序章「日常~いつもの日々~」
初めてホラーものを書きます。
このもちろん現実的な話も含め、みなさんに楽しんでもらえれば何よりです。
では、お楽しみ下さい。
冒頭ではあるが、十月洸は何かと呪われている。
今朝も寝過ごしテンプレートのようにパンをかじって曲がり角でぶつかりその相手が可愛い娘ちゃんだったらフラグが立つのだがぶつかった相手が四月の温いようで肌寒い時期なのにアロハシャツを着ているチンピラ風の方々だったり追いかけられて逃げ切ったと思えば定期を忘れ数少ない小遣いをはたいて切符を買い急いで乗り込んだ先が女性専用車両で周りから突き刺さるような視線を頂いた上にブーイングを受けやっと学園前にたどり着いたと思えば将軍と恐れられている先生が門前に待ち構えておりと何かと今日この日はもう詰んだなぁと将軍に説教を受けながらそんなことを思っていた。
「まぁ、今日がここまでツイてないんなら多分これ以下はないだろうなぁ」
「十月ィィッッッッッッッ!! 人の話を聞いとるンかぁッッ!!」
「ひぃぃぃっ! 聞いてまーす!!」
これが十月洸の日常であり、なんでもない普通の日々だった。
そして、そんな彼はこの静森学園の名物のようなものなので色々な視線が彼に向けられていた。
ある者はまたやってるな、と友人を見るような目で。
ある者は心配そうに事の顛末を見届ける目で。
ある者は風景の一部として無感情に。
ある者は目立っていることが面白くないような目で。
そして、
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
ある者は、彼を観察していた。
学園の屋上で何かを見定めるかのように無言で十月洸という少年を見つめていた。
「まーた今日も遅刻ッスか? 新学年早々に将軍に見つかったのは痛手ッスねぇ」
特に心配しているような素振りを見せずただ手にしていたゲームをピコピコと操作しながら柊楓はどうでもいいように声をかけてきた。
「うっせー、それより幼馴染みだったら少しは心配しませんこと? 幼馴染みってのは普通起こしに来るのが相場ってものですよ?」
「わたし理系女子ってやつなんでね。そんな相場は知らないッス」
バッサリ切り捨てた楓は「こんぷり~と」と呟きゲーム機を置いて体を伸ばす。
ボサボサの髪を無造作に伸ばし放置しているせいか目元が隠れていて学園で誰も見たことがなかった。
本人はリケジョと言っていたが掛けている眼鏡は“度を抑えるために掛けている”らしく裸眼での視力は両目とも良好なのだ。
「そして身長とスタイルは年相応に見えなくてとても残念だッッッッッ!?!?」
「心の声が丸聞こえッスよコー。誰のスタイルが小学生ッスか?」
いつの間にか心の声が漏れていたらしく楓が手にしていたゲーム機を顔面で受けるという洗礼を受けることになってしまった。
「カエちゃん、乱暴はダメですよぅ」
二人のやり取りを見ていた同じクラスメートの天垣燈花は遠慮しがちに止めに入った。
「いいんッスよ、トーカ。コーにはこれぐらいしても反省しないッスから」
二人は中等部からの知り合いらしく人付き合い皆無の見本のような楓とはよく遊んでいるのだ。その理由が彼女の趣味が関係しておりーーーーーー。
「あ、そういや昨夜見たぞ。燈花オススメの『花盛りの彼女たちが目が覚めたときそこは異世界に転生していた日常』っつーの? 長いタイトルで覚えづらいけど面白かったな」
「あ、見てくれたんですね♪ 今期の深夜アニメ枠じゃすごく期待値が高いんですよ、『花カノ』」
燈花は所謂腐女子というもので趣味のこととなるとかなり饒舌になる。そのせいなのかどうなのかは分からないが楓とは何故か気が合うようなのだ。ちなみに楓はあくまで理系女子なので深夜アニメよりも科学的なものが好きなので会話はほとんど噛み合うことはない。
「異世界転生モノとはよく言うよな……流行ってンの?」
「はい! 凄い人気でネット上ではもう反響も凄くて何が凄いかといいますとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
こうなれば燈花の独壇場でチャイムが鳴るまで続くのだ。
「それよりコー」
「あん?」
燈花の熱弁を余所に楓は低いトーンで話しかけてきた。
この声のトーンの時はあまりいい話ではないのが多い。
「また永城くんが血眼になってコーを探してたッスよ? まーた喧嘩でもしたんッスか?」
「うわーい! やっぱ嫌な予感した!?!? バンが来ると面倒なんで隠れてもいいですか? っつーか次の授業フケる!」
「次は撫子女史の授業なんでフォローは無理ッスね。そして永城くん、さっきからコーをロックオンしてるんで補習は免れなさそうッスよ」
楓が指差す方を振り向くと二メートルはあろう巨体が教室の扉の前で陣取っていた。
「かーみーなーしー…………ケンカァ、しようじゃねぇか」
「ギャース!! 俺次は撫子女史の授業なんでお引き取り願いまーす!!」
「知るかァッッ!!!!」
十月洸は何かと呪われている。
今朝も寝過ごしテンプレートのようにパンをかじって曲がり角でぶつかりその相手が可愛い娘ちゃんだったらフラグが立つのだがぶつかった相手が四月の温いようで肌寒い時期なのにアロハシャツを着ているチンピラ風の方々だったり追いかけられて逃げ切ったと思えば定期を忘れ数少ない小遣いをはたいて切符を買い急いで乗り込んだ先が女性専用車両で周りから突き刺さるような視線を頂いた上にブーイングを受けやっと学園前にたどり着いたと思えば将軍と恐れられている先生が門前に待ち構えておりと何かと今日この日はもう詰んだなぁと将軍に説教を受け、更には学園でも一番恐い教師の授業を中等部からの喧嘩仲の永城万里に追いかけられる為にサボり補習を受けなければならない。
チャイムが鳴りそれと同時に「席に着けー。出欠を取るぞー」と我らが最恐の教諭、渡浦撫子女史が教室に入ってくるのと永城万里がその巨体で洸に襲いかかってきたのはほぼ同時だった。
「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!?!?」
十月洸は女性のような悲鳴をあげると窓から飛び出しそれに続いて永城万里も飛び出した。
「んぉ? 十月と永城はどこ行ったァ?」
「二人ともたった今窓から脱走しましたー」
「ここ三階だが……まぁあの二人なら怪我はせんか。それよりも私の授業をサボるたァいい度胸だなアイツら」
「なっちゃん、天垣さんがまだ現実に戻ってきてませーん」
「なっちゃんと呼ぶな。そして天垣は戻ってこさせろ。授業を始めるぞ」
色々とカオスな教室だがこれが日常だった。
そして、
そんな日常を冷たい目で見下ろす視線があった。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
その者だけが非日常であり、これから起こる非日常の始まりに過ぎなかった。