47.新たな出発
「いえいえ、そんな…」
わたしは両手を顔の前で振った。
「あの、わたしの母親が普通の人とは違う力を持ってたんです。だけど、わたしには全然遺伝してなくて。
昨日、塔へ行った時にその片鱗が生まれたんですが…自分でも使い方がよくわからないんです」
しどろもどろになりながら、言い訳のように伝える。
「アリスが少し魔法の匂いがするのはそういう訳かぁ」
テーブルに頬杖をつきながら、デイジーが言う。
「使い方なら、オカアサンに聞けばいいじゃん」
「お母さんは小さい時に亡くなってるの」
「あ…ごめん」
明るく提案してくれたカレブに出来るだけ明るい声で答えたけど…彼はしゅんとなってうなだれた。
「でもさぁ、本当に良いチャンスじゃない?あたしたち全員のこと、許してもらって。『道』の封印も解除してもらって。もうビクビクしなくて済む〜」
デイジーは胸の前で手を組み合わせて、天を仰いだ。
「おめでたいなぁ」
苦々しい表情のドム爺さんは、指でトントンとテーブルを叩く。
「レヴィ様のお屋敷なんて想像できない世界だぞ。何が起こるかわからない」
…確かにこの世界の頂点に立つ大魔法使いと会うなんて。
そこでどんな事が起こるなんて、全く想像出来ない。
「まあまあ。レヴィ様は大賢者でもいらっしゃいますし、そんなに警戒しなくても」
わたしの表情が曇ったのを見て、オーウェンさんが慌てて間に入ってくれた。
「そうですよ、大丈夫」
黙っていたリアンが口を開く。
「カレブに扮していたクリフさんへの振る舞い、凛々しかったですよ。あの調子で行けば大丈夫です」
「えっ!」
そう指摘されると…。
しゅわしゅわと、顔に血が上ってくる。
あんな偉い魔法使いの人を。
物凄く強気な姿勢で問い詰めてしまった…。
仕方なかったとはいえ、恥ずかしい…。
「褒めてるんですよ?」
わたしのリアクションが意外だと言うように、リアンはつけ加える。
「…わかってます」
とりあえずそう答える。
とにかく、1人で行く訳じゃないから安心だ。
リアンの動じない性格はわたしを助けてくれるだろう。
そして、その日の1日は久しぶりに戻ってきたリアンを囲んで、皆ゆっくりとした時を過ごした。
もちろん、心の隅には落ち着かない気持ちもあったけれど。
翌朝。
再び開かれた朝食会の会場に、光とともにクリフさんが現れた。
「おはようございます」
端正な顔に白い歯を輝かせて、さわやかに挨拶をして下さる。
「準備はよろしいですか?」
「は、はい!」
「はい」
尋ねられ、わたしたちは頷く。
塔へ出発する時のように、他のみんなは心配げな顔をしている。
「そんな顔をしなくても、取って食べたりはしませんよ」
そう言いながらクリフさんが手首をくるりと回すと、
空間から木の杖が現れた。
そしてその杖の先で、床に何かを描いていく。
魔法陣…だろうか。
ピンク色の光に輝く、丸い記号と文字で作られた円が床に浮かび上がる。
「自分1人だけの移動なら簡単なんですけれど。今回は3人での移動なので、こちらを使います」
クリフさんはその中心に立つと、わたしたち二人を促した。
「どうぞこちらへ」
クリフさんを真ん中に左にわたし、右にリアン。
「私の腕に手を乗せてください」
言われるままに紫のローブに手を乗せる。
なめらかな手触りだ。
「では」
クリフさんは杖の先で床をトンッと叩いた。




