巻の一 vs.コミュ力モンスター (2/3)
また父が「うちのヒキコモリのせがれに何とか言ってやってくれ、わたしが言っても聞きやしない」とか何とかほざいて引っ張り込んだのだろう。
どこの女に縫わせたのか色鮮やかで繕いのよい衣をまとい、雅な香を漂わせて。
――イケメンはいい匂いがするのだ! 一緒にいると息が詰まる! こんなうんざりすることがあるだろうか!
「本当に昼なのに寝ているのですね」
ずけずけと人の家に来て言う言葉がこれだ。先触れの者がやって来て「御曹司、お客さんですから起きてください」とか言ってくるのを無視して寝ていたら、こいつ、図々しく寝室にまで入ってきたのだ。親戚だからって馴れ馴れしくないか。仕方がないから起きて顔を洗っていると、
「寝てばかりで暇ではないですか? お話をしたり歌を詠んだりしませんか?」
うるせえ放っておいてくれ。平安パリピと話すことなんかねえよ。
――と言えればどんなによかったか。別に気遣われずとも無限に寝ていられるし和歌なんか詠んでられるか。
「……歌は苦手で」
と短く返すだけで精一杯だ。
「たまにはうちに遊びに来ないのですか?」
お前が嫌いだから嫌なんだよ!
何が嫌って昔の歌物語になぞらえたたとえを使った雅な平安ハイコンテクスト話法。「昔はものを、と申しますように」とか、全人類が全員、百人一首やら万葉集やら古今和歌集やらを全部丸暗記しているのを前提とした会話。参加できないとバカだと見なされる。
こいつに限らず一事が万事その調子。このハードルの高さ。平安時代を生きるのに向いていない。マジで。
「……女房などに笑われるので……」
「笑わせておけばいいではありませんか」
お前が笑われるんじゃないんだから何とでも言えるよな!
いいよな、生まれつき顔のいいやつは。
それはこいつは漢詩を諳んじたと言っては褒められ。
和歌をひねったと言っては褒められ。
何とかの舞いが上手かったと言っては褒められ。
褒められたことしかない人生なんだろうよ。父親は大臣だし母親も美人で心が広くて皆キラキラしてて。
「知らない人の家じゃないんです、うちなんか気楽に来れるでしょう?」
内裏の次に嫌なのがお前んちだよ!
共通の話題なんかないくせに無理に話しかけるものだからおかしな空気になる。ああ息苦しい。そもそもこっちは顔洗っただけでまだ寝間着なんだって。早く帰ってくれ。
その挙げ句このイケメンが次に何を言い出したかというと。
「あなた、結婚しないんですか?」
できるかボケナス。厭味で言ってるのか。
「独り寝には慣れたよ」
「一生独り寝のままでいいんですか?」
うるせえお前に関係あるか。生殖なんかお前みたいなパリピがすればいいんだ。
「それは誰か紹介してくれればいいけど」
「ではわたしが紹介します」
「は?」
正直、話を逸らしたかっただけだった。それだけなのに。
道頼はぬけぬけと言い放った。
「わたしに来た縁談なのですが、中納言家の四の君、十四歳の美少女です。これをあなたにお譲りしようと」