62.彼のターン
ここに来る前、レヴィ様から『祝福』を授けてもらったからだろうか。
今までと違って、わたしは自分の中の力をはっきりと感じることが出来た。
例の口髭の男が、瞳に恐怖の色を浮かべながら上体を起こし、槍を握り直す。
わたしはそれに目をやり、槍が折れるところをイメージする。
すると、簡単に槍はポキリと折れた。
「ひぃ…」
槍が床に転がり、男は引きつった声を上げる。
わたしは次にダイアナを見つめた。
彼女は青ざめた顔で立っていたけれど、瞳の中の炎は消えてないようだった。
「…確かに金色の髪に青い瞳。ライラの娘で間違いないようね」
動揺を抑えつつ、低い声でそう言った。
「金髪になったり黒髪になったりするのね?変わっていること」
「偉大なる母君の遺伝のためですよ」
彼女か吐き捨てると、すかさずリアンが答える。
「母君の能力は大変高かったようで。常時、力を出したままだと体に負担がかかる。こうやって出したりしまったりする方が効率が良いでしょう」
母の大きな力はダイアナにとってコンプレックスだった、そう父は言っていた。
それは確かに当たっていたらしく、リアンの発言にますます瞳が燃える。
「そう。で?貴女はその偉大な力でどうする気なの?可愛い姪」
椅子にドサッと体を預けると足を組む。
「私を滅ぼして、この世界を支配するつもり?」
「そんはつもりはありません」
わたしはきっぱりと、言い返す。
「そんなことに興味はないし、この力をそんな風に使ったりしない。ただ、わたしは貴女に《運命の女神》として、人々に信頼され、人々を助ける、そんな風に生きて欲しいだけです。ただ…」
ここで息を整える。
「貴女がわたしの大切な人たちや街の人を苦しめるなら…容赦しない!」
わたしの強い気持ちに呼応して風が起こり、シャンデリアが揺れ、カーテンがなびき、窓がガタガタと音を立てた。
男たちは床で縮こまり、ダイアナは身じろぎ1つせず、わたしを見つめてる。
「…!」
「アリス!」
急に目眩が起こって、わたしの体はぐらっと揺れた。
リアンが咄嗟に腕を伸ばし、支えてくれる。
目の前がチカチカする…。
「…やっぱりねぇ。思った通りだわ」
肘掛けに頬杖をついて、ダイアナは薄く笑う。
「ライラも良く目眩を起こしてた。貴女がどんな偉大な力を持っていたとしても、長くは保っていられない、そう思ったのよ」
鏡に目をやるとわたしはまだ金髪に青い瞳だったけれど、目眩と呼吸の乱れが続いていく。
この世界は魔法に満ちていないから、魔法を使うと体に負担がかかるって…レヴィ様も言っていたけれど…
「大きいことを言ってたみたいだけど、どうしましょうか?」
…例え体に負担がかかっても、今、全力で。
そう思った瞬間、リアンがわたしの手をぎゅっと握った。
「アリスはちょっと休憩してて下さい」
「え?」
リアンはわたしをそっと床に座らせた。
「じゃあ、ここからは私のターンとしましょうか!」
そう言って、明るく宣言した。
「皆さんがまだ見たことない、不思議なお菓子をご覧にいれましょう」
…そういえば、出発の時にデイジーが何かくれてた。
「お菓子はお好きですか?ダイアナさま。魔法のお菓子に興味は?」
「…それも謎の人物にもらったというものなのかしら?」
「その通りでございます」
ダイアナは床にしゃがみこんでる男たちにすかさず指示を出した。
「早くあの2人を捕らえなさい!」
男たちは何かのスイッチを押されたように慌てて立ち上がると、ぎくしゃくしながらこちらへ向かってきた。




