51.ルーツとお茶会
「あ、あの…」
この美しい女性に聞きたいことは沢山あった。
だけど上手く言葉が出てこない。
オーラのようなものに、圧倒されてしまう。
「貴女たちも私も話したいことが沢山ありますね。ひとまず座ってゆっくり話しましょう」
女性は微笑むと、凛とした声で言った。
「どうぞこちらへ」
煉瓦の家の裏に導かれると、花に囲まれた、白い木のテーブルとイスがあった。
勧められるままにわたしとリアンは腰を下ろす。
女性は箒をくるっと回転させて消してしまうと、指をパチンと鳴らした。
そのとたん、何もなかったテーブルに湯気の上がった紅茶、カラフルなケーキやクッキーなどが現れた!
「ティーパーティーをしながらお話しましょう」
そして女性も席についた。
一瞬でこんな魔法を使えるなんて…
「あなたがレヴィ様ですか?」
単刀直入にリアンが尋ねた。
「そうです。初めまして」
レヴィ様…その青い瞳を見つめながら、コナーが言った事を思い出した。
「通りで気にする訳だ」、と。
金髪と青い瞳。
運命の女神の特徴、そのもの。
レヴィ様はわたしの無遠慮な視線を笑顔で受け止め、小さく頷いた。
「貴女が思っている通りですよ。貴女には私と同じ血が流れています」
静かにそう告げられ、わたしの心臓が高鳴った。
「私たちの地に降り立った、今は『運命の女神』と呼ばれてる存在…それはレヴィ様の身内だった、という
ことですね?」
小さく指が震えるわたしに変わって、リアンが確認をした。
「そうです。私の先祖にあたる女性、レベッカ。彼女がこちらの世界から異世界である、貴女たちの世界へ旅立ったのです。そのようなことは禁止されていたのですが、レベッカは好奇心の強い女性だったようです」
レヴィ様はティーカップを口に運ぶ。
そしてソーサーに戻すと、話を続ける。
「もちろん、こちらの魔法を持ち込むことも禁止でしたが彼女は従わず、こちらの世界とは絶縁状態になりました。故郷に戻ることは出来ず、そちらの世界で一生を終えました。家族も持ったので、元の世界に帰る気もなかったのかも知れませんが」
『運命の女神』のルーツは異世界にあったんだ…。
「そして子孫たちの女性には代々力が受け継がれ、『運命の女神』として特別な存在とされてきた。そうですね?」
「はい」
わたしは頷く。
「本来の力は運命を視ることだけではなく、いろんな能力があります。ただ、そちらの世界は魔力に満ちていないので、すべての能力を覚醒することはできないのです。魔力の才があって、それらすべてが覚醒しそうになっても体力の方が持たないでしょう」
…お母さんはそうだったんだろう。
「私たちは身内がいるからといって、そちらの世界に干渉はしないでいました。生き方も歴史も全く異なり、時が流れていったからです。『女神』たちだって異世界のことは知らないでしょう。ですが」
レヴィ様はリアンにいたずらっぽい視線を送る。
「異世界間の旅行者が増えて、管理をどうしようかと思っている最中、報告が入りました。異世界でこちらの魔法を持ち込んで、ちょっとした騒ぎになってると」
「…大変申し訳ございません」
リアンは頭をかきながら、大きな体を縮める。
「そして騒ぎの中心には『女神』たちもいる。元々持ち込まれた魔法と再び持ち込まれた魔法。困ったことです」
「…すみません」
思わずわたしも目を伏せる。
「そして少々乱暴ですが、一度『道』を封印しました。ゆくゆくは私たちが管理をした『道』を用意し、旅行手帳を配布して通行する形をとる予定です」
「あのぅ…」
おそるおそる、といった感じでリアンが口を開く。
「問題を起こしたものにはそれ相応の処分がある…わけですかね?私だけ塔に移されていた訳ですし。おまけにそこも脱走してしまいましたし」
歯切れ悪くそう言って、ニッコリと微笑んでみている。
…確かに。わたしたちは脱走事件を起こしてるんだった。




