変転メランコリー
「え……お前、本当に美弦なのか? ……天使?」
「ふふっ、私は神の使いではありませんよ──なんつって!これからまた宜しくな」
変わり果てた友人の姿に、俺は開いた口が塞がらなかった。
俺――三武浩輔の友人である立花美弦は、高校入学早々にとある病気を発症してしまい、それから一年ほど施設に入所していた。そこから退所してきた頃、友人はまるで天使のような姿へと変貌していた。
――後天性の病気。病名は長ったらしいから覚えていない。ひとたび発症すると、空想の物語にしか存在しないような蛇女や、犬のような大きな尻尾・耳を持った獣人の姿へと変わってしまう。そしてもう一つの大きな特徴は、男だった場合は女になる点だ。元から女だった場合はそのままだ。誰が発症するか、いつ発症するかなどのことは未解明だ。数十万人に一人の割合で発症し、発症者は国内でも数十例に上る。
数十年前に発見されて以来様々な研究が行われているが、治療法は見つかっていない。遺伝子レベルで変わってしまっていて、手の施しようがないのだ。罹かったら最後、その姿での生活を受け入れるしかない。
幸い他人へ感染するような病気ではなく、それが原因で隔離されたりすることはない。しかし身体が作り変わってしまうことから、発症者は国が支援する施設へ入所し、今後暮らし方――とくに元男の場合は女性としての――を学んでから社会復帰する。
テレビで発症した人を見たことがあるが、リアルで、しかも身近な人で発症者を見ることになるとは思いもしなかった。
美弦の入所中もお互いスマホで連絡を取ってはいたが、美弦は俺が頼んでも自身の自撮りを頑なに寄越さなかった。そのためあまりの変化に理解が追いつかなかった。
小学校からずっと一緒だった美弦は、俺よりも常に身長が高かった。だがその美弦は、今や俺の頭一個分ぐらい低い身長となってしまっていた。
絹のようになめらかな長い金髪に、くりっとした碧眼。それだけでも日本人離れしているのに、一際目を惹く背中の白く大きな翼。日を浴びるとそれらがキラキラと光り輝き、空から天使が舞い降りたかのような姿だ。白いドレスを着て頭に輪っかが乗っていれば完璧かもしれない。――病変の系統的には鳥の亜種らしい。
そして、背は低いくせに大きく主張する胸。本人曰く動きづらくて邪魔と言っていたが、同じ幼馴染みの女子である菱木夏鈴はそれを白い目で見ていた。……元男にそこで負けるとか、同情を禁じ得ない。
夏鈴は栗色の長い髪をサイドテールにした、つり目で口の悪い女子だ。ちなみに彼氏持ちだ。リア充爆発しろ。
そんな容姿のため、学校へ戻ってきてからは学校中の噂の的となった。いつの間にかついていたあだ名は天使。自分以外にもそう思うやつが多いらしい。本人はとくに嫌がることなく、それを受け入れていたが……。
その美弦は復学後、クラスの中では一番後ろの席に固定となった。前に座られると、翼で後ろの席の人が見えなくなってしまうからだ。
そんな美弦は天使と呼ばれるのとは裏腹に、服装がダサい。もちろん女子の服を着てはいるものの、そのスカートの下にラインの入ったジャージを穿いている。これには理由があって――。
「おい、空を飛ぶのはダメだって言われてるだろ!」
「へへっ、見つかんなきゃいいんだよ」
昼休み、人の居ない屋上で白い翼を羽ばたかせ、ふわふわと空中へと舞い上がる美弦。屋内では大人しくしているが、屋外へ出た途端何かにつけて空を飛びたがる。
美弦は以前、歩くより飛んだ方が楽だと話していた。種の本能的なもので本人にそう感じさせる、と最近の研究で明らかになったそうで、たぶんそれと同じだろう。今の姿は鳥の亜種のようだから。
