幕間②
荒い息づかいが室内に響いている。
小さな部屋の中には自分の他に男が五人、ニヤニヤと卑下た笑みを浮かべながら自らの欲望をぶつけ、自分を見下ろしている。
苦痛と屈辱。
最初は嫌で悔しくて涙を流すことしか出来なかったが今では感情を止める事で、早く終わってほしいと思うまでに少し余裕が出てきた。
彼らとて人形を相手にいつまでも欲情したりしないだろう。
そう思っていたとき、ふと窓の外に視線を向けた。
都会、と言うほどでもないが街の光が空に浮いている星々の光をかき消している。
特に見ていても大して何も感じない。
だが、何故だか分からないが窓の外の世界から視線を外すことが出来なかった。
感情を止めていたはずの自分が自然と涙を流していることに気づいた。
もう〝自分〟という存在が保てなくなってきている。今にもバラバラになってしまいそうだった。
「よォ、どうすっべ? 〝コレ〟」
いつの間にか行為を終えていた男たちが一服しながら部屋の隅での会話が耳に届いた。
「そーだなぁ。なんか〝コレ〟にも飽きてきたし……………………次の探すか?」
「いい考えあんぜ! 〝コレ〟に友達なり誰なり呼ばせようぜ。で、そいつもヤるってのはどうよ!?」
「うわーお前鬼畜だなー」
ギャハハハハハ、と今の会話のどの部分に笑い要素があったのか不快で下品な笑いが部屋中に響き耳に障った。
言われ放題やりたい放題と、それまで感情を止めていた筈だったが不意にドロッとしたモノが自分の中に溢れる様に出てきた。
悔しくて、苦しくて、頭が割れそうな程の痛みと全て込み上げて来る吐き気が一気に襲ってくる。
そしてある感情が芽生えてきた。
それは純粋な“殺意”――――――――――――――――――――。
ころ、す。
殺して、やる。
何故こんな目に遭う私が何をしたと言うのこんなのあんまり酷過ぎるどうしてなんでいやだこれはわたしじゃないコイツらなんでわらってられるのムカツクシネバイイしねシネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺して殺す殺して殺しつくしてやるやってヤってヤッてヤッテ無惨に無駄に無様に――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
真っ赤でドス黒い感情。何をしたいのか、するべきなのかを頭で思い描いていた。
例え刺し違えてでも、そう思っていた。
そして、
〝それ〟は起こった。
「お手伝い、致しましょうか?」
片眼鏡にシルクハット、燕尾服にステッキと貴族のような出で立ちの男がいた。
「貴女の、願い、叶えましょう、か?」
どこか機械的な声質なせいか、老人にも少年にも青年にも聖人にも悪人にも感じる男は貼り付けたようなツギハギだらけの笑顔を向けてくる。
その奇妙な笑顔もそうだが、全てに置いてこの紳士に疑問が残る。
何故この紳士がここにいるのか?
何故この紳士が居たことに自分は気付かなかったのか?
何故“今でもこの紳士の存在に誰も気づいていないのか”?
色々な疑問が襲う中紳士は問うてくる。
「貴女は今、彼らに復讐したいと、思って、いますか?」
したいに決まっている。
「ならば、願いなさ、い。どうしたいかを」
でも反撃されたら?
「そうさせる、気を、起こさせなければ、いい」
どうやって?
「“力”を、お貸し、します、よ」
本当に?
「ええ、勿論、で、す」
だったらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「わか た。では、 を、教え 」
そして、ボロ雑巾のように扱われていた少女が立ち上がる。
ただし、先程までのか弱い面影はなく狂気を凶器に変え狂喜する。
さぁ、始めようーーーーーーー甘美なる『復讐』を。