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21「頭に叩き込んでおきなさい」

次の日の朝リッカはウェルネシアの声掛けで目を開けた。

見えるのはいつもと同じ白い天井。

記憶があるのは椅子に座っている所までなのだが、こうして横たわっているのだから無意識にベッドまで戻っていたのだろう。

鈍く痛む頭を押さえながらウェルネシアの差し出す制服に着替える。

適当に朝食を咀嚼しながら、髪の支度をさせる。

物臭メイドはいつもの通り簡単な一つ結びを作り上げる。

たったそれだけの事だというのに傑作を創り出した巨匠の様な顔をする。

そんなメイドを伴ってリッカは自室を出る。


廊下を通れば、ひそひそ声がリッカを中心に湧き上がる。

父王が暴露した女神の預言。

それは城中に広まっていた。

元々愛情のこもる温かな目を向けられていた訳ではなかったが、冷たい蔑みの目へと変化していた。

これを城下や学院で向けられないのは、あのやり手の宰相様が緘口令を布いているからだろう。

けれどいつかは国中に広まる。

リッカは確信していた。

人の口に戸は立てられない。

むしろ今の今まで広まっていない方が奇跡に近いのだ。

沢山の冷たい視線が体中に突き刺さるのを感じながらリッカは堂々と廊下の真ん中を歩く。

事実彼女は何もしていない。

ただ生きているだけ。



「おい、リッカ。お前はこれからどうするんだ。」

颯爽と歩くリッカの前に立ち塞がるのは弟のフェイネル。

それを一瞥もせずに無視して足を動かし続ける。

「リッカ、待てよ!」

「待てません。お姉ちゃんは学院に行かなくちゃいけないんですー。」

とっとと剣の稽古に戻りなさい。

稽古の時間でしょ。

そう言いながらしっしっ、と手を振る。

「稽古はもう終わった!だから、リッカ、」

それでもなお子犬のように纏わりつく。

「そもそもフェイ、質問の意図が分からないんだけど。

これからどうするって?決まってるでしょ。」

「リヒト兄様を手伝うんだよな。やっぱりあの人が一番王にふさわしいからな。」

良かった、と安心したように笑う弟。

無表情になったリッカは突然立ち止まる。

「どうしたんだ、リッカ。」

「フェイあんた、自分が王になるっていう選択肢はないの?」

まだ自分より身長が低い弟を見下ろす。

「ある訳ないだろ。俺なんかただのお飾りの第一王子だしさ。」

「そう。ならあんたの頭に叩き込んでおきなさい。

・・・王に一番相応しいのは私だってね。」

後半部分を弟の耳元で囁く。

「は?」

あまりにもとっぴょうしもない言葉に、フェイネルの目が丸くなる。

「は?」

「じゃあね。」

目を白黒させる弟にばーか、とでこピンを食らわせて、リッカは髪を翻して歩き出す。

「おい、リッカあああああ?!」

漸く言葉の意味をちゃんと理解したらしい弟の声が後ろから飛んでくるが、それは華麗に無視して城の裏門に向かう。

今日は珍しく裏門にも警備兵がちゃんといた。

駆け落ち事件があって城の警備が強化されているのだろう。

警備兵は一度見たら忘れないような色男だった。

その色男はリッカ達が通るのに気がつくと、板に付いた敬礼を向けてきた。

それに対し会釈を返すリッカだったが、その警備兵の目に見覚えがあった気がした為、門を通過してから振り返った。

「姫様?」

突然立ち止まる主人に首を傾げる。

「いや、なんでもない。」

気のせいか、と姿の見えない警備兵の事は頭の片隅に追いやって前を向く。





「おはよう、アイル。」

「おはよう、リッカ。」

普段通りリッカはセティの隣に座る。

「今日は何をするつもりなのかな。」

「そうね、特には何もしないけど次はフォルトナかな。」

「ライラント王国か。」

フォルトナの母国を口にする。

「ご名答。ただ、彼女の国の王様は父上と仲良しだからね。あの人を尊敬してるみたい。

趣味悪いな。」

王様は結構良い人なんだけど、と呟く。

「僕みたいにうまくいくかな。」

「どうだろう。元々王様に期待はしてない。

期待してるのはフォルトナ自身かな。」

「怖いね、リッカは。」

「怖くなくてどうするの、私は頂点に君臨する王になるんだから。」

