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16「飛びっきり悪質なのが」

「父上はずっと私を疎んでいらっしゃった。

異端というだけで。馬鹿らしい預言を信じて。

髪色目の色は仕方ないことなのに。

神降ろしとか時代錯誤でしかないのに。」

阿呆らしい、と吐き捨てる。

「大多数の国民もそう。

昨日父上が預言の事を公言してしまった。

もう城下に広まっても良い頃合い。

これで更に私への負の感情は高まった。

皆の『セレンティナ様』を奪った嫌疑もかかっちゃった。」

私が姉上を害する訳ないのに、馬鹿みたい。

そう起伏の小さい声で呟く。


「そんな世界、もう要らない。

私が否定される世界なんて、もう要らない。」

くるくると回していた体を止め、ウェルネシアの目を射抜く様にして見る。

「私を肯定してくれていた母上は、マーレンリーズ様は、姉上は、もういない。」

「私がおりますよ、姫様。」

「うん、知ってる。

でもウェルじゃ足りない。

アイルでも、フォルトナでも足りない。

だって同じだから。この国では皆同じだから。

少しでも状況が変われば、皆から蔑まれる人達でしょ。」



ウェルネシアは国籍不明で素性不明。

セティは仲の悪い国の貴族。

フォルトナも他国の貴族。

三人ともこの国では不安定で、ある程度生きづらさを感じてきた。

持つ色が違うから。

生まれた国が違うから。

ただそれだけで。



「それじゃ駄目。

そんな弾かれ者の寄せ集めだけじゃ、私が否定される世界のまま。

私ね、思ったより貪欲なの。

一部の信者に妄信される神よりも、皆に信じられる神になりたい。

だから、私に都合の良い世界を創る。

私が生きやすい、私みたいな弾かれ者が生きやすい、そんな国を創りたい。」

ふいっとウェルネシアから視線を外し、自分の掌を見つめた。


「何の力もない小娘のままなら、そんな願望はただの夢物語。

でも、チャンスは来た。

あっちから。

このチャンス、逃す訳にはいかない。

私は王になれる。

確信してる。」

ぐっと手を握りしめるリッカに、ウェルネシアは呆れた目を向ける。

「その根拠のない自信はどこから来るんですか。

そもそもこの国は原則女王を認めないでしょう。

今回の争奪戦もただのお遊び。

姫様はリヒトの野郎の妻になるか、辺境へ飛ばされるかのどちらかでは?」

「少しは自分の主人を信じてよ。」

辛辣に分析する己がメイドをジト目で睨む。

だが、少し口角を上げて宣言した。

「策ならある。

飛びっきり悪質なのが。」

既に1つは実行したし。

と満足げににたりと笑う。


「不安しかないのですが。」

「安心してよ。

自分が如何程のものか、自分が1番よく分かってるから。

······私が1番、王に相応しい。

そうは思わない?」

阿呆ですか。

やっぱり熱ありますね。

と言おうとした所で、ウェルネシアは先程のリッカの威圧感を思い出した。

死線を何度もくぐり抜けてきた自分でさえも、竦んでしまった例のあれ。

あれが真の王が持つべきものであるならば、リッカに眠る素質は申し分ない。


今は無邪気な少女にしか見えない小さな主人を、ウェルネシアは静かに見下ろす。

そして諦めた様に膝を地面に着かせた。

「この不肖ウェルネシア、貴方様が王になる為精一杯尽くさせて頂きます。」

「うん、そう言ってくれると思ったよ。」

足元に跪く侍女の頭を撫で、自ら手を引いて立たせる。

「さ、王位継承戦争の始まりだ。

おー!」

「おー!」

楽しげに拳を突き上げるリッカに、渋々合わせるウェルネシア。




「で、何から始めるのですか、姫様。」

「うん、まずは学院に行こうか。

遅刻だけどね。」

今日は休みでも何でもない。

平日で学院は通常営業だ。

セレンティナが駆け落ちをしたとなれば休校になりそうなものなのだが、まだ一般市民には伝えられていない様だ。

廊下の窓から城下を覗いたが、何も騒ぎは起こっていない。


「学院ですか。」

そんな悠長な、と言いたげなウェルネシアの唇を指でぴっと押さえる。

「これも策の1つ。

だから文句言わずに用意して。」

ピリッとウェルネシアの肌に変な緊張感が走る。

先程の威圧感に近い様な何かが。

「あ、ごめんごめん。

これ、気付いたら出ちゃうんだよね。」

ふにゃあとした笑いをリッカが浮かべた瞬間、緊張感は徐々に薄れていく。

「少しでも気を張ったり、命令口調になったりするとね。

なんか不便。」



リッカ自身は自分が何かしているという事を自覚している。

それが何かは分かっていないようだが。

しかし、分かっていなくても使いこなしている。

その事実にウェルネシアは震撼した。

使い方を知らずに使いこなしてしまう使用者と、その道具程怖いものは無い。

無邪気な幼児が爆弾のスイッチで遊んでいるのと同じなのだから。






──────

「おはよう。いや、こんにちはかな。」

昼休みの終わり頃、生徒達が食事を終えて教室に戻ってきた頃、リッカは教室に現れた。

後ろに心なしか疲れた顔のウェルネシアを連れて。

「リッカ、どうしてこんなに遅くに。

体調でも悪かった?」

隣に座るリッカに、セティは眉を下げて尋ねる。

「ちょっとね。

アイル、今日授業の後暇?」

鞄から教科書を出しながら、セティの予定を確認する。

「暇だけど。」

「なら良かった。

王宮に遊びに来てよ。」

「······いいよ。僕としても話したいことがあったしね。」

これは何かあったな、とセティは眉をしかめた。

気になってリッカに食い下がるも、内緒、といつもの三倍増し可愛らしい笑みで黙らされた。





「えー、ではアイネウスさん、資料集の24ページの最初を読んで下さい。」

「申し訳ありません、先生。

私、今日は資料集を忘れてしまいました。」

すっくと立って、いつもリッカを虐めてくる女教師に微笑む。

「ならば隣のレグホーン君のを借りて「それには及びません。暗記していますから。」

女教師の声を遮り、手を前で組んで口を開く。

「『遥か昔、灼熱の地であったアグアローネ地方。そこに住む人々は、燃えるような夏と焼けるような冬を生きていた。

それを見かねた氷の女神コンヘラシオンがアグアローネに降り立った。

彼女の足が地に着いた瞬間、アグアローネに冬が訪れた。雪の降り積もる冬である。

雪は大地を潤し、枯れていた地に緑が現れた。人々は彼女に感謝し、愛情深き女神として敬った。

こうしてアグアローネ地方に女神の力により四季が形成された。豊かになったアグアローネには6つの国が出来、その内の1つウィスタリアの地に女神は眠った。その時からウィスタリアの人民の髪と目の色は変化した。

長の一族は黒に、神官は紫に、平民は青に。

黒こそが最も高貴であり、黒こそが王族に相応しい色である。氷の女神コンヘラシオンに愛された者であるという証なのだから。』

好きですね、『新アグアローネ伝』。

しかも冒頭部。

私に対する、黒でも紫でも、ましてや青でもない私に対する当てつけですか。」

全て暗唱しきったリッカに対する驚きと、核心をつく言葉に対する動揺を隠せない女教師。









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