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18「化かし合いを始めよう」

「話してくれるね。」

リッカの部屋に着くや否や、セティは背中を向けて立つ幼馴染に厳しい声を投げかける。

「アイル、そんなに怒らないでよ。」

「怒ってなんかいない。

ただ、戸惑っているだけ。」

「アイルでも戸惑うことがあるんだ。」

おかしそうに笑いながらリッカは振り向き、そのままソファに座る。

リッカは自分の向かいのソファを示し、セティはそれに従う。



「あのね、姉上が駆け落ちしたの。」

「は。」

アイルはぽかんと口を開ける。

王子フェイスには余りにも相応しくない顔。

「だから駆け落ち。前言ってた楽士と。

あとマリーネさん、シーモス宰相の娘も一緒に。」

「···えー、セレンティナ様、やっちゃったんだ。」

「そう、やっちゃったの、姉上は。

自由が欲しかったんだって。

分からないでもないけど。

······置いていかれたこっちの身にもなって欲しい。

姉上ぇ、どうしてぇ?

私達のこと嫌いになったの?

と泣く幼い弟妹達を、先程見かけた。

勿論リッカも泣きたい。

自分の大好きな姉が、絶対的に肯定してくれる姉が、いなくなってしまったのだから。



「でも、私は進まなきゃいけない。

王にならなきゃいけない。」

「リッカ、王位継承で争う気?」

まさか、とセティが恐る恐る聞く。

「ご名答。

ま、私から喧嘩ふっかける訳じゃないけど。

宰相からの『今この国に必要なものは。王に必要なものは』っていうお決まり問いに対する答え。

これで決めるらしい。

私と、リヒトと、フェイの中から。」

「負け戦だね。」

「まさか。」

リッカは嘆かわしげに首を振る。

「アイルまでそんなこと言わないでよ。

私は勝てるって確信してるのに。」

「ウェルネシア、リッカ熱あるんじゃないかな。」

リッカを無視して、端にいるウェルネシアを呼ぶ。

「残念なことにないのです、セティ様。」

苦虫を噛み潰したような顔でウェルネシアが答える。



「リッカ、休もう。寝よう。

また明日考えよう。」

「馬鹿アイル。そんな暇ないの。

わざわざアイルをここに呼んだ意味もなくなっちゃうでしょ。」

話す気満々のリッカに折れ、取り敢えず話を聞くか、とセティが仕方なく座り直す。


真剣なラベンダーグレーの目。

そこまで大きくもない目だというのに、どうしてか引き寄せられ取り込まれる様な感覚を覚えるセティ。




「私はこの世界を、この国を変えたい。

ただの小娘には出来ない。

でも頂点に君臨する王なら出来る。

だから、王になる。

その為に私はどんなものでも利用する。

大切な幼馴染であっても。」

「僕の力が必要だと?」

「うん。

アイル自身というよりアイルのバックにあるものが欲しい。」

「リッカ。」

悩ましげに首を横に振る。

大きな家の出であるセティは、自分の家の権力が無闇に使われることを好まない。

その権力が故に沢山の人が犠牲になったからだ。


「アイルの思ってることは知ってる。

でも私は、」

「リッカ、僕は協力出来ない。

僕自身ならいくらでも君の為に動くけど、僕の家を君に使わせるのは嫌だ。

いくら幼馴染の君でも。」

「幼馴染じゃなくて婚約者なら?」

どう?と持ちかける。

「このままだと、私とアイルの結婚は無しになる。

もし万が一敗北して王になれなかったとしたら、リヒトの妻として半幽閉生活を送らなきゃいけない。それか、辺境の地に追いやられる。

それが敗者の定め。

アイルとの結婚なんて夢のまた夢。

それでアイルはいいの?」

唇に人差し指を当て、扇情的に微笑もうとしたが失敗するリッカ。

慣れないことはするものじゃないわ、と不満げに頬杖をつく。

「僕は構わないけど。

そもそも結婚に反対していたのはリッカだったよね。」

「まあね。

だって私はもう、アイルに対して何も思ってないから。

誰かさんのせいで恋愛なんて遠い話だし。

あれ、一生のトラウマ。」

「それはごめんって。

···本題に戻るけど、リッカは僕との結婚なんて嫌がってる。

なら夢のまた夢でいいんじゃないの。」

違う?と不思議そうに笑う。

「そ、残念。

私は割り切っても良かったのに、政略結婚として。

それに、片方からの愛があればどうにかなると思ったの。

例え政略結婚でもね。」

意味深な笑みを浮かべ、足を組む。






気付いてるのか、リッカは。

僕の思いに。

いつ?

いつだ?

いつ気付かれた?

前までそんな素振りはなかったのに。

そもそもリッカは僕のことが好きじゃない?

まさか。

あの涙は演技?

まさか。

全ての計画が狂った。

リッカのせいで。

それでも僕は君が愛しい。

だから僕も君と化かし合おう。

そうでもしないと、君の隣にはいられないんだろうからね。







「政略結婚は御免だよ。

僕は恋愛結婚がしたいんだ。」

「アイルって案外ロマンチスト。

ま、それは置いといて。

アイルは私に協力してくれないって事でいいのね。」

「そんなことは一言も言っていないよ。

条件がある。

これを呑んでくれるなら協力するよ。」

「条件?」

リッカが眉間に皺を寄せる。

そんなリッカをセティは見据える。




さあ、化かし合いを始めよう。


「必ず王になってくれ。」

「応援?」

ありがとう、とおかしそうに笑う。

「そして、君が王になった暁のウィスタリアでのそれなりの地位を僕に約束して欲しい。」

「···へえ。」

「ファウラーには出来れば戻りたくない。

姉さんの幸せそうな姿を見ていると悲しくなる。

好きな人の幸せを祈るべきなのに。」



嘘だ。

姉さんは兄弟として好きなだけ。

ウィスタリアにいたいのは、リッカのそばにいたいから。



「······なるほど。

シスコン、拗らせてるね。」

「リッカもね。」

「知ってる。」

えへへ、と気の抜けた笑みを返す。





「いいよ、その条件で呑もう。

これでアイルは協力者。

裏切らないでね。」

セティに手を伸ばすリッカ。

「裏切らないよ、姉さんに誓って。」

その手を、小さな手を、セティは強く握った。

「女神に誓わない所がアイルらしい。」

くすりと笑うリッカに、セティの胸は甘い痛みを孕む。


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