終わりの巻
さて物語のおしまいがどうなったかと申しますと。
道頼の左大臣さまは太政大臣となり位人臣を極められ、落窪の君の御子たちは無事元服して立派な公達になり、姫君は新帝の妃となり中宮となったそうです。
四の君は筑紫に渡り、幾年かを過ごした後に無事、都に戻られました。
帥中納言さまは大納言となり、その後も仲睦まじくお暮らしであったとか。
兵部少輔さまは重い病を得て出家し、法師になったそうです。
それ以上の話を誰も知りません。
歌に歌われず、物語にならないとはそういうことでした。
もしかしたら普段乗らない馬に乗って落ちたのかもしれませんし。
帥中納言の従者たちに袋叩きにされて寝込んだのかもしれませんし。
重い病の真相はそのようなものであったのかもしれませんし。
そもそも道を間違えるなどして一行に出会えず、のこのこ都に帰ってきて落胆しそのまま寺に入ったのか。
たどり着いたのに、必死で訴えたのに、四の君に言葉が届かなかったのか。
あるいは密かに舟に乗り込んで片隅に隠れ潜み、筑紫に渡ったのかも。
身分を隠して帥の邸で下働きなどしていたのかも。
もっと予想もつかないとんでもない場所に行ってしまって姿が見えないのを、ついに寺に入ったのだろうと思われたのかも。
何せ都に彼のことを気にかける者などもう誰もいなかったものですから。
彼の本当の名を知っている者などいないほどです。
例によってお心弱き四の君は流されるまま攫われてしまって、女房か誰かを替え玉にして取り繕っていたのかも。
世間体を気にする方々ですから。
意外と姉思いの近衛の少将などが助けてくださったかもしれませんし。
落窪の君の女房のあこぎなどは、二百歳まで長生きしたそうですよ。
四の君が筑紫に向かいお戻りになられたかどうか、兵部少輔さまが本当に法師になったかどうかなんて、わかりっこないと思いませんか。
さてここにもうお一方。
四の君の姫君は、母君似でありました。
それは美しく成長なさったことでございましょう。
何者か知れないと言っても麗しい姫君の噂は世間に漏れてしまうものです。
かつて落窪の君が噂になったように。
なよ竹のかぐや姫のように。
彼女を巡って都中の男君たちが相争ったかもしれません。
そうはならなかったかもしれません。
かの姫君は貧しくとも父母に愛されて育ったかもしれません。
あるいは今度はかの姫君が、落窪で帥中納言の子らの衣を縫っていたかもしれません。
かの姫君の父御は人ならざる石山の観音さまだったかもしれません。
姫君は朝な夕なに父君の形見の黄金の州浜を眺めておられたかもしれません。
いずこかで己の数奇な運命を知り、義理の父のようにふるまう太政大臣に復讐なさったのかもしれません。
あるいは仇とも知らぬまま、大臣の妻となったかもしれません。
再び大臣は落窪から姫君を盗み出したかもしれません。
両方ということもありえます。
今となっては誰にもわからないことでございます。
今は昔。
人々が、三十一文字のお歌でその心を語っていた頃のことでございます。




