59.対面
屋敷の中は、真っ白、だった。
床も壁も天井も柱も全て白で、汚れも埃も一切ない。
掃除が大変なんだろうな、と思いながら周りに視線を送りつつ、マリーさんの後についていく。
「しばらく、こちらでおかけになってお待ち下さい」
廊下にあるソファを促され、わたしたちは大人しく腰掛ける。
マリーさんは数歩進んで、扉の奥に消えていった。
緊張が高まってきて、わたしは息をゆっくり吐く。
「緊張してるようですね?」
「緊張してないようですね?」
リアンが愉快そうに尋ねてくるから、わたしも即座に言い返す。
「ええ、緊張はしていません」
リアンは頷き、
「いつも私は好奇心が先に立つのです。これからどんな事が起こるのか、それが楽しみなんです」
「なるほど…」
わたしはそれについてちょっと考えてみる。
「でも、なにか悪い事が起こったらどうしようとか、心配になりません?」
「そうですねぇ…。それはその時考えます。まだ起こってないことをあれこれ心配すると疲れちゃいますから」
「な、なるほど…」
「アリスはまだ、それでいいんですよ。いろんな経験をしていくと、いろんな事がわかるようになるんです」
リアンは軽やかに続ける。
「何か心配ごとに囚われそうな時は楽しかった時の事を考えるといいですよ。これが案外効きます」
楽しかった時の事…。
今はここにいない、異世界のみんなの事を思い出す。
そして、隣にいるリアンの存在を。
確かに効きそうだ。
不安が和らいでいく。
その時、扉が開いて、マリーさんが再びやってきた。
「ついてきて下さい。ダイアナさまがお会いになります」
「は、はい!」
わたしは勢いよく立ち上がり、リアンはゆっくりと優雅に立ち上がる。
マリーさんが扉を開け、わたしたちを中へと案内する。
そこは大広間だった。
壁も床も、やはり真っ白だったけれど。
金色のシャンデリア、金色の枠の大きな鏡。
天井には天使が描かれていて、華やかで豪華な装飾が施されていた。
広間の両端には槍を持った男性たちが整列をしている。
そして、金色の刺繍が入った白い、大きな椅子。
そこに1人の女性が座っていた。
金色の髪を結い上げ、白い肌に青い瞳。
…ダイアナさまだ。
母と似たところがあるだろうか。
探してみようとするけど、儚げだった母と比べて、自信溢れる眼差しをしてるから…なんだか見つからない。
「ライラの娘だとか言ってるみたいだけど」
唐突にダイアナさまは口を開いた。
「金髪に青い瞳も持ってないようね。…ただライラを連れて逃げた若い医者は確かに地味な黒髪だった気がするわ。瞳が何色だったか覚えてないけど」
そう言ってかすかに笑い、
「貴女が本物の娘かわからないけど、やはり一般人の血が混じると《女神》はダメってことね」
と意地悪な猫のように目を細めた。
わたしは唇を噛んだまま、見つめ返すしか出来ない。
「ねぇ!私が予言した場所にいた少女はこの子で間違いないのかしら?貴方が逃した子は」
ダイアナさまが右端にいる男性たちに声をかけると、口髭のある男が一歩前に出た。
「間違いありません。謎のお菓子を私の口に入れ、逃走した者です!」
そう言ってわたしをにらみつける。
「あっ」
思わず小さく声が出た。
…わたしを馬に乗せようとした人だ!
そして《涙が出るキャンディ》を食べてもらった人…。




