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15「クーデターは争奪戦に入りますか」

─────

リッカが目を開ければ、見えたのは自室の白い天井だった。

いつも見ている何の変哲もない天井。


リッカは瞬きをする。

酷く頭が重い。

徐々に覚醒しだした体も重い。


「···ウェル。」

いつもの通り自分の侍女を呼ぶ。

だが、それに答える声はない。



···ああ、そうか。

今日は休日だったか。

だからウェルネシアは起こしに来ない。

横に控えていない。

···二度寝しよう。



もそもそと布団に顔を埋め、上等な柔軟剤の香りを吸い込む。






「···ること、この私が許す訳には参りません。

不敬は承知でございます。」

ドアの向こうから聞き慣れた声がし、微睡んでいたリッカは再び目を開けた。



なんだ、ウェルネシアは外にいるのか。

それなら早く入ってくれば良いのに。



だが、物臭なリッカはわざわざ侍女を迎えに行く事はしない。

むにゃむにゃ呟きながら枕に頬を擦り付ける。






「お相手致しても宜しいのですよ。

私、その位の覚悟はございます。

我が主人に仇なす者は全て掃討させて頂きます。

国王陛下、並びに宰相閣下。」





珍しくウェルネシアが声を荒らげているな。

誰と話しているのだろう、と呑気に睡眠と覚醒の間をさまよっていたリッカは、「国王」という言葉に跳ね起きた。

途端頭の中に昨夜の出来事が、擦り切れたフィルムが回るようにして再生される。


セレンティナらしき人物が現れた夢。

空っぽの部屋。

セレンティナとエイムの駆け落ち。

父王からの仕打ち。

そして倒れかけた所を、颯爽と現れたウェルネシアに救出された事。

きっと救出後、ウェルネシアの手で自室に寝かされたのだろう。



ばさりと布団を蹴り上げ、重い体を引きずってドアまで歩いて行く。


「姫様、出て来ないで下さいませ。」

動き出したリッカの気配を感じたのであろう。

ドア越しにウェルネシアの厳しい声が聞こえる。

だがリッカはそれを無視して、ドアノブに手を掛けた。

ガチャリと音はするものの、ドアが開く気配はない。

ウェルネシアが向こう側からドアを押さえているのだ。

「ウェル。」

「嫌です、姫様。

私は貴方を守る為に存在する者。

その役目を奪わないで頂きたい。」

「ウェルネシア。」

再度呼びかけるも、あちらからの力は緩まない。


「···開けなさい。」

「それは命令ですか。」

主人の低い声に、ウェルネシアは驚きながらもドアを押さえ続ける。

「···命令だ。」

「聞けません、それだけは。」

目の前にいる主人の宿敵ともいえる人物を憎悪のこもった目で見据え、ウェルネシアは拒否した。










「開けろ。」



ふう、と小さな溜め息の後に発された短い言葉。

たったそれだけに、ウェルネシアだけでなく訪問者二人の身にも鳥肌が立つ。

端的な言葉なのに、一小娘が言った事なのに、恐怖、あまつさえ畏怖を感じてしまう。

まるで何か圧倒的に強い者からの命令。

蛇に睨まれた蛙、そんな言葉の通りにじとっと冷や汗が三人の背を伝う。

力が抜けかかるウェルネシアの隙をつき、リッカはドアを勢いよく開けた。




「おはようございます、父上、宰相様。

それで、何の御用でしょうか。」

「···リッカ様、で宜しいのですかな。」

素っ頓狂な事を聞いてしまう宰相。

彼の頬には未だ嫌な汗が伝っている。

「何を仰いますやら。

私はリッカ=アイネウス。父上が仰る通り異端の姫でございますが······何か?」

父王に完璧なレディの笑顔を向けながら首を傾げる。


昨晩父王の心無い言葉に倒れた小娘とは思えぬ貫禄。

その小さな体からは想像出来ぬ威圧感。

そんなものが、昨晩のリッカにありはしなかったものが、今のリッカにはあった。



「···ではリッカ様、王位継承権第三位の貴方様に申し上げます。

国王陛下は一月後、退位なさいます。」

リッカはあら、とさほど興味無さそうに父王を見る。

「その際即位される新王を、若輩者ですが私、宰相ノイシュ=シーモスが選定させて頂きます。

陛下は一切口を出されないとの事です。」

それで宜しいのですね、陛下。

と宰相───ノイシュが父王に確認を取る。

「継承権二位のリヒト様、四位のフェイネル様、そして三位のリッカ様。

この3人で王位を争って頂きます。

言わば争奪戦です。」

「そうですか。

···クーデターは争奪戦に入りますか。」

ふんふん、と大人しく聞いていたリッカだったが、突然バナナはおやつに入りますか、というノリで尋ねる。

「······クーデター等武力行使は無しです。」

ノイシュが狐に化かされた様な顔で答える。

「残念です。

ウェルネシアがいるから、それも可能だったかもしれないのに。」

ねえ?と斜め後ろにいる侍女に笑いかける。

それに対し、

「ええ、首に針を刺せば良いだけの事ですから。」

重い空気を読まずに馬鹿真面目に答える。

それがこのメイド、ウェルネシアである。


ウェルネシアの答えに満足そうに頷き、ノイシュに続きを話す様促すリッカ。

「誰を、とは聞かないでおきましょう。

聞いてしまったら、こちらもそれ相応の対応をしなければなりませんからな。」

冗談ですよ、と微笑むリッカを一瞥し、ノイシュは本題に戻る。

「今から私が出す問いに対する答え、それによって新王の選定を行います。」

「問い?」

「はい。

『今、この国に必要なのは何か。

そして、国王に求められるのは何か。』

この2つです。」

ありがちな問いですね、とリッカは呟く。




考える期間は2週間。

検討を祈ります。

そう言い残し、ノイシュは王を伴って去って行った。

それを見送り、リッカは大きく伸びをした。


「結局父上、何も話してないし。

どうしたんだろうね。

不思議だね、ウェル。」

「不思議なのは貴方です。

熱でも?」

訝しげに額を触るウェルネシア。

しかし熱はない。

「どうなさったのですか、姫様。

何だか、何と言いますか···、」

「王族らしいでしょ。

物語や戦記に出てくる王様みたいでしょ。」

首を捻るウェルネシアに、白いネグリジェの裾を悪戯にはためかせながら言う。




「私ね、分かった。」

「何がです。」

「私を否定する世界なんて、壊しちゃえば良いじゃない。」

くるくると回転し、それに伴ってふわりと舞い上がるネグリジェのスカート部分。

「あ、言い方が物騒か。

えーと、そう、世界を変えようかと思って。」

世界の〜変革〜、と変なリズムで呟く。










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