55.魔法と勇気
「次に手帳を開いて、白いページを球体に向けて下さい」
言われるままに手帳を開くと、真っ白のページが続いている。
そして、それを球体にかざした。
次の瞬間、球体から光が伸びて手帳に吸い込まれていく。
それと同時に、ドム爺さんが立ってる近くに白い光が生まれた。
「手帳をご覧下さい」
クリフさんは優雅に続ける。
光があたったページには丸いスタンプのような、紋章のようなものが浮き上がっていた。
「このスタンプがあると、この『道』を使うことができます」
「こちらに戻ってくる時はどうすれば?」
リアンが尋ねる。
「そちらの世界にもこの球体があります。普通の人には見えないようにしてありますが。手帳が導いてくれるでしょう」
この手帳…大切にしなくちゃ。
わたしはぎゅっと手に力を込める。
「あ〜あ、オレも一緒について行きたいなぁ」
カレブが大きな声でぼやく。
「ありがとう。でもすぐに戻ってくるから」
「絶対だよ」
わたしはカレブに頷く。
「では、行きましょうか」
「はい!」
リアンの言葉に力強く返事をする。
「お気をつけて」
「また来いよ」
「早くだよ!絶対!」
柔らかく微笑むクリフさんに、軽く手を上げるドム爺さん、羽をばたつかせるカレブ。
「みんな、ありがとう!またね!」
わたしたちは白い光の中に進んでいく。
そこには石でできた階段があった。
初めてこの世界に来た時のように階段を下っていく。
下っていくほどに光は遠ざかり、薄暗くなっていった。
「緊張してますか?」
ふいにリアンに尋ねられた。
「えっ?」
「顔が固まっています」
「えっ、えっ」
わたしは両手で頰を包んだ。
「大丈夫、きっとうまくいきますよ。魔法はその為にあるんです。ポジティブな気持ちで使う魔法は成功します。ネガティヴな気持ちで使う魔法はそれに勝てないものですよ」
「ポジティブな魔法…」
「私自身は魔法を使えませんが、子供の頃から魔法の世界にいて、そう学び取りました」
これから対峙する《運命の女神》ダイアナさま…
きっとポジティブな気持ちでは負けない気がする。
「…そうですね。ありがとうございます。リアンはいつもわたしに勇気をくれる」
ん?ポロっと唇から本音が溢れてしまった。
「…というか、あのっ」
あわてて何か言おうとしたけれど、
「いつも勇気をもらってるのは私の方ですよ」
リアンがそう言って微笑んだ。
「アリスは前向きで一生懸命で、勇気がある。いつもハッとさせられます。…私はあの魔法の世界と出会うまで、孤独な幼少期を過ごしていました。もしあの時、アリスと知り合えていたら…私は今と違った人物になれてたかもしれませんね」
孤児院で育ち、丁寧な言葉使いと笑顔で身を守ってきたリアン。
でも…わたしは。
「でもわたしは今のリアン、好きですよっ」
なぜかぶっきらぼうに言葉が飛び出した。
なにこれ、なんか告白みたいになっちゃった?
そうだけど、そうじゃなくて…
わたしは一気に混乱してしまう。
「ふふっ、ありがとうございます」
慰めにとったのか、リアンは笑って流しただけだった。
階段を下り、平地を歩き、再び階段を上り、光に包まれた…と思ったら、そこは森の中だった。
明らかに空気が違う。
久しぶりに帰ってきた…!
ここは元の世界だ!




