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10「夫婦にはなれるよ」

暗い雰囲気がリッカとセティの間に漂うが、状況をよく理解していない人間が1人。



「両想いなら良いんじゃないかしら。

2人とも、どうしてそんなに暗い顔なの。」

フォルトナが不思議そうにオルゴールをリッカの手元に戻す。

「両想いぃ?私とアイルが?

勘弁してよ。」

ギイとゼンマイを1回し。

「フォルトナ、それはリッカにとって鬼門だよ。」

あっちゃー、とセティが額を手で押さえる。

「だってリッカはセティの事、ミドルネームで呼ぶじゃない。だからそういう関係なのかと思って。

あら、違うの?」

「ミドルネームで呼ぶのは小さい頃の名残だよ。」






アグアローネ地方では、神殿で正式な洗礼を受けた敬虔な信徒に神官が神名────ミドルネームを授ける。

ミドルネームは配偶者か恋人、その他ごく親しい人にしか呼ばせないものだ。

リッカの身近な人で言えば、亡き母ユリエッタ。

彼女のフルネームは、ユリエッタ=ミラ=アイネウス。

配偶者である父王はミラと呼んでいた。

因みに体が弱い子供などにも、女神の加護がある様にとミドルネームを授けて貰う時がある。

セティなどはそれで、自身が敬虔な信徒という訳ではない。

ミドルネームを授かった子供は、女神の加護を強める為に大きくなるまでミドルネームで呼ばれる。






「今更セティって呼ぶの違和感あるから。そのままアイルで良いかと思って。」

「案外適当ね、リッカ。

ミドルネームの謎は分かったわ。

でもどうして貴方達が両想いじゃないのか、個人的に気になるのだけれど。

お似合いよ、貴方達。」

「あのね、フォルトナさん。

私の初恋の人はね、確かにアイルなんだよ。

けどね、こいつはね、あろう事に一国の王女をですね、即座にフりやがったのです。」

向かいに座るセティをびしりと指さすリッカ。

「セ、セティがフッたの?なんだか以外ね。」

「しかもね、その時の言葉酷いんですよ、フォルトナさん。」

変なテンションになってしまったリッカは最早止まらない。

セティが言うな、と身振り手振りで示すがリッカはそれを無視。




「···『姉さん以外では性的に興奮しないから無理。』」

一応声を小さくして呟く。

「······あらー。」

百戦錬磨のお姉さんキャラであるフォルトナも思わず絶句する。


「······13才の純真な少女に言う事?

信じられないでしょ!

今でも恨んでるからね、アイル!」

「ごめんね。」

「許さないから。

···私のピュアな初恋はこうして終わりを告げました。

めでたしめでたし。」

「リッカ、泣いていいわよ。」

フォルトナがよしよし、とリッカの背をさする。


「リッカだけでなくセティもシスコンだったのね。

男である分余計に質が悪いわ。」

「いや、男としてはそれが大切だったんだよ。」

仕方ない、といつもの微笑みを浮かべるセティ。

「最低。

やっぱり、アイル最低。」

握りしめていたオルゴールをテーブルに置く。

「だから私はもう好きじゃないの、こんな奴。

私の初恋あんなにしておいて今更結婚?

冗談じゃない。」

「リッカ、頬。」

「···顔洗ってくる。」

頬に伝う涙をフォルトナが拭ってくれた事で初めて泣いていることに気が付いた。

すっと立ち上がり、リッカは食堂から出て行く。





──────

「···セティ、素直になったら。」

リッカが去った後、フォルトナが説教を始める。

「謝って聞いてくれるタマだと思う?あのリッカが。」

「思わないわ。

でもこのままじゃ、リッカとは拗れたままよ。

幼馴染ではいれても、いつまでも恋人にはなれないわ。

夫婦にもね。」

「いや、夫婦にはなれるよ。

リッカの父、ウィスタリア国王はリッカを疎ましく思っている。

だからファウラーからの申し出は願ったり叶ったりの筈だ。

仲の悪い隣国にリッカを追いやれるんだからね。」

「まさか貴方、」

フォルトナが眉をひそめる。

「全て計算済みだよ。

告白された時、予想外過ぎておかしな事を口走ってしまったのだけが誤算だった。」

余りにも嬉しくて照れてしまったんだ、と項垂れる。

「照れ方がとんでもないベクトルに行ってるわよ。

お姉さんでしか性的に興奮しないって···。」

ドン引き、とフォルトナは自分の腕をさする。

鳥肌がたっているからだ。


「姉の事は好きだし尊敬していた。勿論今も。

まあ······、昔の自分は姉に恋情を抱いてはいたのかもしれない。

だからリッカをフッたんだろうね、思わず。」

「馬鹿ねえ。」

「馬鹿だと自分でも思うよ。」

「あのリッカの反応、まだ貴方の事好きなのよ。

早くくっつきなさいな。

形式だけじゃなくて、心もね。」

「ご忠告感謝するよ。」

「ええ、私からもご忠告致したい所でございますが、時間がありませんのでそれはまたの機会に。」

いつの間にかぬっとセティの背後に出現していたウェルネシア。

「ウェルネシア?!」

ぎょっとするフォルトナ。

「ウェルネシア、君今日は忙しかったんじゃないの。」

そして自分とリッカの仲を度々邪魔してくるウェルネシアをセティは敵視しており、嫌そうにウェルネシアを見る。

「少々王宮で面倒事が起こりましてね。

こうして姫様のお迎えに参上致しました次第です。」

「···ファウラーからの遣いの件?」

セティが声を上擦らせる。

「いえ、それも存じ上げておりますが、違います。

それよりももっと重大な······あ、姫様!」

やっと帰って来たリッカにウェルネシアは駆け寄る。



「あれ、ウェルネシア。どうしたの?」

「大変な事が起こりました。早く王宮へ帰りましょう。」

「何、大変な事って。」

珍しく慌てているウェルネシアを不思議そうに見、怪訝な顔をする。

「それは後で。

さ、お早く。教室にありました姫様の荷物は私が持っておりますから。」

「わ、分かったから。」

リッカはウェルネシアに急かされて、セティ達に挨拶をする暇もなく去って行く。

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