分に手を引かれ歩く、この子と

 そして冒険者剣士みたいに剣と盾を背負って歩く、あたしと。


 幼馴染の三人での旅は、冒険の途中で、

 背にしていた夕日も落ちたばかりの、

 高い森に囲まれた野原のただ中の、

 細い足を緩く進めたままで、


 森林と草の匂い

 風がなぐ草の匂い

 高原と高い山の匂い、

 けど、季節の解らない匂い


 長く歩いた最中の、

 頬をなぐ風の心地良さ、

 熱を持った体を冷やす風の匂い、

 でも、秋でも春でもない気がする感覚…。


 既視感と違和感。

 それと、確かな納得をもって。

 当たり前の、でも、見慣れぬ星空を見上げた。



「……

 まだ低い三日月が、空に三つある。

 宵の明星と、宵の定星。

 天の川が、天上で十字を描いてる。

 知らない星座、見られない星達、綺麗な夜空。 

 あたしが、よく見上げている、

 そして、私が、見知らぬ天上…、


 ここは、

 …異世界…なのかな?

 …

 って

 …

 わからん」


 私?

 あたしも?

 ほんとうに、

 うん、わからないしね、

 自分。


 そう、思っていてたら自分につられて、隣を歩いていた、この子も同じ空を見上げた。

「うん?

 お?

 あ!

 地平の傍で月さま三つが揃ってるね、

 天井には、十字の銀河、遠い異世界、

 いつか~星の海で♪

 って、いつ見てもても、とってもファンタジ〜く♪」

 と

 その、いつもの素直で変なこの子の感想に、

「まったく、そうだよね」

 と、そう自分は応える。

 それは、あたしもそう思うしかないし。



「う〜ん?

 あれが真月、砕月、遊月。

 君が見つめる空の三つ月♪

 こ〜ん〜や、月を取りたもぉ〜♪

 って、コヨミちゃん?」

「何?

 私の知らない物語?」

 沈みかけの月たちは、私の知ってる暁色と、銀輪の中のプレアデスのような星の塊りと、彗星のような星雲を引いているし。



「うん?

 うん?

 月がとっても綺麗だよ〜♪

 遠回りして、

 僕、もう死んでも良い?」

「何で? 死んじゃだめだよルラ、そして夏目ツヅコ?」

 ルラの、いつものようにトボケた問いに、自分はそう答える。


「う〜ん?

 う〜ん?

 コヨミちゃん?」

「うん

 何?」


『コヨミ』

 それが、あたしの名前、それを思い出すの一瞬の間。

 違和感と既視感と納得への結論。


 そうだね。

 と、いう既視感。

 この世界で10年の生きてきた『ファレステジア王国のコヨミ』という、あたしの記憶。


 そうかな?

 と、いう一瞬の違和感。

『若宮 こよみ』という日本人の私。

 その実感と思い出

 そして、その行末と未来の情報。

 あたしと、

 私に、

 一瞬の混乱もなく「ああ、そうなんだな」と、私とあたしで自分が納得する。



「コヨミちゃん、どったの?

 なの、なに、かな?

 かな?」

 そう聞いてきた、この子の名を、

 魔法使いみたいなローブをかぶった、この子の名前を確かに想い出す、

 その『ルラ・カンパネルラ』という名を。


 あたしの幼馴染…と、いうか物心つくころから知ってる家族…かな?。

 いつも変な声で、変な歌を歌っているような子の名を。


 まぁ、

 異世界への転生なんて、あたしが手を引いている、この子達や、

 そして、

 私の、部活のあいつ達が好きそうなこと、誰に話すでもないし、

 うん、

 それよりも、この子達をビックリさせるほうが面白そうかな?

 と、考えてる今の自分。


「と、

 何、ルラ?

 そして、

 それよりもね、ルラ、

 くだんの、その遺跡まだ着かないの?

 まあ、

 あたし達の家からでも遠くないて言ったの ルラだよね、今日の家を出る時に、

 自分、そう憶えてるよ」


 日も落ちちゃって、ヲリヱ歩きながら寝ちゃったけど。

 …でも、

 ヲリヱは『ヲリヱ・ストロナッハ』

 ルラと一緒に歩いてた、神官服ぽい恰好した、この子の名前。

 この子に歩き寝の特技あるのは知らなかった、あたし

 ヲリヱは昼の間で、はしゃぎ過ぎてたから仕方なかな?


 そもそも、ルラとヲリヱとで旅に出たのは、父さんからお使い頼まれただけだし。

 ちょっと遠くにある『塔台』へ手紙を届けるだけの、子どものお使いでしかないし。

 そして、くだんに遺跡に行くのは、ただのオマケでしかないん遠回りなんだけれども。


 ルラが言った「僕達みんなの秘密基地にしよう」と、言ったことに少しワクワクしているし、

 お父さん達が「ヲリヱの初めてのお使い」の許可が出して、子どもだけで旅に出たのは、ちょっと謎だけど。

 出発する時のお祭り騒ぎみたいのは、かなり理解不能なんだけど。

 そして、まだ、つかない目的地と夜歩きに、今は少しドキドキしてるけど。



「まぁ、

 目印の一本木が見えてるから、もう一寸で、チョットやも?