当たり前でしょ、と言い切る。





昼休みになって、リッカはセティに先に食堂に行っておく様指示した。

ウェルネシアにもだ。

教室を飛び出していくリッカを見送った仲の悪い2人は、顔を見合わせて溜め息をつく。

「これ、君と仲良くなれっていうメッセージかな。」

「そうでしょうね。余計な事を。」

舌打ちするウェルネシア。

「奇遇だね、僕も同意見だよ。」

「それはようございました。光栄です。うふふふふふ。」

まったく光栄と思っていない顔で笑う。

「そうだね、ははは。」

セティも笑うが、その目は笑っていない。




残した2人がそんなことになっているとはいざ知らず、リッカは校内を走っていた。

フォルトナの教室に行ったが、図書室に行ったとクラスメイトに告げられた為仕方なく図書室へ向かっているのである。

手に持つのは白い便箋。

先程の授業中に書いたものだ。

昨日の一件ですっかり竦んでしまったらしい女教師はリッカの方を一度も見なかった。

これ幸いと便箋にペンで文字を綴るリッカ。

それを覗き込み、誰宛?と聞いてくるセティに、ラブレターと返して戯れながらもどうにか完成した手紙。

勿論ラブレターなどではなく、フォルトナに協力を要請する手紙という名の脅迫文もどきだった。


図書室の戸を勢いよく開けるが、いたのは図書委員らしき人物だけ。

カウンターに座る眼鏡を掛けた男子生徒に女子生徒が来なかったか、と問うが来ていないとの答えを貰う。


どこにいるの、フォルトナさ~ん。

とカウンターにもたれてぼやくリッカの手から突如手紙が消える。

足元には何もないことから、下に落ちた訳でもない様だ。

ということは、と後ろを見れば案の定先程声を掛けた眼鏡男子が封を開けて中身を物色していた。

「ちょっと貴方、何してるの。」

仁王立ちでリッカが問うも、男子生徒は便箋を広げて読み始めた。

「読むな!」

と慌てて便箋に手を伸ばすが、あっけなくその手は男子生徒の片手に捕えられる。

「へえ、ライラントにねえ。

これはただのお馬鹿な姫様ではないのか。

俺もまだまだだな。」

くいっと眼鏡を上げ、面白そうに呟く。

「何を、」

「ちょっと黙ってろ。」

リッカの手をぎりぎりと締め上げながら男子生徒は二枚目の便箋に目を通し始める。

「いったいって、の!」

顔を歪めながら拘束されていない方の手で、便箋を奪う。

「はは、手は2本あるのよ。油断してるね。」

「安心しろ、全て読んだ。」

「はあ?」

あの時間で、とリッカは絶句する。

「リッカ=アイネウス、か。

案外良い線いってるかも知れないな。

親父に報告しておくか。」

「偉そうになんなの、貴方。」

「お前の命運を握る男にその言い様か。いい度胸だな。」

男子生徒ははっと、小馬鹿にした笑みを向ける。

「命運・・・・・・、」

何かがリッカの頭をよぎる。

考えろ、考えろ。

きっとどこかに答えはある。

昨日そう、昨日アイルと話していて・・・、


そこでリッカは思い出した。

宰相に報告している人物がいる筈だ、と自分で言っていたではないか。

そしてアイルはなんて言ったっけ。

そう、

「シーモス君。」

「やっと正解。

自分のクラスメイトの顔ぐらい覚えておけ。」

「留年して今年から同学年になった人の顔なんてまだ覚えられません。」

リッカはじっと男子生徒シーモス君の顔を見つめた。

「ちょっとマリーネさんに似てるかな。」

マリーネの弟だということを思い出したのだ。

「あの馬鹿女と一緒にするな。

馬鹿主と一緒に逃亡した女と。」

心底嫌そうに吐き捨てる。

「そんな言い方するの。

しかも今、姉上のこと馬鹿って言ったでしょ。」

目を鋭くさせてリッカは吠えた。

「それがどうした。事実馬鹿じゃないか。」

「馬鹿じゃない。」

「国より男を選んだ女のどこが馬鹿じゃないんだ。言ってみろ。」

「男を、エイムさんを選ばせたのは私達。

姉上の自由を奪ったのは私達。

だから、」

「姉上は悪くないって?」

シーモス君は眼鏡のレンズの向こうから嘲笑うような目でリッカを見る。






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