やれやれ系モブが見下す逆ハー悪役令嬢が警戒する田舎娘ヒロインをはらはらしながら見守るのが攻略対象の俺
訛りは適当です。
俺のクラスには、ちょっと個性的な女の子が三人いる。
「ほえぇ...都会って、ほんっとすっげえんだべなあ...」
「そ、そうですわね、私は辺境に行ったことがないから分からないけれど...はっ、け、貶しているつもりはありませんわよ!?」
「...やれやれ」
「アレクサンドラ様は、世界でも有数なべっぴんさんです!わだす、アレクサンドラ様を長時間見つめてたら、目が潰れる自信がありますので!」
「そそそそそんなことないわよ!?褒めても何も出ないからぁ~!」
「...やれやれ」
「わだすの故郷は、なーんもないとこだけんど、自然が綺麗なんですよお、いっぺん来てみてほしいだなあ...あっ、すんません!偉そうだったべか!?」
「だ、大丈夫よ!私はそんなことで怒らないもの!ね?!」
「「そうだな、サンディ」」
「...やれやれ」
いつもこんな感じでやり取り(一人は混ざらず傍観の姿勢)している彼女ら。
一人は、この世界のヒロインであり、ただの庶民で可憐かつ純真設定だったのに何故かここではお上りさんとなっている、ヒナタ。
一人は、この世界の悪役令嬢であり、高飛車設定だったのに何故かここでは逆ハーを築き上げている公爵令嬢、アレクサンドラ。
一人は、この世界のモブであり、上の二人を遠くから観察して常に肩をすくめてため息を吐いている伯爵令嬢、モイラ。
そして俺が、その三人をはらはらしながら見守っている攻略対象コニーである。
ヒロインだの悪役令嬢だの、何だか変な単語がたくさんあったが、この世界は乙女ゲーの中の世界なので特におかしくはない。
要するに俺は、乙女ゲーの世界の攻略対象に転生した存在なのである。前世のことはもう覚えてないが、記憶が残っている幼少期にここがゲームの中の世界と悟って慌てて書き出した内容によると、前世の俺はこの乙女ゲーを姉からミニゲーム要員として押し付けられ、プレイしたらしい。
ストーリーは、剣も魔法もあってエルフもドラゴンもいるファンタジーな世界。ドラゴンが守護する、王族貴族が魔法を扱える国で、珍しい光属性の魔法の才能があることが発覚した庶民の女の子ヒナタ、通称ひーちゃんが、魔法学校に入学して美男子とイチャコラするというありきたりなもの。
ヒナタはボブの金髪に丸く大きな青い目を持つ美少女である。ただしその細く見える肉体には強靭な筋肉が付属している。誰得だ。
ヒロインと攻略対象の恋路を邪魔するのが悪役令嬢アレクサンドラ、通称あーちゃん。光属性の次に珍しい闇属性の魔法を得意とする。サラサラな黒髪ロングに鋭く見える赤の目を持つ美人。
モブのモイラ、通称もーさんは、攻略対象の一人である公爵子息の幼馴染みである。俺よく覚えてたなこんなモブの設定。彼女はセミロングの赤茶色の髪に黒の瞳の平凡顔だ。
この三人の女の子のうち二人は、俺と同じくこのゲームの記憶を持った転生者である。言うまでもないが、アレクサンドラとモイラだ。見ていて転生者だってことがすごく分かりやすい。
アレクサンドラはヒナタと仲良くしようとしながらも、いつかゲームのように断罪されるのではないかといつもびくびくしている。学校に入る前から天然で逆ハー築いてたくせに怯えすぎだと思う。
まあ彼女の逆ハーは節度がある逆ハーなので見ていて不愉快という程ではない。友達以上恋人未満といった間柄だろうか。
しかしモイラはそんなアレクサンドラを軽蔑している。やはり逆ハーは逆ハーということか。何か逆ハー言い過ぎてゲシュタルト崩壊してきた。
ヒナタは現地人だ。ド田舎で生活していたからか訛りがすごい。外見もちょっと芋っぽい。けど可愛い。可愛いけど世間知らず。でも可愛い。入学初日に初めて話しかけられたのがアレクサンドラなせいか、彼女になついている。
入学して半年の今でも、俺以外の攻略対象がアレクサンドラの逆ハーにいるので、誰ともフラグが立っていない。
ちなみに俺は攻略対象だが、隠れキャラなのだそうだ。全クリする前に転生したのか、アレクサンドラもモイラも俺には目もくれない。その他大勢と接するのと同じように俺に関わってくる。
俺としては地味な感じで平穏な生活を送りたいので一向に構わない。
だがヒナタが、アレクサンドラが俺以外の攻略対象を既に攻略してるので、強制的に俺ルートに入ってくるんじゃないかと思って俺ははらはらしている。ゲームでは二年生に進級してから俺のルートが始まるからまだ時間はあるけど、早まる可能性だってあるしね。
