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巻の五 本当にイケメン無罪なのか? 1/2

「うわー、十四歳少女を妊娠させるとか引くわー。

 マジでー?

 よくそんなことできるなーこのケダモノー」


「いきなり二十一世紀の倫理観で物を言うなよ……

 ぼくら親が認めた正式な夫婦だしこの時代の結婚適齢期は十二、三だから十四で妊娠って普通だし……

 ていうか平均寿命四十歳だから若いうちからそれくらいキリキリ頑張らないと、うっかり二十代後半とかで子供生まれると本当に四十で死んだとき子供が困る!

 還暦の源中納言さんが何かやたら長生きで晩婚なだけだから!

 ……いやアレだからね、ぼくもこれはっきり書いてないけど十五、六歳くらいの設定なんだよ多分。

 そういうことにしておいてください!

 原典に特に記述ないし!」


「まあわたしも十九くらい?

 原典からして年齢の設定がイマイチあやふやなんだけど……

 じゃお前の妹、何歳で宮仕えを始めたことになるんだ?」


「あっ今から昨日の更新分、〝姉〟に直してくるから。

 女きょうだいの歳の順とか雑なもんだから」


「じゃあそういうことで、メタな次元でポリをコレしておくとして」


「いや喜んでくれよ、あなたが結婚させたんだろ!

 巻の二辺りと態度が違うぞちゃんとしてくれよ!

 夫婦の間に子供ができるってめでたいことじゃないか!」


 なぜだか縁談を進めていたときはあれほど乗り気だった道頼のテンションがここに来て低い。

 扇で顔をぱたぱた煽いで、全然気乗りしない様子だ。


「ていうかお前さあ。

 面白の駒のくせにさあ。

 何張り切って結婚生活とか浮かれてるの。

 冗談は顔だけにしろよ」


 ……テンションが低いというか。

 何だこの罵詈雑言。

 こんなこと言うやつだったっけ。

 ていうか新婚初夜にこれをやられたらどうしようと思っていたのに、何で今頃。

 もう三か月経ってるんですが。


「……前とキャラが違いますよ道頼さん。

 あなたは親戚としてぼくが人並みの人間になれるよう応援してくれているのでは?」


「いろいろあって何かくさくさして。

 ちょっと荒んでいるんだよ。

 わたしも人間だから」


「頼むよ、ぼくにはあなたしか頼れる人間がいないんです。

 妻に子供ができたんだ。

 歌や贈り物を送らなければ。

 ぼくそういうセンスからっきしで。

 モテのあなたのサポートがないと。

 妹はすぐ怒って怖いから嫌なんだ。

 いい服着てご挨拶した方がいいのかな」


「本当に勘弁してもらいたい」


 なぜか道頼は顔をしかめ、頭を下げるのだった。


「わたしにまたあんな歌を作れと?」


「前の歌はそんなに傑作だったのか。

 そこまででなくていいから、パワー八割、いや七割とか六割くらいでいいから。

 あなたのモテ力を信じているから。

 ていうか女の人との日常会話って何を話していいかわからないのでちょっと練習させてくれませんか?

 何ならカンペとか作って?」


「すごいところでつまずいていたんだな。

 ――違うよ。

 あんなひどい歌で女心を傷つけるなんて流石にわたしもまっぴらごめんだ」


 ――信じがたいことを彼は言った。

 ひどい歌?


「あなたが〝からかっているのか、こんなもの送れない〟と突っ返してくるかと思ったのに、まさかそのまま送るなんて。

 うちの親戚にそこまで馬鹿がいるとは思っていなかった。

 文字は書けるのに、機能的非識字とか文脈盲とかってやつなのか?」


「和歌の意味なんかわかる方がおかしいんだよ!」


「いや、平安人なんだからわかれよ。

 生まれてから今の今まで本当に寝てばっかりいたのか?

 こういう意味だよ」


 世の人のけふのけさには恋すとか聞きしにたがふ心地こそすれ


 世間の人は恋人と一夜をともに過ごすと「もう恋する前には戻れない」とか「あなたを知らなかった頃のわたしは人間ではなかった」とか「苦いレモンの匂いが」とか言い出すらしいけど、そういう感じしないわー。

 恋愛ってこーゆーもんなんすか?


 たままくくずの=秋萩(あきはぎ)の玉まく葛のうるさうるさ我をな恋ひそあひも思わず


 萩に葛のつるがまとわりつくように鬱陶しいのでわたしを恋い慕ったりしないでくださいね!

 いやもうマジ無理。


 説明されて愕然とした。


「ど、どうしてそんな歌を?」

「だからあなたが気づいて別のを寄越せと言うと思って」


 まるでぼくが悪いかのようだ。

 こんな暗号を解説なしでわかれって無理言うなよ平安人。

 七文字にどれだけ情報圧縮してるんだよ。


「冗談のつもりだったのか?」


「まああちらの家ではさぞ嘆いたろうね。

 かわいい末の娘の新枕(にいまくら)、その後朝にこんな歌が送られてきたら。

 てっきり結婚を取りやめるのかと思ったのに、どうして続けたんだろうね」


「ひ、ひどいじゃないか! 人の人生の一大事に!」


「あなたを知らなかった頃のわたしは人間ではなかった」――そう書いてくれればよかったのに!


 ……あれ。これってまさか。

 中納言家でご飯や着替えが出なかったのって。

 こいつの歌のせいで総スカン喰らってたの? ええ?


「ひどいのはどっちだ」


 だがなぜか、道頼の方が恨みがましく目を細め、冷たい眼差しでぼくを見るのだった。

なお、四の君の返歌

『老いの世に恋もし知らぬ人はさぞけふのけさをも思ひわかれじ

 くちをしうとなむ、女は思ひきこゆる』

は、こういう意味です。


『年老いてなお恋を知らない無粋な人なら事後のせつない気持ちとかわからないんでしょうね

(若くてモテのあなたは違うでしょう?

ツンデレなんですよね?

普通に愛してるとか何とか言ってもつまんないから奇をてらったんですよね?

モテならではの高度な駆け引きなんですよね?)


残念だと四の君は思っております』


四の君はショックで寝込んだので母親が代筆しました。

ちなみに父中納言は老眼がひどくてこの手紙を読んでいません。

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