58.美しき庭園
屋敷の周りには庭園があり、色とりどりの花が咲いていた。
都会の街並みの中で、そこだけが色彩に溢れいて…とても綺麗だった。
あそこで母が生まれ育ち、父と出逢って、2人でその場を離れたんだ…。
「行きましょうか?」
「はい」
リアンに促され、頷く。
人混みに紛れながら、街中を歩き、屋敷を目指した。
なんだか男性も女性もおしゃれで、洗練されてる気がする。
そんな中、わたしたちのようなすぐに観光客とわかるような人たちも多い。
わたしたちはやたらキョロキョロし、市民はまっすぐ歩いている。
案内板で屋敷はすぐにわかった。
黒の高いフェンスに囲まれ、その中には緑の生垣が見える。
当たり前だけど、そこには門番が立っていた。
少し躊躇するわたしを尻目に、リアンはサッとスマートに声をかける。
「すみません。ダイアナさまに面会したいんですが」
「はっ?」
丸顔で体格のいい門番は目を丸くしたあと、薄笑いを浮かべた。
「ダイアナさまはお前たちみたいな一般庶民と会わないよ。何か予約でもしてるのかい?」
「きっとお会いになると思いますよ」
小馬鹿にする門番にリアンは優しく微笑みかける。
「ずっと探している、お菓子屋が訪ねてきたのだから」
「なっ…?もしかして、あのお菓子屋…?」
その言葉を聞いて、門番はリアンの顔を人差し指で指す。
顔中に驚きが広がっていく。
「それと」
わたしも口を挟む。
「ダイアナさまの姉、ライラの娘も一緒に来た、と伝えてください」
「ライラさまの…?」
「固まってないで、早く早く。取り次いでください」
リアンがしっ、しっ、という感じで手のひらを振ると、門番はわたしたちを交互に見たあと、門を開けると屋敷の方へ走り出していった。
「さて。お庭でも拝見しますか」
リアンは猫のようにしなやかに門の隙間から入っていく。
「ここで待たないんですか?」
「すぐに招かれるでしょうから。綺麗なバラだなぁ」
リアンは花を愛でながら余裕の表情だ。
…仕方ない。
わたしも勝手に門をくぐり、庭園へと進んだ。
ピンクのバラのアーチに小さな噴水。
綺麗に手入れがしてある芝生は、目にも鮮やかなグリーン。
これからの事を忘れて、わたしはこの美しい庭園に見惚れてしまった。
「凄い…綺麗ですねぇ」
「はい、とても」
「あぁ!もう勝手に入ってる!」
数十分後、さっきの門番が戻ってきて悲鳴に近い声を上げた。
「なかなか戻ってこないので」
リアンは相変わらず動じず、にこやかだ。
門番は白い服を着た、年配の女性を連れてきていた。
白髪混じりの髪を後ろに束ねたふくよかな女性。
わたしたちを疑わしそうに見つめている。
「私はダイアナさまについて補佐をしています、マリーと申します。貴方たちが…お菓子屋とライラさまのお嬢さま…?」
「いかにも、私がお菓子屋です。そしてこちらがライラさまの忘れ形見。お菓子屋同様、探し回っていられる少女でもあります。私たちを探すために街がずっと監視されている。街の皆さんにご迷惑がかかるのは、心苦しいのです」
リアンはマリーさんの前に進み出て、ゆっくりと頭を下げる。
「どうかダイアナさまに会わせていただけませんか?
私たちを探していたのは他でもない、ダイアナさまです」
マリーさんは苦手な野菜を間違って食べてしまった、というような表情でその話を聞いていた。
やがて、ふぅっと息を吐くと、
「…わかりました。ついてきて下さい。貴方は定位置に戻って」
門番に指示を出すと、屋敷へと歩き出した。
わたしとリアンは自然を合わせ、互いにうなずくと、その後をついていった。




