52.決意
レヴィ様は薔薇色の唇を動かし、口角を上げる。
「そうですね…塔に移動させた事は、まず1つ。リアン・アンダーソン。貴方が何をするか予想が出来なかったからです」
「…と、おっしゃいますと?」
「子供の頃からこちらの世界に親しみ、魔法を持ち込んでお菓子屋を開いてる。そんな人物はこの歴史上初めてなんですよ。私たちとしては速やかに道の整理や管理をしたかったのですが…貴方は予測不能な不思議な方。他の人たちと分けて考えなくては、と思ったのです」
レヴィ様にそう言われ、リアンは困ったような顔をしてるけど、わたしにはなんとなくわかる。
「それともう1つ。アリス・エヴァンズ。貴女の力を確かめたいという気持ちもありました」
わたしに視線を移したレヴィ様。
自然と背筋が伸びる。
「私たちの血を引く者とわかりましたが、見たところなんの力にも目覚めてないようだったので…。ただ、彼を助けるためになんらかの覚醒をするだろう、と感じました」
リアンを助けるためなら覚醒する…ってその通りになったんだけど、この話を聞いて彼がどう思うか…なんて考えたら、顔が熱くなった。
「そんな訳で、お二人は落ち着かない日々を過ごすことになってしまったので、あれが相応の処罰になるのでしょう。ごめんなさいね」
レヴィ様は微笑み、
「個性豊かな人たちを味方につけて、無事リアンを救出した、アリス。貴女は自分が知らないだけで素敵な魔法を持ってるようなものなのですよ」
「素敵な魔法…ですか?」
「そうです。人が集まり、協力してくれる、それも能力です」
…確かにそうだ。
わたし1人じゃ何もできなかった。
皆んなが助けてくれたから、ここまでやってこれたんだ。
「本当にそうですね。みんなのおかげです…」
そう口に出すと、涙がこぼれそうになった。
「これから、貴女たちにも世界を行き来できる旅行手帳を手配します。ですが、問題は解決していません」
優しくも力強い声に、わたしは緩んだ心を引き締めた。
「貴女たちが元の世界に戻ったら。月日はまだ一ヶ月しか経っていない状態で帰ることができます。そして、『女神』は未だお菓子屋と逃げた少女の行方を探しているのです。街には緊張が溢れています。どうしますか?」
そうだ。
わたしたちは、とりあえず逃げてこの世界にやってきたんだ。
この世界と元の世界を行き来できるようになっても…いつかこの地で暮らすことを選んでも…逃げたままではダメだ。
問題を放置したままでは前に進めない。
「…わたし、『女神』に会って話をします」
「アリス、勿論私も一緒に行きます」
すぐさま早口でリアンが言った。
わたしは強張った表情で頷く。
レヴィ様は笑顔で頷くと、
「では。アリス、貴女に祝福を送りましょう。『女神』と対峙した時に負けないように。貴女も私たち一族の1人。自信を持って」
と席を立ち、わたしの額に指先を伸ばした。
ひんやりと冷たい感触がする。
「そのまま目を閉じて」
言われるがままに瞼を閉じると、どんどん触れられた額が熱くなってくる。
「貴女の中にある、力を感じますか?」
「…はい」
体の奥が熱くなってくる。
そして体全体がどんどん熱くなっていき…光の爆発のようなものを感じた!
「…!」
心臓がドキドキして、わたしは目を開けた。
しっとりと汗をかいている。
「大丈夫ですか?」
リアンが心配そうにささやき、わたしは小さくうなずく。
「まだまだコントロールが必要ですが、貴女の中には大きな力があります。全てが片付いて落ち着いたら、クリフの元で修行すると良いでしょう。貴女なら、良い魔法士になれますよ。そしてこの世界を良くする仕事を手伝ってほしいものです」
「…ありがとうございます」
自分の将来なんて考えたことなかったけど。
それは素敵な仕事に思えた。




