46.微笑みの招待
「その事について、レヴィ様は何かお見通しの様でした。私は指示された通りにカレブさんに近づき、容姿や声をお借りしてこの場にやってきました」
クリフさんはカレブに目をやり、
「大変失礼致しました」
と謝罪した。
カレブは不満げに嘴を動かしたけれど、結局何も言わなかった。
「そして、アリス嬢。貴女は私がカレブさんじゃない事を見抜きました。これもあり得ない事なのです。…あぁ」
うっかりしていた、という様にクリフさんは手を額に当てる。
そのしぐさもとても絵になった。
「先ほど、魔法が効かない事はあり得ないといいましたね。これは正確ではありません。正しくは…」
その手を胸の前にして、人差し指をピンと立てる。
「レヴィ様や私同様の魔力がなければ、効かない」
皆んなの視線がわたしに集中した。
…わたしの中の《運命の女神》の力。
それがレヴィ様クラスの魔力…。
頭の中で色んな考えや思いがぐるぐる回るけど、結局何も答えられず、わたしは人形のようにその場に突っ立っていた。
「貴女の力、確認させて頂きました。そして、これからようやく本題に入ります」
クリフさんは笑みを絶やさず、続けていく。
「レヴィ様は貴女と面会する事を希望しています」
「えっ!?」
ようやくわたしの口から声が出た。
「レヴィ様は貴女の力について、何かご存知の様でした。失礼ですが、見た所、貴女はその力を使いこなせていない。魔力について、貴女も知りたいことがあるのではないですか?」
クリフさんはわたしに問いかけるけれど、それは返事を求めるものじゃなかった。
わたしの気持ちを揺さぶるための疑問系だ。
「行きなさいよ、アリス!」
真っ先に声をあげたのはデイジーだ。
「レヴィ様に会って、あたしたちがやった事、許してもらってきてよ!」
「お前さんは本当に…。オーウェンはデイジーのどこがいいんだ?」
ドム爺さんが呆れ顔で言うと、
「正直で真っ直ぐなところです」
オーウェンさんは即座に答える。
ドム爺さんは肩をすくめた後、わたしに向き直り言った。
「アリス、レヴィ様に会えるのは大変名誉なことだ。そんな人はこの世界の中でも殆んどいない」
「は、はい…」
緊張?不安?そんな感情が渦巻く。
「アリス嬢。急な話ですから、今すぐとは言いません。私は明日の朝、お迎えに参ります」
そんなわたしを安心させるように、クリフさんは満開の花のような笑顔をみせる。
「あの」
リアンが右手を上げる。
「私もアリスと一緒に行ってもいいですか?」
…確かに1人で行くよりも、リアンが一緒だと心強い。
「お願いします」
わたしもクリフさんを見つめた。
クリフさんはわたしとリアンの顔を交互に見た後、頷いた。
「よろしいですよ。それが良さそうですね」
そして、丁寧に頭を下げた。
「では明日。よろしくお願い致します」
次の瞬間、クリフさんの体は光の粒になって消えていった。
「はぁ〜何が何だかわかんないんだけど!」
デイジーはオーウェンさんの後ろから出てくると、椅子にドカッと腰を下ろした。
「オレもなんか疲れた…」
カレブも力なくつぶやく。
「なんなの、あの無駄に美形な補佐官は?」
「レヴィ様同様、表に出ないで仕事してたんだろうな。あんなイケメンがいたとは。俺の力を封じた補佐官の弟子ってヤツは長いヒゲのおっさんだったぜ」
デイジーが眉間に皺を寄せると、ブルーノさんはコーヒーをすすりながら言う。
「他の魔法士たちは『道』を封印してて動けないから直々に第1補佐官が動いたんだろう」
「それか…」
ドム爺さんの言葉をさえぎるようにブルーノさんが口を開く。
「よっぽど重要な案件だったか、だろう。凄い魔力を持った異世界の少女が現れたんだ。なあ?」
そして、わたしを見てニヤリと笑った。