で、空を飛ぶとスカートの中が丸見えになるわけで。だからジャージを穿いているのだ。これは俺が注意したから渋々穿いているという点がある。中身が男とはいえ、容姿は絶世の美少女といっても差し支えないレベルだ。そんな奴がパンツおっぴろげ、なんてのはさすがにどうかと思ったところで。
「わっとと……わりぃ、この翼と胸のせいですぐに転びそうになるな」
「中々大変そうだな……」
「まあ、慣れるしかない」
休み時間の移動中、バランスを崩しかけたところを、俺が身体を支えてやって何とか踏みとどまった美弦。背中に持つ大きな翼が邪魔をして、上手く歩くことができないようだ。そのせいで体育は、復学以来ずっと見学。身体を動かすのが好きだった美弦にとっては、辛いことに違いないだろう。
歩くときも気を遣っていて、ゆっくりと歩くことが多くなった。そのゆったりとした動きはどこか上品に見える。そうした姿も相まって、天使とよばれる一因にもなっている。まあ、たまに以前のクセで走ろうとすると、さっきのようになってしまうんだが。
★
そんな美弦に大きな事件が起こったのは、一か月経ったあとのこと。
美弦が上級生に監禁され、レイプ未遂に遭うという事件だ。俺と帰り際に待ち合わせしていて、時間になっても一向に現れない美弦を探していたら偶然発見したのだ。
幸いすんでのところだったので、大事には至らなかった。
男のときは長身で威圧感があったが、病気の発症後は女になって身長も縮み、抵抗する力もなくなってしまっていた。
自分が同じ境遇となって、知らぬ男に押し倒されたらどうなるか。美弦が感じた恐怖感がどれほどのものか、容易に想像できた。助けだしたとき、目に涙を滲ませ怖かったと泣きじゃくる美弦の姿は、見ていて痛々しかった。
そうして心に大きな傷を負ってしまった美弦は、しばらく学校を休んでいた。
カウンセリングなどを経てなんとか復学できたが、登下校時や休み時間などに俺や夏鈴の傍を離れようとしなくなってしまった。美弦はしきりに俺以外の男が怖い、と話すなど深刻な状況だった。
事件を起こした上級生は警察に補導された末に退学処分となり、もう学校にはいない。それでも男恐怖症は一向に治らず、ナーバスになってしまった美弦。可能な限り一緒に居てやろうとは思っているが、いつまでもずっとという訳にはいかない。
なぜなら美弦は身体も戸籍上も女となっているし、高校を卒業してしまえば別れなければならないからだ
――でも、本当は違う。これ以上美弦と一緒にいると、俺が美弦を女として見てしまいそうでならなかったからだ。そうしたら俺はあのクソ上級生と同じになってしまう。そうならないためにも、俺は早めに身を引く必要があった。
★
それから三か月ほど経ったある日の帰り際。美弦は夏鈴とクラス委員の手伝いをしていて、俺はそれが終わるのを校舎の外で待っていた。
ダラダラとスマホゲーで遊んでいたところ、美弦と夏鈴の声が聞こえてきた。手伝いが終わったのだろう。俺はスマホをしまい、二人に目を向ける。夏鈴は別れ際に「頑張りなさいよ」と美弦の肩を叩いていった。
クラス委員の手伝いで何かあったんだろうか。俺が不思議に思っていると、美弦からちょっと話があると校舎裏まで連れて行かれた。
夕暮れの陽が差し込む中、美弦の髪がキラキラと煌めいてより一層金を強調させていた。
だが純白の翼は少しだらんと下がっており、どこか曇った表情をしている美弦の心を映し出していた。
本人は知らないだろうが、背中の翼は美弦の今の気分をそのまま表しているのだ。
学校指定のカーディガンを腰に巻いて、豊かな双丘がカッターシャツを押し上げている。そして今はスカートの下にジャージを穿いていない。――美弦にしては珍しい姿だ。……俺の理想の女の子が目の前にいることに、少しドキッとした。
あれ、美弦のやつ……こんなにかわいかったか……?
