45.舞う指先
「オレはローブを着たジイサンに話しかけられたんだ。そしてそれから意識を失った。目が覚めて、慌ててここまで来たんだよ!」
カレブは興奮して早口でまくし立てた。
「お前はあの時のジイサンだろ!」
「それは1つの姿に過ぎませんよ」
カラスは穏やかに答えると、一瞬のうちに人の姿になった。
一言で言うと…美青年といった所だろうか。
品のある整った顔立ち。
長く真っ直ぐな銀髪。
深い紫色のローブをすらりとした身にまとっている。
「大変に興味深い皆さんですね」
男性はニコリと優雅に微笑む。
「オーウェン・ハワードさん。私は貴方のお父様に鏡を発注した事がありますよ」
「貴方は…」
オーウェンさんの瞳が丸くなる。
そして男性は次々と視線をわたしたちに移していく。
「ドムウェル・カーターさん。この世界一の『道』の作り手ですね」
「それはどうも」
ドム爺さんは居心地悪そうに答えた。
(本当はドムウェルさんっていうんだ…)
「ブルーノ・テイラーさん。貴方の力を封じたのは私の弟子です」
「…立派な仕事をしてくれたよ」
ブルーノさんはニヤリと笑う。
「そして、お菓子職人のデイジー・ルイス嬢」
デイジーはサッと立ち上がると、オーウェンさんの後ろへ隠れる。
「異世界からの旅行者で、昨日脱走した、リアン・アンダーソンさん」
リアンは小さく頭を下げる。
「ここに来るために姿を貸してもらったカレブさんに…」
警戒してるカレブを見た後、男性の瞳はわたしを捕らえた。
「もう1人の異世界からの訪問者。アリス・エヴァンズさん」
誰にも名乗っていないのに、フルネームを知っている…。
「自分が先に名乗らないなんて失礼じゃないのっ?」
オーウェンさんの影からデイジーの声が飛ぶ。
「全くもって、おっしゃる通りですね。失礼致しました」
気を悪くするでもなく、男性は柔らかく応じる。
「私はレヴィ様の第1補佐官、クリフと申します」
レヴィ様の!
「ゲェッ、超大物…!」
カレブが喉の奥から驚きを吐き出した。
「私…昔お会いしたこと、ありますね…?」
オーウェンさんが尋ねるとクリフさんはゆっくり頷く。
「えぇ。私がお父様と仕事の依頼について話してるところに貴方はやって来た。まだとても小さかったですね」
子供の頃の小さいオーウェンさんを今の姿から想像するのは難しいけど…きっと可愛い子熊風?だったのだろう。
「そんなお偉いさんがなんの用よ?あたしたちを皆んな捕まえようって言うの!?」
オーウェンさんの背中からだけど、この世界のNo.2みたいな人にこの口の聞き方…デイジーはやっぱり凄い。
「正確には、用があるのは私ではないんですけど」
クリフさんは困った様な笑顔を見せる。
その姿も気品があって魅力的だ。
これがこの人の持つ魔法じゃないのかと思えてくる。
「まず、塔から貴方たち2人が脱出したとコナーから報告がありました」
クリフさんの指先がやはり美しく宙を舞い、わたしとリアンを指差す。
「その報告の中で一番興味深かったのは、アリス嬢。貴女にはコナーの魔法が効かなかった。その事です」
…確かにあの時、コナーの魔法はわたしに届かなかった。
コナー本人もとても驚いていたようだった。
「魔法を扱えるカラスたちの中で、才能がある者には私が更に強力な魔法を授けています。コナーは真面目過ぎて暴走するきらいはありますが、魔法の才は飛び抜けています」
そこでクリフさんは一旦言葉を切り、
「そして、私の魔法はレヴィ様から引き出された強力なもの。それが効かないなんて、あり得ないのです」
透明感のあるグリーンの瞳がわたしをじっと見つめる。
わたしは目をそらす事が出来ず、言葉の続きを待った。




