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9「1番欲しいものは手に入らない」

今ページから初登場。

フォルトナ=クリーガ(17)

リッカの友人。

雰囲気で童貞を殺す色っぽいお姉さん。(同年齢)

ウィスタリア王国の隣国、ライラント王国の大臣の娘。

3人の兄がいる。

一番上の兄は機械オタク。

留学してきた関係で、リッカ達の一学年下。

金茶髪茶目。


授業を続ける女教師。

「教科書の126ページを開いて下さい。

先程アイネウスさんが暗唱してくれた『新アグアローネ伝』の冒頭部分が載っています。

えー、ではシーモス君、最初から5行目まで読んで下さい。」




「シーモス君なんていたっけ。」

聞き慣れない名前が気になってセティに尋ねる。

困ったらセティ。

セティは何でも知っている。

「元は一つ上。色々あって留年したらしいよ。

リッカ、仮にも王族なんだから把握しておこう。」

「どうして。」

「シーモス家、君の所の宰相が当主だよ。」

「ああ、マリーネさんの。」

「なんで侍女が先に出ちゃうかな。

まあいいけど。

今教科書読んでるシーモス君は、宰相の息子だよ。」

「へー。」

「興味無さそうだね。」

セティが肩をすくめる。

「関係ないから。

私はあと5年もすれば国から追い出されて、適当な他国の王族に嫁がされる。

それか大きな商人の嫁かな。

政治とか私には関係ない。

···あーあ、王族なんて糞だよ。」

「なら、僕の所に嫁に来れば?」

ニコニコと笑う。

「···は?」

顔をしかめてセティを睨む。

「リッカはうちの家族にも気に入られてるし。

ウィスタリア王国にいるより居心地は良いよ、多分。」

「あのね、」

「冗談だよ。」

私の事あんなフり方しといて今更何?

とリッカが言う前に、セティがニコニコ笑って話を強引に断ち切る。




何なの、もう。

アイル、帰って来てから変な気がするんだけど。

やっぱり何か悲しい事でもあったのかな。





「『······からウィスタリアの人民の髪と目の色は変化した。長の一族は黒に、神官は紫に、平民は青に。黒こそが最も高貴であり、黒こそが王族に相応しい色である。氷の女神コンヘラシオンに愛された者であるという証なのだから。』」

「はい結構ですよ、シーモス君。」


女教師がシーモス君とやらの音読を止め、教科書を最初から解説していくのが遠く聞こえる。





黒こそが王族に相応しい色。

嘘つき。

本当にそう思っているなら、紫の髪の姉上は?

王族に相応しくないじゃない。

けど、そんな扱いは受けていない。

王族の中の王族みたいな扱いじゃない。

どうして私だけが王族から弾かれなくちゃいけない。

どうして。

こんな髪のせいで、こんな目のせいで。





リッカのどろりと闇を孕んだ思考は、2限終業のベルによって強制停止された。

そして何も無かったかの様にセティに話しかける。



「そうそう姉上の事なんだけどね、結婚が決まったんだよ。今日にも発表されるんじゃない?」

「へえ。」


セティは気付いている。

リッカの顔色が少し悪い事を。

そしてそれが、教科書の文章のせいである事も。

伊達に何年も幼馴染をやっていない。

それでも言及しない。

リッカがそれを望まない事も知っているからだ。


「本当は姉上ね、王宮付きの楽士と両想いなんだよ。

けど、リヒトとの結婚が決まっちゃって。」

「それは気の毒だね。」

「うん。でも仕方ない事。

それが王族に生まれた宿命だから。姉上も分かってると思う。」

「全てを持つのに、1番欲しいものは手に入らないのが王族なんだって。

陛下が言ってたよ。」

「意味深。

···食堂にお昼行こうか。フォルトナに会いたいし。」

周りは皆食事を取りに出払っており、教室にはリッカとセティしか残っていなかった。

「そうだね、行こうか。」

並んで歩き出す2人だったが、ふと何か思いついたらしいセティがリッカの手を握る。


「···ねえ、どうしたの。

今日なんかおかしいよ。」

立ち止まってセティの目を覗き込む。

「ふふ、リッカが心配してくれるなんて明日は槍が降るね。」

適当に誤魔化そうとセティがいつもの笑みを浮かべる。

「別に何もないんだ。

なーんにも、ないんだよ。」

「変なアイル。」

「リッカもね。」





──────

食堂に着いた2人はとある1つの人影を探していた。

因みに手はもう解いている。



「リッカ、ここよ。早くいらっしゃいな。」

キョロキョロと探すリッカの背後から声が投げかけられる。

「フォルトナ。」

「久しぶりね、リッカ。」

フォルトナと呼ばれた少女と言うには妖艶過ぎる女子が微笑む。

ただそれだけで周りの男子が何人か倒れたらしい。

悲鳴と椅子の倒れる音の五重奏が聞こえた。





「これお土産よ。」

三者三様の定食を購入し席につくや否や、フォルトナがリッカに紙袋を渡す。

「うわ、凄い。綺麗。」

早速取り出して目を輝かせるリッカ。

「うちの愚兄作よ。嫌になったら捨てて構わないわ。」

「捨てられないよ。こんな綺麗なオルゴール。」

鳥籠がモチーフになっており、中にいる小鳥が音を奏でる仕組みだ。

「セティにも。」

同じ様な紙袋を渡す。

「僕にもくれるんだ。嬉しいね。」

「嫌々よ。私、貴方の事は嫌いではないけれど、貴方の母国は嫌いだもの。」

と呟くフォルトナ。




フォルトナの母国ライラント王国と、セティの母国ファウラー王国は国交断絶状態に近い。

フォルトナの母はファウラー王国の刺客によって殺されたらしいので尚のこと。




「そもそもリッカがセティと仲が良いのが不思議なのよ。

ファウラーとウィスタリアも仲悪いじゃないの。」

フォルトナがオルゴールに夢中のリッカにぼやく。

「私はウィスタリアと仲悪い国によく留学させられてたからね。

それでかな、母国と仲悪い国の人の方が知り合い多い。」

アイルの家族とか、ファウラー王国の王族とか。

と指を折るリッカ。

「仲良しねえ、家族ぐるみで。」

フォルトナが興味深そうに目を細める。

「だから縁談の話が出ちゃうんだよね。」

あーあ、とセティがリッカを見る。

「?」

「僕と君の。」

「君?」

要領を得ないリッカがオルゴールのゼンマイを回しながら尋ねる。

「リッカ。」

「へえ、リッカと。

······は?」

適当に流していたが、呟いた名が自分のものであった事に動揺を隠せず、手からオルゴールが滑り落ちる。

咄嗟にリッカの隣に座っていたフォルトナが手を出したお陰でオルゴールは無事だ。

いやだが今、リッカはそんなことに構っていられない。



「私と、アイルが?」

「うん。

今日にもウィスタリアに遣いが着いてる筈だよ。」

「それで、今日は最初から変だったと。」

はあ、とリッカは頭に手をやる。

「そう。ちょっと夫婦っぽい事を試してみたんだよね。」

「だからプロポーズまがいの事をしたと。」

「うん。」

「あのねえ、」

声を荒げるリッカ。

「リッカの言いたい事は分かってるから。

僕も一応反対したんだよ。

でも姉さんがゴリ押ししてね。」

ごめんね、とセティは溜め息をつく。

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