第10話 いきなりトラブル遭遇ってありですか?
喫茶店を出た後、早速【性転換】スキルを魔力に還元する。その様子を来栖は興味深そうに見ていたけど、さくっと無視して、俺の分の服と装備一式を作ってもらった。
「よしっ、サイズは良さそうだな。簡易の"快適調整"はかけたから大丈夫だと思うが、違和感とかあったら言ってくれ」
「うん、大丈夫。全然違和感なんてないよ。むしろ、快適で着心地が良い」
来栖が魔術で作ってくれた服は俺の身体にあっていて楽だ。
魔術による効果らしいけど、これは下手な寝巻きよりも快適かもしれない。
「そうか、それは良かった。得意分野でダメ出しされたどうしようかってめっちゃ緊張したぜ」
「ん?得意分野なの?服作りが?」
「いや、服作りというよりか、こういう属性を使わない魔術が得意なんだ。俗に言う、純属性魔術師ってやつだな。まあ、純属性なんていうけどこれ、属性として定義されてないし、魔力操作の延長みたいなもんなんだけどな」
「へぇー、そうなんだ」
純魔術の存在はあの神さまっぽいのの説明になかったから不思議だったけど、あれって属性として定義されてなかったんだ、納得。
んー、こんなことなら、魔術っぽいやつの資料も解読しとけば良かったかも。
「まあ、基礎魔術だろうが、特殊魔術だろうが、魔術に関しては結構詳しいから、気になることがあったら聞いてくれ」
「了解、助かるよ」
【魔術知識】シリーズじゃ、その属性の一般的な魔術の知識とか使い方とかしか知らないみたいだから、専門知識を教えてくれるのはかなり助かる。
うー、それにしてもこっちに来てから来栖には色々貰い過ぎている。喫茶店のは昨日のお礼ってことで奢ってもらったけど、服とか装備なんかのお礼はできるだけ早いうちにしよう。
「さて、照輝、そろそろ行こうぜ。冒険者ギルドはどっか行くわけじゃないが、割りの良い依頼はすぐなくなるだろうからな」
「あー、それもそっか。ゲームじゃないもんね」
「そうだな。まあ、だからって楽しむ心を失うのは無しだけどな。現実ってのはあんまり意識しすぎるもんじゃない…って、さっさ行ってんじゃねえよっ!」
語っている来栖の話を無視して先に進む。
それにそのくらいは分かってるって、そもそも俺からすれば来栖と居られる楽しいんだから、楽しむ心を失うなんてことはあり得ない。
だからそんな未来、来栖と合流できた時点で無くなっているんだよ。
「さっさとしないと置いてくよ。依頼、早く行かないと無くなっちゃうんでしょ?」
「あー、もう分かった、さっさと行くぞ。というか、お前、ギルドの場所知らないだろ」
「うん、だから案内よろしくね」
後ろで手を組んで、くるっとターン、美少女だから許されるあざとい動作でそう言った。
「照輝…」
「ん?どうした、俺に惚れた?」
「あざといな、お前」
「………もうちょっとマシな反応なかったっ!?」
「いやだって、さっきまで男の照輝を見てたんだぞ。いくら可愛くとも普通の反応とかし辛いわっ!」
その反応には、ごもっとも、と頷くしかなった。
ま、まあ、とにもかくにも俺たちはそんな気兼ねのない会話をしながら、冒険者ギルドに向かった。
ドガァァァン
「『怪力無双』ッ!」
ギルドの扉を開けるなり飛んで来た金属質の何かを来栖が腕を突き出し、木っ端微塵に粉砕する。
文字通り木っ端微塵になったからそれがなんだったかはわからないけど、シルエットは大型の剣のように見えた。
「な、なんだったの、今の」
「さあな、ただ、別に俺たちを狙った訳じゃないみたいだぜ」
来栖はそう言って前方…つまり、ギルドの扉の先、ギルドの中を指差した。
そこには、何かを殴ったような姿勢で固まっている少女の姿、その少女には猫耳と猫尻尾が生えていて、焦った表情を辺りに晒していた。
「あ、あのっ、だ、大丈夫ですかっ!」
「ああ、大丈夫だ。別に気にしなくていいぞ」
「お、お連れの方もご無事で…?」
「私も大丈夫だよ、相方が守ってくれたから。気にしなくて大丈夫」
さてと、早速俺は少女の演技を始めよう。
なぜか来栖が驚いたような表情を晒しているけど、無視。流石に違和感があるだろうから元々の一人称の俺は心の中だけで使おう。
とまあ、それは置いておいて俺は完璧な演技でもって少女らしい笑みを浮かべて、猫耳の少女に話し掛ける。
「それにしてもなにがあったの?いきなり大剣が飛んで来るなんて尋常じゃないよね」
「あ、えっと、そのー」
そして少女はなにがあったのか喋り始めた。