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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
57/67

57.中央都市

父は一瞬の沈黙の後、吹き出した。


「お前はほんとに…」


そう言って、困ったような顔をしてリアンに向き直った。


「私はこの子の母である《運命の女神》と駆け落ち…しましてね。病弱でしたが、とても芯の強い女性でした。屋敷を出ることについて、何度もそれで良いのか、大丈夫なのかと尋ねる私に『自分は絶対にそうしたいのだ』と強い眼差しで答えてくれました。その時のことを…今思い出しました」


「素敵な女性だったのでしょうね。アリスさんを見ていたらわかります」


リアンはわたしを見て目を細めた。


う…お世辞、お世辞。

平常心、平常心。


「ね、心配しないでね。わたし、大丈夫だから」


わたしがお父さんの腕をギュッとつかむと、


「心配はするよ」


眉間にシワをよせた後、


「…でも、応援もするよ」


微笑みに変わった。


「ありがとう!」


わたしは思わずその場で飛び跳ねる。


「リアンさん、娘を頼みます。負ける気がしない娘ですが」


「はい。むしろ頼りになりますね」


2人はなんだか変なやりとりをしてる。


そして、わたしとリアンは《女神》のいる中央の都市を目指した。


田舎で長閑な南の街から、汽車を乗り継いで3時間程。


車窓から眺める景色はどんどん都会的なものに変わり、背の高い建物が増えていく。


「中央は初めてなんでしたっけ」


向かいで腕を組み、眠っていたはずのリアンに話しかけられ、わたしは驚いた。


「起きてたんですか?」


「目を閉じていただけで、寝てないですよ」


そう言って微笑まれても、それが本当かはわからない。

それは聞き流して、質問に答える。


「初めてです」


「熱心に景色を見てましたけど、やはり都会は刺激的ですか」


「今までだったらそうかも知れません。でもあの世界の魔法の街を知ってしまったら、普通の街に感じます」


「そうですね。空にクルートも飛んでない」


わたしは青い空に目をやり、クルートに乗ったことを思い出した。


…マダム、元気かな。


美しく凛としたマダムを思い返していたら、急に皆んなが恋しくなった。


「わたし、ホームシックになりそうです」


鼻の奥がツン、としてあわててうつむく。


「すぐみんなに会えますよ」


リアンの優しい声が耳に響くけど、顔が見れずにうつむいたままで頷いた。


汽車から降りると、まだ体が揺れてるように感じた。

長い3時間の旅もとりあえずは終わりだ。


リアンもわたしも大きな伸びをして体をほぐす。


出発した駅はこじんまりとした古い木でできたものだったけど、ここは立派な石造り。

とても広くて天井も高い。

沢山の人が忙しなく行き交っていた。


「もう夕方ですね。早く《運命の女神》の屋敷に…」


「あら!観光の方?」


リアンが腕時計に目をやった時、隣にいた年配のご婦人グループが声をかけてきた。


「あたしたち西から来たんだけど、《運命の女神》の屋敷も見物してきたのよ。もちろん外からだけど」


「駅の展望室の双眼鏡から見えるわよ。バラのある庭園も見事なの」


「それは素敵な情報をありがとうございます」


早口で教えてくれるご婦人たちにリアンがお礼を言うと、手を振りながら去っていった。


「展望室、行ってみますか」


「はい」


階段で屋上に作られた展望室に向かうと、ガラス張りになっていて、街が一望できた。


緑が少なく、灰色の建物が密集してるのがよくわかる。


「あぁ、きっとあの辺りですね」


リアンが指差す方向になんだか白い建物が肉眼でも見える。


備えつけられている双眼鏡を除くと、真っ白な壁のお屋敷に瞳を模った金色の紋章が見えた。

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