第6話 さっそく抜け出そうとするのってありですか?
side環ヶ崎 照輝
「…効いちゃった」
感動の再会を果たした3人と突然の初代勇者の出現にざわつく周囲を尻目に呆然と呟く。
『森羅万象』で魔力の最大値を変換した【魔力耐性貫通】【上級幻術】【上級純魔術】で、大幅に弱体化しているとはいえレベル:20は格上の相手を簡単に罠に嵌めることができてしまった。
しかも、それぞれのスキルには【魔力耐性無効】【超級幻術】【超級純魔術】とさらに上がある。
感覚的な話になると、このさらに上もありそうだし、現在でも魔力的に少しは余裕がある。
それに俺の魔力量にも、『森羅万象』の魔力変換効率にも、まだまだ余裕で成長の余地が感じられることを考えると、最終的に俺はどうなってしまうんだろうか?
「うーん…、まあ、どれだけ強くなっても俺は俺だし、関係ないか」
結局は俺の心の持ちよう次第、『森羅万象』がどれだけ逸脱した力でもそれを使いこなしてこその俺だし、考え込むのが良い事とは限らない。
なら、俺は俺らしく自分の矜持通りに生きていけば、まったく関係ない話だ。
それよりも…、
「先生、背中に貼った来栖のメモに気付くかな?」
誘導中に背中に貼って、軽めの【幻術】で隠してあるメモに夢見坂先生が気が付くか心配だった。
「初代勇者様、教皇猊下、聖女様、談笑するのはよろしいですが、丁度、説明は終わったことですし、勇者様方を用意した部屋に案内してはいかがですか?」
と、そこで後ろに控えていた赤い神官服の少女が談笑を始めようとしていた3人に進言を行った。
アレイシス神聖国側と召喚勇者側、それぞれがそれぞれの理由でざわつき、収拾がつかなくなっているから、一旦、落ち着かせるために解散するつもりなんだろう。
「ふむ、確かにそれもそうだな。よし、侍女長、執事長、それぞれ護衛として数人の騎士を連れ、同性の勇者たちを案内してくれ。デリケートな部分の質問もあるだろうから、同性の方がなにかと相談しやすいだろう」
「「畏まりました」」
「それと勇者たちよ。お前らには一人一人に専属の従者をつける。要望があれば、遠慮せずにそこの二人に伝えよ」
そして、教皇の言葉を最後に俺たちはそれぞれの従者長にそれぞれの部屋へと案内された。
…ん?俺はどうしたかったって?
それはもちろん、『森羅万象』で魔力を【性転換】に変換して、一時的にもとの姿に戻ったよ。
ちなみに、なんかこのスキルへの変換は、やたらと魔力の最大値を削って、丁度いい手加減用のスキルにもなりそうだった。
ところ変わって、案内された王城の一室。
「さてと、まずは…」
…どうやって、抜け出そうか。
早速、俺はここから抜け出す算段をつけ始めていた。
どうせ、クラスメイトたちは遅かれ早かれ、そのうち、ここから抜け出す。
それこそ、早ければ明日の朝にはすでにここから抜け出していても不思議じゃないと断言できるほどに。
というか来栖のメモに、明日には抜け出すから見逃して欲しい。という旨が書かれていたから、確実に一人は抜け出すのはわかっているからね。
それはそれとして、俺は俺で抜け出す算段をつけないといけない。
トラブルに自分から首突っ込んだり、巻き起こしたりするならともかく、巻き込まれるのは性に合わないんだよ。
「うーん、どうしようか」
スキルを最大限活用するのは確実として、どのスキルを使うのか、かなり悩む。
脱走に使えそうなスキルは、【隠密】【地図】【諜報】【察知】【誘導】【罠感知】【忍び足】【上級忍術】【立体機動】【壁面歩行】【静音移動】etc.etc.と、結構な数が存在する。
そのなかで今回使えそうなのは、対象の気配を希薄にする【隠密】、王城内を把握する【地図】、周囲の気配を探る【察知】、王城内の警備を調べる【諜報】、王城内の罠を回避する【罠感知】、足音を抑制して痕跡を薄くする【忍び足】、行動可能範囲を広げる【立体機動】および【壁面歩行】、さまざまな方面で役立つ【上級忍術】、移動にともなう動作音を小さくする【静音移動】といったところだと思う。
さらに、そこへと今日中に抜け出すことも考えると【諜報】を外すことはできそうだけど、今度はさらなる機動力を確保するために【縮地】と【跳躍】、あと【韋駄天】が欲しくなる。
「もういっそのこと、【隠密】に賭けて機動力の高いスキルで脱出しようかな」
そうすると候補に挙がるスキルは、【縮地】【跳躍】【韋駄天】【立体機動】【壁面歩行】、ついでに純粋な強化として【身体強化】といったところだろう。
そんなこんな時が経ち、日が暮れ、ついに夜がやってきた。
「さて、そろそろ脱出決行だね」
部屋まで運ばれた美味しい料理を堪能し、夜の帳が完全に降りた時間帯、俺は一人、夜の闇へと紛れて、行動を開始した。
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