 そして、

 通り抜ける予定の森を、コヨミちゃんのお願いで迂回しちゃったから、時間は、かなーり、かかっちゃった。

 ま、まっ ま゛っ 冒険にトラブルは醍醐味だよ〜」


 遠くの丘に小さな木が一本見えている。

 そうは時間かからないようだ、

 それに、出発のゴタゴタと、途中の森でのゴブリンさん達との遭遇は、この子達のせいばかりではないし。


「で、

 トラブルばっかで面白かったけどねコヨミちゃん。

 で、

 僕とコヨミちゃん、さっきから『日本語』で、お話してるよね。

 うん、

『日本語』なんて話せなかったコヨミちゃんとね。

 で、

 じゃ、

 うんと、

 君は誰かな?

 コヨミちゃん?」

 青から緑へ、瞳の色を変えるルラ。

 黙っておくとした自分の記憶は、

 この見知らぬ私の幼馴染には、

 あっさりバレてしまった。



 …

 ……

 ………



「なにゆえに、バレたのかな?」

 何もない原っぱで、思わず立ち止まる。

 ついでに、手をつないでいた、ヲリヱも立ち止まる。


「だってコヨミちゃん、急に『日本語』で、りゅうちょーに話し始めて、僕ビックリだから」


「それも…そうだよね」

 知り合いが突然知らない言葉話し始めたら正気を疑うし、

 この子達なら、そんなことも素でしでかすけど…、

 まぁ、隠し事するような相手でもなしだし。


「たぶん、

 だけど、

 お話の中にあるような異世界転生…だと思うよ、自分。

 そしてね、

 私こと『若宮 こよみ』の、高校1年の秋ごろまでの、思い出と実感が、急にではあるけどあるし。

 それと、変な話だけど、その後で大きな事件に巻き込まれて、大変な目にあったけど私達で解決して、その縁がもとで結婚した、という実感はない記録みたいな情報もね。

 けど、私『若宮 こよみ』が死んだとか、異世界の扉を開けたとかの記憶はなのよね。

 でも、あたしこと『コヨミ』と、みんなとの思い出はあるよ。

 不思議な事に」

 と、言うと

「コヨミちゃん寝ボケちゃってるじゃないかな?」

 と、ルラが言ったので、

「私は、あたしで、自分の真面目な話してるのに失敬かなルラ」

「いやいや、そういう意味じゃなんくてね、

 でも、それ、きっと、誰かさんのサプライズや、誕生日の贈り物の類いかとやと、またはイタズラかもかも?」

 ルラの中で何されてるんだ自分?

 まあ、自分のことは良いとして、


「それよりルラ。

 ルラは何で『日本語』を話せるてるの、今も」

「何ゆえの詰問口調?

 その疑問は若宮のこよみちゃんかな?

 まあ、僕の生れから、色々とね、色々とカラフル?

 人間じゃないし、魔王の四天王もしてるから、色いろ知ってんのー♪

 だしだし」


 そう言ってルラは深く被っていたフードを外し顔を見せる。

 星明りの下、猫っ毛のぼさぼさなショートの髪、水晶で出来た髪飾り。

 くりくりとした目と、額の石と肌が淡く青色に光ている。


 ルラは人間ではない、ファンタジー物だと、いわゆる魔族ってのが一番近いのかもしれない。

 今は隠してるけど羽も尻尾もある異形の子。


 異種族:ゾディアック。

 人間ではない、この世界の異種族達、星々の名前を持つ異種族の一つ。

 額に光る石を埋めた、星々の種族の写し身のかけら。

 遠くへ遠くへ旅を続ける、辺境の地のゾディアック。


 父さん達が、そう話していた記憶がある。

 幼い頃からずっと一緒にいたルラ。

 けど、あたし達と居ないとき、あちこち旅をしている。

 旅慣れてるからとルラが道案内にとかって出て、

 予感どおりにトラブル満載にみまわれて、

 …けど、

 自分が異世界転生になるとは思わなかった。


「ではでは、あらためてコヨミちゃん、若宮のこよみちゃん。

 まわる剣の王国、魔法の世界へ、

 よおこそ」


 まあ、

 まず、あたしの記憶から、この世界が現代日本ではない事を理解しているし。

 この世界には、魔法のようなものがあって、そして、あたし達のこの王国は、何かと戦いをしていることも…。


 それはそれとして、

 私とあたしとして、

 自分は自分として、


「で、自分は、何故。

 なんで、異世界転生なんてしちゃったのかな、色々意味不明なんだけど。

 何かある時、ルラか、ヲりヱか、あたしのせいが、ほとんどだし」

 それは今の現状では、私のせいではない、はずだし、たぶん…、


「僕に聞かれると、面ろい事しか言えないけど…。

 う〜と、あ、うん、

 …

 あの子、

 もう、いいよ、

 て、言ってたし… 

 …

 ほんとに?

 もういいの?

 もう、いいのかな。

 じゃあ…


 理由探し?

 りゆうのたんさく?

 竜探索は、どらご〜ん、くえ〜すと!

 よし、きっと、きっと、魔王を倒す勇者になるため、コヨミちゃんを御指名なんだよ!

 運命なんだよ、う〜んと? めいびーかもだよ、きっと、たぶん、かならず?」


「はい?」


「まぁ、だから、うんうん、んじゃんじゃ。

 さあ、

 行こうよ、コヨミちゃん。

 勇者となりて、

 この世の全ての悪役、魔王を倒す旅へ。

 で、

 こっちから、あっちへ」


 妙な独り言のあと、目を輝かせて手を握り詰寄るルラは、ひたすらにハイテンションだ。


「オ〜〜」

 と、いつの間にか目が覚めていたヲリヱがパチパチと手を叩いていた。



 うーん、

 でも…。

 まだ、よく、わからないけど、

 こうやって、こんなふうに、この子達と旅を続けられたら、いいかなって、

 そう思う自分が、いたりします。

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