だから俺は、三人を見守りつつも、地味な同級生として学校生活を送っている。
「アレクサンドラ様、これはどうやるんですか?」
「えっと、少し待ってちょうだいな。まず...目を閉じた方がやりやすいから、目を閉じて」
「はい...これでいいんだべか?」
「ええ、そのまま...光の精霊に念じるの。力をお貸しください...」
「力を...わだすに力を...全てを捩じ伏せる力を...」
「なっ、何でそんな物騒なこと頼んでいるんですの!?」
「うへへへ、冗談だべえ。本で読んだんですよお」
「も、もう...びっくりしますわ」
うん、それあかんやつやで。
魔法の授業中にふざけているヒナタとアレクサンドラを俺はじっと見つめる。
ひーちゃんもあーちゃんも気付いてないけど、今の願いに応えようとして人には見えない光の精霊がぞくぞくと集まってきている。流石ヒロイン影響力ぱねえ。
モイラが二人の会話にやれやれと肩をすくめ、軽く「光の精霊さん、今のは質の悪い冗談ですから...ほんと馬鹿だな」と呟いた。うん、それもいかんな。
光の精霊達は愛しい子を貶められ、大層おかんむりである。
今にももーさんに取り憑いて、強すぎる光の力で発狂させようとしている。
見殺しにするのも気分が悪い。精霊達にはお帰り願おう。俺はふうっと息を吐いた。
途端、精霊達はびくりと揺れ、こちらに慌てて視線を向けて俺に気付くと一目散に逃げていった。
「...ん?」
先生が何か変な感覚でもしたのかきょろきょろと辺りを見回す。だが特に異常がないことを確かめると、お喋りするヒナタとアレクサンドラに注意して授業を再開した。
放課後。教室でアレクサンドラが攻略対象達の相手をし、モイラがそんな彼女を遠巻きに小馬鹿にしている中、俺はヒナタに声をかけられた。
「コニー様、ちょいとお時間いいべか?」
何だろう。疑問に思いながらも俺は了承した。
校舎裏へ移動する。まさか告白か。ヒナタは俺のことが好きだったのか。どうしよう、ドキドキしてきた。髪の毛おかしくないかな。笑顔ちゃんとキマッてるかな。
「今日の魔法の授業中に、コニー様の方から動物の匂いがしたんだけんど、何か飼ってたりするんですか?」
違った。そしてこの子鼻良すぎだろ。田舎育ちだから敏感なのか。
俺は「まさかまさか!動物なんて知らないよ!」と大袈裟な身ぶり手振りで否定する。
ヒナタは「そうだべか...変なこと言ってすんませんでした。おっかしいだなあ」と首を捻りつつもあっさり引き下がってくれたのでほっとした。
「あ、そうだ。コニー様」
「ん?何?」
「いつも、ありがとうございます」
「え、何が」
「わだす、まだ知らないこといっぱいあって、そんで皆から笑われることが多いんだけんど、表ではアレクサンドラ様が庇ってくれて、裏ではコニー様が助けてくれてるって気付いて、ありがてえだなあ、と思ったんだべ。本当に、ありがとう。わだす、コニー様やアレクサンドラ様に心配かけないよう、もっと頑張ります!」
「それじゃあ」とヒナタが礼をして離れていく。
...クラスでヒナタの陰口を言う流れになりかけた時話題を逸らしたり、学校の中で現在地が分からなくて迷ってた時にさりげなく先導したりはしたけど、何で彼女がそれを理解しているんだろうか。何でわざわざお礼するんだろうか。
畜生、嬉しいなぁ。
ヒナタが去り、近くに他の生徒がいないことをよく確認してから、俺は感情を押さえきれずに、自分の身を抱いて蹲る。
みるみるうちに鱗と翼が生え爪と牙が尖り、縦に三倍横に二倍巨大化する。といっても本来の大きさの五分の一程度だが。
そこに現れるは、一頭の竜。
まあ、つまり、何だ。
俺は、千年前からこの国を守護しているドラゴンなのである。
我が友、精霊王から頼まれ、この国の人間に与えられた魔力、魔法を、正しく扱えるか監視するのが、この学校にいる目的だったりする。今のところ不埒な人間はいないので安心。
ヒナタもアレクサンドラもモイラも、誰も俺の正体は知らない。知ってるのは学校長だけだ。おかげで誰に怯えられることもなく平和な学校生活を満喫している。
それにしても、ドラゴンを隠れ攻略対象にする開発者さんは肝が座っていると思う。異種族の恋愛なんて好きな人と嫌いな人がいるだろうに。
俺の前世は人間なので、もし誰かと結ばれるなんてことがあったら人間の女の子がいいなぁ。
俺のそんな大きな秘密が、ヒナタにバレて可愛がられるまで、あと半年。