「あ、あのさっ……」
「話ってなんだ?」
「あの……その……」
「……?」
どこか余所余所しく、目を合わそうとしない美弦。頬が紅潮していて、体調でも悪いのだろうか。それともまさか、また前のような事件に――俺は心配になって声を掛けようとした次の瞬間。
「その、おれ……お前のこと、えっと……好き、みたいだ」
「…………は?」
突然何を言い出すのかと思えば、爆弾を投下されたかのような発言におれは素っ頓狂な声を上げてしまう。美弦は俯いて、ぷるぷると震えていた。
美弦は何を言っているんだろう。好き……? この“好き”の意味は、なんだろうか。――いや、そんなはずはない。おれは思考を巡らせて――すぐにあることへ思い至った。
「……あのな、無理してそんなこと言わなくってもな……。俺はお前の味方だぞ」
俺は美弦がそう言うに至ったことをそう推測した。俺から離れたくない理由付けのために、そう言ったんだろうと
だが次の瞬間。詰め寄ってきたかと思えば突然抱き付かれ、同時に足元の感覚がなくなった。
「お、おいっ!?」
そのまま空へ飛び上がり、あっという間に見上げる場所にあった校舎を見下ろすような位置まで上った。
「ほ、本気だしっ……。くそっ、ようやく言えたのにっ……ばかぁ! ぐすっ、断ったら……このまま落としてやるからぁっ……!」
俺の胸元で、声を絞り出すかのようにそう言い放つ美弦。
その必死な様子に、俺は先ほどの返答が間違っていたことに気付く。どうやら、美弦は本当にそう言っていたのだ。顔は見えないが、きっと酷い顔をしているだろう。肩を震わせてそう言う様子にようやく理解して──。
「わっわかった! まずは降ろしてくれ! ちゃんと話を聞くから!!」
「……」
暫くの静止のあと、美弦はゆっくりと降下を始めた。そうして降りた先は校舎の屋上。降ろしたあと美弦はすぐに離れてしまい、屋上のふちへと座り込んでしまった。
やはり泣いていたのだろうか。目を拭う仕草が見られる。白い羽根が夕焼けの光を浴びて綺麗なオレンジ色に染まっていた。――致命的なミスをしでかした俺を、美弦が許してくれるか分からない。
「すまなかった。そこまで考えているとは思いもしなかった」
美弦の近くまで寄った俺はそう言い、深く頭を下げた。鼻をずずっとすする音が聞こえた。――許してもらえるだろうか。今俺にできることは頭を下げることだけだ。
「頭上げてよ、もう……」
美弦の言葉に俺はゆっくりと顔を上げて美弦の顔色を伺う。……やはり機嫌が悪いのか、少しむすっとした表情をしていた。
俺は恐る恐る口を開いた。
「一つ、聞いてもいいか? ……いつから、俺のことそう思ってたんだ?」
「……上級生に襲われたときに助けてもらったあとから。気付いたのはついこの間」
「……ついこの間?」
どういう意味かと思って首を傾げる俺。美弦は顔を正面に向けていたが、少し俯き加減になっていた。少しの間の後、美弦はぽつりと開いた。
「あれから、お前に対する気持ちが変わって……それがなんなのか分からなくなって、ずっとそれが続いてモヤモヤしてた。それを夏鈴に相談したら、それは恋だ、って……」
太股に置いていた手をギュッと強く握る美弦。そのまま美弦は続けた。
「でも、おれ男だったし、男のつもりだったのに……。こんな気持ちになって、おれは……どうすればいいのか、おれは一体なんなのか、分からなかったんだよぉ……」
美弦はそう言うと、再び顔を俯かせた。……今の姿はどうであれ、男に恋しているだろうと指摘されたことを考えると、ショックを受けてもおかしくない。
「……それで、美弦の出した答えがさっきの告白ということか」
「……そうだよぉ……」
俺の言葉に涙声でそう答えた美弦。美弦の顔はくしゃくしゃで、頬を紅く染めていた。
