50.1枚の風景画
上昇していた小さな部屋はやがて止まり、扉が開いた。
コナーがするりと外へ出て行き、わたしたちもその後に続く。
ついた場所は下のホールとは打って変わって、狭い廊下だった。
左右には茶色のドアが並んでいる。
どれも全く同じに見えるけれど、コナーは突然立ち止まるとそのうちの1つを開けた。
そして、その中へと進む彼についていくと。
その部屋には沢山の絵が飾られていた。
主に柔らかい色彩の風景画だ。
空と海をテーマにしたものもあれば、街の景色を描いたものもある。
「この絵は誰が書いたものなんですか?」
「私にはよくわかりません」
リアンの質問に即答するコナー。
「聞いていただけで、ここに来たのは初めてなもので」
そう言いながら、1枚、1枚、絵を確認するようにして部屋を回っていく。
「ああ、これですね」
やがて、小さな声で呟いて、1枚の絵の前で立ち止まった。
金色の枠がついているその絵は、長閑な風景が描かれていた。
花が咲いている小さな庭と石畳のポーチ。
蔦がからまる煉瓦造りの古い家も右側にある。
コナーはその絵に両手を伸ばし、壁から外すと床に置いた。
その絵の下には…鏡があった。
コナーは部屋の隅にあった木の丸椅子を鏡の下に置くと、
「これを踏み台にして、鏡の中へ進んでください。レヴィ様の元へと行けるはずです」
と言った。
「コナー…さんはここでお別れですか?」
わたしが尋ねると、眼鏡を押し上げる。
「招かれてるのは貴女たち2人です。これ以上先には行けません。又、私には仕事が山積みなもので。本当はこの時間は寝てるんですが」
そうだった。
こんな朝はコウモリの時間じゃない。
「案内、ありがとうございました。また会えますかね?」
「あまり会いたいとは思いませんけど」
にっこり微笑むリアンに、コナーは腕組みをしながら涼しい顔だ。
「では、アリス。私が先に」
リアンは椅子に足を乗せると、ひらりと飛び込むようにして鏡の中へ消えていった。
「あの、ありがとうございました。クリフさんにもよろしくお伝え下さい」
「あの人の事はいいです」
わたしもコナーに会釈をすると、クリフさんに対しての冷たいコメントがかえってきた。
こうやって彼の目の前で移動するのは3度目だ。
なんか変な感じ…。
丸椅子に乗り、鏡の中へ飛び込んでいく…!
一瞬、光に包まれ、それが消えたとたん。
足元にジャリッとした砂の感覚が現れた。
乾いた風に髪が揺れる。
ここは…?
「さっき見た絵と同じ景色ですねぇ」
背後にいたリアンがのんびりと言った。
本当だ。
花壇に石畳のポーチ。
蔦の絡まる家もある。
「わたしたちは絵の中に入ってきたんでしょうか?それともここの風景を絵に書いただけ…?」
「不思議な事といえば、ここには鏡がないという事です。鏡をくぐってきたなら、対のものがあるはずなのに」
確かにそうだ。
辺りをキョロキョロしてもそれらしいものはない。
「ここに本当にレヴィ様はいらっしゃるんでしょうか?お屋敷みたいなものもないし…」
「あの煉瓦の家で聞いて見ましょう」
わたしが首を傾げるとリアンは煉瓦の建物を指差す。
周りを見回しても他に建物はないし、それが1番良さそう。
わたしたちは石畳の小道を進んで、古びた家に近づいた。
すると、玄関先で茶色いローブを身にまとい、箒で掃除をしている人物がいた。
「あの、すみません」
こちらに背を向けているその人にわたしは声をかける。
「レヴィ様を探しているのですが…」
「…お待ちしておりましたよ」
その人は振り向くと、サッとローブのフードを下ろした。
輝く金髪のロングヘアに…瞳は青色の女性だった。




