48.天空のホール
その瞬間。
魔法陣は光の柱となって、わたしたちを包みこんだ。
光の洪水に思わず目を閉じ、そして次に開けた時には、白い空間の中に立っていた。
オーウェンさんのコンパクトで移動した時のような、何もない空間だ。
「先に進みます」
クリフさんは先頭に立つと静かに歩き出し、リアンとわたしはそれに続く。
艶やかに輝く見事な銀髪に見惚れていると、リアンが口を開いた。
「クリフさん。いくつか質問していいですか?」
「私がお答えできることでしたら」
クリフさんはちらりと振り返ると、控えめに謙遜する。
「では、遠慮せず」
リアンは咳払いを1つすると。
「『道』を封印して、こちらに残った異世界の者と、別の世界に行ってるここの世界の者をどうする予定なのですか?塔には私しかいなかったようですが、他の者たちはどこへ?今後もずっと他の世界と交わらず封印していく予定ですか?」
次々と質問していく。
「本当に遠慮はしないのですね」
クリフさんはくすりと小さく笑う。
「まず、『道』を封印しましたが、正確には全てを封印した訳ではありません。1つだけ、私たち魔法士たちが利用するものは繋げてあります。今、弟子たちが手分けをして異世界に向かい、一度こちらに連れ帰る、という仕事をしています。大変骨が折れる作業ですが、皆頑張ってくれています」
確かに、それはとても大変そうだ。
でも、デイジーのお父さんもそのうち帰ってこれるってことだよね。
「そして、ご存知のようにこちらにいる異世界の旅行者も全員把握するよう努めています。…私たちは全員を元の世界に戻したらすべての『道』を封印し、私たちの世界だけで存在していく」
一度そこで言葉を切る、クリフさん。
「と、思ってるわけではありません。今のように無法地帯になっているのを正したいのです。きちんと『道』を管理し、世界間を移動する際は申請を出す、など。そうすれば、異世界での犯罪も防げるはずです。今後、旅行手帳を発行予定です」
「なるほど」
確かに出入国(国とは違うけど…)の管理をきちんとするのは良い方法だ。
「そして、リアンさんは他の旅行者とは違っていました。小さい頃からこちらへ行ったり来たり。おまけにこちらの魔法を向こうの世界へ持ち込む、使う、なんて人は滅多にいないんですよ」
クリフさんの若干咎めるような口調に、リアンは頭をかく。
「…すみません」
「他の方たちは違う施設に集め、旅行手帳を持たせて、元の世界に順番に帰す手筈を整えています。…貴方を塔へ、と指示したのはレヴィ様です。何かお考えがあった事だと思います。直接お尋ねくださいね」
…レヴィ様の指示で塔へ。
そこから脱走してしまった。
ネガティヴなわたしは嫌な気持ちが身体中広がっていく。
レヴィ様、凄く怒ってるんじゃないだろうか…。
やがてクリフさんは立ち止まると、杖の先を前方に向けた。
すると、白い空間が霧が晴れたようにスーッと消えていき、わたしたちは広いホールのような場所に立っていた。
水晶のように透明な太い柱が何本もあり、天井が物凄く高い。
床はなめらかなミルク色だ。
ローブを身につけた人達がクリフさんに会釈をしながら行き交う。
「ようこそいらっしゃいました。ここは魔法士たちが仕事を行なっている場です」
「随分高いところですねぇ」
窓に目をやったリアンの言葉に、わたしも窓際に駆け寄る。
眼下に広がる街の景色…なんてものは見えなくて。
青い空に白い雲しかそこにはない。
「えぇ、浮かんでるもので」
「浮かんでる??」
あっさり答えるクリフさんに、わたしはすっとんきょうな声で尋ねた。
「クリフ様、ちょうど良いところに。よろしいですか?」
だけど、1人の魔法士の男性が話しかけてきて、わたしの言葉は宙に消えた。
「少しご相談したいことがあるのです」
「これからこの方達をレヴィ様の元へ案内しなくてはいけなくて…困ったな」
クリフさんは眉を寄せて、美しい顔を曇らせる。
そして次の瞬間、明かりが灯ったようにパアッと笑顔になった。
「ちょうど良いところにいましたね。コナー!」
ドアから出てきた彼は、物凄く嫌なものを見た、という表情で硬直した。