なるほど、美弦がこうなってしまった経緯は何とか把握できた。……女になって、心も変わっていってしまった、のだろうか。なおさら例の事件で心にダメージを受けていた美弦。
俺の返答次第では、美弦を再び傷付けることになってしまう。
俺は正直に今の気持ちを話すことにした。美弦の横に腰掛けて、俺は口を開いた。
「美弦の気持ちは、分かった。……正直に言うと、俺も美弦を女の子として見てしまっていた面はあった。でも、それを言ってしまうと、今の関係が壊れてしまうんじゃないかって怖かった」
「……え、それって……?」
「自分の気持ちを知られるのが怖かったんだよ。自分の気持ちがお前を傷つけるんじゃないかって」
美弦の言葉を遮って、俺は話を続けた。
「半年前にあのクソ――先輩が体育倉庫でお前を襲おうとしてただろ? あの時の先輩の欲に塗れた顔が頭から離れないんだよ。お前の恐怖に染まって怯えきった顔も」
顔を強ばらせてガタガタ震えていた美弦の姿は、今でも目に焼き付いている。美弦にはもう二度とあんな姿にさせまいと思っていた。
「先輩と同じでお前を傷付けるんじゃないかって、嫌われるんじゃないかって。俺にやたらとスキンシップを取るようになったときは俺の気持ちを見透かして、試してるんじゃないかと思ったんだ。友人なら先輩の様に襲わないよな、と」
そう俺がそう話していると、横にいた美弦が立ち上がっていた。
驚く俺をよそに、身体を少しプルプルと震わせて泣きそうな表情をした美弦が口を開いた。
「そんなことない! お前が優しいのは分かってたし……。おれがこんな姿になっても変わらず接してくれたのもお前と家族ぐらいだよ」
「まあ……美弦は美弦だしな」
俺も立ち上がって、美弦の正面へと向く。顔を見上げる存在だったが、少し顔を見下ろすような存在となってしまった美弦。
「美弦ってちゃんと言ってくれるのも、お前ぐらいだ。皆おれのこと、天使って言うし……。天使っていう呼ばれ方、本当はあまり好きじゃ無かった。でも、自分を天使って思えば、女になったってことから逃げられると思ったから。……今は別に、そんなこと考えなくなったけど」
あまり弱音は吐かなかったが、美弦は美弦なりに葛藤があったのだろう。……考えてみれば当然のことだ。
そこで一旦美弦が言いたかったことは済んだようで、俺は意を決し核心を突くことにした。
「……なあ、今更なんだが、俺は男だぞ。それでもいいのか? ……俺を好きになるってどういうことか、分かってるのか?」
恋人同士になるということは、男と女の行き着く先。世間では同性カップルもいるみたいだけど、俺たちは少なくとも身体の性別でいえば異性だ。――俺はそう思っている。
「そんなことぐらい、分かってる! ……その、おれは、将来的には、お前と……け、結婚したいと思ってるし……」
「……」
思わず絶句してしまう俺。美弦がよもやそこまで考えているなんて、思いもしなかった。涙目で俺を見上げてくる美弦が、無性に可愛らしくてつい抱き締めてしまいそうだった。
――だけど、このままそうしてしまっていいのだろうか。流れに任せてしまっていいのだろうか。
そうして様々な思いが頭の中を巡り、俺は一つの答えへと辿り着いた。
「あー、うん……美弦の言い分はよく分かった」
「本当? それじゃあ……」
「えーと、その、そうだな……」
★
「え!? 浩輔、美弦の告白断っちゃったの!? 信じらんない!」
翌日。教室で端の席にいた俺にも聞こえるほどの大声で、夏鈴がそう言い放った。無数の視線が俺に突き刺さるのを感じた。……俺は、本を読んで気付かないふりをしていた。
「い、いや、そういうわけじゃなくて……」
「乙女の心を弄んだなんて許せないわね! ちょっと一発ぶん殴って……」
「ちょ、ちょっと落ち着いて! 本当に違うから!」
こちらへと向かってきた夏鈴を、美弦が慌てて制止に入る。
