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13「私は自由でいたかった」

「なあ、リッカ。」

さざ波の様に優しい声が聞こえる。

「自由になりたいと望むのは罪なのだろうか。」

愛しい愛しいあの人の声。

「私は、どこか遠くへ行きたい。」


どこへ?

そう尋ねた。


「遠くへ。私が自由に生きられる所まで。」


待って。


「すまない···もう行かなければ。

愛しているよ、可愛いリッカ。」



ああ、待って。

どこへ行くの。

待って、待って下さい。



······姉上!






ガタンと体が机から落ち、その衝撃ではっと目を開ける。


肌寒い風がリッカの頬を撫でる。

見れば窓が開いていた。

ハタハタと白いカーテンが揺れている。


眠りにつく前は確かに閉まっていた筈なのに。


訝しげに思いながら窓を閉める。



外はすっかり暗くなっており、黒い空には白い三日月。

やはりウェルネシアは忙しかったらしく、起こしに来てはくれなかった。


今何時、と机の上の時計を見れば、短針は7、長針は6を指していた。




「んー、寝過ぎたか?」

大きく伸びをし、遅めの夕食を取る為に外へ出る。




それにしても変な夢だった。

姉上···?らしき人が悲しそうにこちらを見てきて。

後ろには光り輝く白い月。

ハタハタと揺らめくカーテン。





···待て、あれは本当に夢?


違和感に気付いたリッカは、廊下の真ん中ではたと立ち止まる。



あのカーテンは私の部屋のものだし、姉上の背後の景色も私の部屋から見えるもの。

本当に夢だったなら、そこまで鮮明に覚えていられるものだろうか。

いや、ない。

ならば···ならば···!





リッカは走り出す。

愛しい姉の部屋を一直線に目指して。



嫌な予感がする。

どうしようもなく嫌な予感が。

全身の血が頭に集まってくる。

かあっと赤くなる顔。

胸が苦しくなり、息が止まりそうになるが、それでも足だけは止めない。

嫌な予感が外れて欲しい、その一心で。




角を曲がり、セレンティナの部屋付近に到着した所で、リッカは嫌な予感が的中してしまったことを悟った。

セレンティナの部屋の前には顔を白くした沢山の人々が集まっていたからだ。

その群衆の中にフェイネルを発見し、彼の元まで人波を縫って進んで行く。


「フェイネル!」

「···あ、姉上が···。」

「どうしたの!」

今までにない程顔を白くしたフェイネルの肩を揺さぶる。

「···。」

茫然自失の表情のまま、セレンティナの部屋を指さす。



リッカは人を押し退けて、一番前に躍り出た。

部屋の中にあったのは、血みどろの死体や、血に染まった凶器








などではなく、

崩れ落ちる黒い喪服の男と、その傍らに立つ中年の細い男だった。




「···え。」

部屋を見渡しても二人の男しかいない。

いるべき筈の美しい人も、一番重用していた侍女の姿も無いのだった。



「···姉上···?」

何が···?と呟くリッカに気付いた細身の男が、持っていた白封筒を差し出してきた。

部屋に入り、それを受け取って中身を取り出す。

ぱらりと落ちてきたのは小さな白い紙。



『親不孝者で申し訳ありません。

私は自由でいたかった。』



たったそれだけの文字が意味すること、それをリッカは吐き出す。





「逃亡···。」

「ええ、そうでしょう。」

リッカの言葉に細身の男は首肯する。

「リッカ様、その筆跡はセレンティナ様の物で間違いありませんか。」

男が誰かは知らないが、そんな事に今構ってはいられない。

「間違いありません。

このしっかりした筆跡、誰かに脅されて書いたものでもないでしょう。」

そこまで分析したリッカに、男は僅かに目を細める。




「宰相様に申し上げます!

王宮付き楽士のエイムの姿がありません!

荷物も何もかもありません!

もぬけの殻です!」

部屋に入り報告する若い騎士。

それに対し、宰相と呼ばれた細身の男は小さく溜め息をついた。

「決まりましたな。これは駆け落ちでしょう。」

その言葉に部屋の外にいた人々はどよめく。


「陛下、どうなさいますか。」

宰相が足元に蹲る喪服の男────ウィスタリア王国国王に声を掛ける。

「···セレンティナ、何故···。」

「陛下。」

うわ言を繰り返す国王に対し、宰相は再び呼びかける。

「······すぐに追っ手を。」

それだけを返し、画用紙の様にペランとした顔で部屋を見渡す。

「セレンティナ···。」




「今すぐ騎士団を動かして追いなさい。

騎士団長に伝えなさい。

まずはエクリュの国境を目指せと。

あとは騎士団の判断に任せます。」

宰相は仕方なく、外にいる騎士に指示を飛ばした。

「は!」

報告に来ていた騎士は敬礼をしてから、走り出る。

それを見送ってから

「グレン、紙とペンを。」

と部屋の外に控えていた助手らしき人物に呼びかける。

彼からそれらを受け取り、何かを走り書きしてすぐに助手に渡す。

「エクリュの政府まで鳩を飛ばしなさい。」

「承知致しました。」

助手は頭を下げ、紙を手に走り出す。




「···私が出来るのはここまで。

陛下、この先は貴方が決めることですよ。」

たしなめる様にして宰相は言うが、それには全く耳を傾けず部屋を見渡している国王。

その途中リッカに目が留まった様で、目を見開いてリッカを睨んでくる。



「お前のせいだ。」

地から響く重低音。

「お前のせいだ、疫病神!

ミラもマーレンリーズもセレンティナも!

全て全てお前のせいだ!」

燃えるような目でリッカを睨みつける。

「はあ?」

ざわめく部屋の外の人々とは対照的に、リッカは眉をひそめるだけ。

「ミラが死んだのも、マーレンリーズが死んだのも、セレンティナが消えたのも、全てお前のせいだ!」

「陛下、何をおっしゃって「黙れ、ノイシュ。」

呆れ顔で国王を止めようとした宰相を遮り、ゆらりと立ち上がってリッカに近づいて来る。



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