第11話
ギルド内に入って猫娘と話を進める。
「なるほど、さっきの大剣が急に動き出したんだ」
「はい、そうなんです。迷宮で見つけたものだったので、今から鑑定屋に持って行く予定だったんですけど、その前にいきなり動き出して…」
「それで、咄嗟に迎撃したと」
「はい」
適度に相槌を打ちながら話を進めれば、少女はそう話してくれた。ギルドの中に視線を向ければ、それが事実であることを示している首肯が返ってくる。
少女が嘘を話している様子はなかったけど、念の為にギルド内の反応を伺ってみたが、そこには肯定的な反応のみがある。どうやら少女の言葉に嘘はなく、同時にギルドから一定以上の信頼を得ているらしい。
そうでもなければこんな明らかな面倒ごと、誰だって反応しないだろう。
「ちなみに原因は…?」
「その、それが分からないんですよ。魔剣の類いでもなければ、彷徨う剣の類似種でもないですし、だからって純属性魔術の生成物でもないですし」
「うーん、来栖はなにか心当たりがあったりしない?」
そう言って、ちらりっと来栖に視線を向ける。
来栖は顎に人差し指と親指を当て、深く考え込んでいる。それは来栖の記憶を辿っている時の癖だ。
これを見るに、どうやら心当たりがあるみたいだ。
「…俺が直接見たわけじゃないから、これが本当かは分からないが、確か神装クラスの装備の近くにある装備は、その装備の影響を受けて魔剣でもないのに特殊な能力を持つことがあるって話を聞いたことがある」
「だってさ、その…神装?ってのが、近くにあるかもしれないんだって」
「ええっ!?神装、神装って本当ですか!?」
来栖が出した答えに、その少女は猫耳をピンッと立てて、大きな反応を示した。
そして、その大きな声を聞いた周囲の冒険者たちも俄かに騒がしくなる。
そんな中、扉の破れたギルドの入り口から明るい茶髪の少女が慌てた表情を浮かべてギルド内に走って入ってきて、そのまま俺たちの方…というより猫娘の方に向かって来る。
「リーネ!ティーアとソーリナが見つからないのっ!帰りが遅いから心配になってヴァレナと探してるんだけど、そしたらさっき行くって言ってた商店街にも来てないらしくて!」
「カティア、落ち着いて下さい。ティーアとソーリナは、そんな簡単にどうにかなる人たちじゃありません。まずは街の人たちに聞き込みをしましょう」
慌てて駆け込んで来た少女の言葉に、雰囲気を真剣なものに変えた猫娘…リーネと言うらしい…は、茶髪の少女を冷静に落ち着かせると、先に捜索に向かわせてた。
それから振り返り、俺たちに頭を下げて来る。
「すいません!こちらのパーティーでトラブルがあったみたいです。それで、その…を」
「気にせずに行って来ていいよ、もともと私たちは気にしてないから。来栖も良いよね?」
「ああ、別に良いぞ、こいつの言う通り俺も気にしてないからな」
「ありがとうございます!あの、今度のわたしに何かお詫びさせて下さい。そうじゃないとわたしの気が済みませんから」
そう言うと、「失礼します!」ともう一度頭を下げ、俺たちの返事も聞かずに出て行った。
どうやら、彼女の中でお詫びをするのは決定事項らしい。
俺と来栖は顔を見合わせて、苦笑いし合った。
「さてと、どうしよっか?」
「どうするも何もまずは冒険者登録…、と言いたいところだが、この様子じゃ無理か」
冒険者登録をしたいところだけれど、さっき来栖が齎らした情報でギルドのカウンターにギルド内に居た冒険者たちが殺到して情報を求めているから不可能になってしまっている。
神装がどのようなものか知らないけど、大騒ぎになるには十分なほどには大物のようだ。
まあ、名前に神って言葉が入ってるくらいだから大物なのは当然かもしれないないけどね。というか、それで大したものじゃなかったら詐欺もいいところだ。
「うーん、いっそのこと登録なしでその迷宮行ってみよっか。さっきから聞こえくる情報で迷宮の名前は聞こえてくるしさ」
「…お前、良くこれだけ混雑した中で聞き分けられるな。俺は声に声が被って上手く聞き取れないんだが?」
「まあ、これは聴力というより情報処理能力の問題だからね。頭の良い脳筋な来栖には無理なんじゃないかな」
これはどれだけ反射神経が良くても、ただ聴力が良くてもなかなか難しいんだよね。
俺みたいに並列思考が使えるならともかく、ただただ頭の回転速度が速いだけの来栖じゃなかなか難しい。
あ、そういえば『並列思考』なんて異能力もあったんだった。
いつもより楽なような気がしてたけど、もしかしてからも補助もあるのかな?
「そうなのか…?まあ、大したことじゃないし、いいか。それで名前が分かったのはいいがどうやって向かうんだ?まさか、住民に聞き込みでもするのか?」
「それこそまさかだよ、来栖は私の異能力がなにか忘れちゃったの?『森羅万象』は万能だよ」