あのとき、美弦から告白されたことに対して、断ったというのは半分正解だ。――卑怯な手かもしれないが、俺の取った手段は……。
「……お試し?」
「うん。気持ちの整理が付くまでは、恋人同士は難しいって。女友達からリセットして付き合いたいって」
あの場の勢いでそうなることもできたのだが、俺はそうはしなかった。
小中とずっと一緒に過ごしてきた友人を、こういう形でそのような関係へと至ってよいのか。自分自身でもはっきりと答えが出ていなかった。
そこで女友達というところからリスタートして、それでもやはりそうなるのなら受け入れよう、そう決めたのだ。
「えー……。二人とも両想いなんでしょ? なんでそんなことするのかしらね……。ヘタレ神父、天使ちゃんみたいに素直になればいいのに」
「う、うるせーよ!」
さすがに腹が立ったので言い返してやった。状況は何も変わらないが。
――神父というのは、最近俺に付けられたあだ名だ。何故そう呼ばれているのか、俺には教えてもらえない。
美弦の方をチラッと見ると、一瞬視線を合わせてすぐに目線を外し、ばつが悪そうに服の裾を摘まんでいた。……いちいち挙動がかわいいので困るのだが。
「いや、断られなかっただけいいかなって。まだ可能性があるんだし」
「美弦も優しすぎよ」
「…………ふふっ、私は優しい”天使”ですから」
「……そこでそれは反則だわ……」
声色を変え、両手を拡げて背中の翼をふわりと羽ばたかせる。神々しさすら感じさせるほどの姿に、夏鈴は白旗を揚げていた。
そうこうしているうちに学校が終わり、下校時間となった。俺と美弦は部活などに所属していないので、一緒に帰ることがほとんどだ。今日も一緒に帰ることになるだろう。
俺は荷物をまとめて、帰り支度を整えて美弦がやってくるのを待った。
「浩輔! 帰ろー!」
美弦の透き通るような声が聞こえるとともに、右腕がふにゅんと柔らかい感触に包まれる。目で見るまでもない、美弦が持つ大きな膨らみを押し当てられているせいだ。
「っお、おい。腕を挟むのはやめろ」
俺は感情を出さずに、淡々とそう口に出した。
このところ、スキンシップというかボディタッチが激しくなった気がする。しかも決まって、胸だとかそういった部分を使ってくる。最近はただでさえ女の子らしさに磨きが掛かってきて、俺としては心が落ち着かないんだが。
美弦は、俺を振り向かせると宣言した。それがどういう意味か、今こうして嫌というほど実感させられている。
“彼氏持ち”の夏鈴が色々と入れ知恵しているようだ。本当に勘弁して欲しい。
美弦はあれから、無闇矢鱈に空を飛び上がるようなことはしなくなった。スカートの下にジャージを穿くこともしなくなった。――それまで隠れていた、肉付きのよい健康的でもっちりとした太股に、つい目を奪われることになった。
「えー? 別にいいでしょ?」
「よくない。普通の女は男友達相手に、こんなことしないだろうが。それに……歩きづらくて仕方がない」
「歩きづらい? ……もしかして、反応してくれてるの?」
そう言ってにししと笑いかけてくる美弦。ぎゅっと身体を寄せた際に、ふわりと靡いた髪から女の子特有の良い匂いがした。……まずい、これはよくない。
あくまで美弦は女友達であって、恋人だとかそんなことは……。
「う、うるさい! 中身はともかく美少女にこんなことされてるんだ、仕方ないだろ!」
「……美少女、かあ……えへへ」
「……っ! 行くぞ」
「あっ、待ってよ!」
――まるで天使のような柔らかい笑みに、不覚にもドキッとしてしまった。
……俺は、いつまで耐えることができるだろうか。顔が熱くなっているのを感じる。俺はそんな顔を見せないように真っ直ぐ前を歩くが、再び右腕に柔らかい感触を得てドギマギすることになるのだった。