41.脱出
「コウモリたちに捕まってないか、無事に元の世界に戻れるだろうか…。そんな事を考えていました」
…やっぱり。
そういう心配をしてくれたって事だよね。
わかってた、うん。
一瞬、心臓が跳ね上がった自分が情けなくなる。
「アリス。先ほどの瞳の色の事なんですが」
「ああ、これはきっと…」
切り出されて、わたしは少し躊躇する。
自分でも何が起こったのか、よくわかっていないし。
「あの、わたしの母親は《運命の女神》だったんです。父と駆け落ちしまして…。わたしは父親似で、なんの能力もなかったので…その話はしてなかったんですけど」
わたしの声はどんどん小さくなる。
「なるほど。貴女から魔法の匂いがしていたのはその為でしたか。それで、その能力が目覚めた、という事でしょうか?」
「わからないんです。ただ塔の中でリアンを探してる最中に目が痛くなって、リアンの居場所を感じることが出来たんです」
「そして、コナーの魔法からも身を守る事が出来た…。なんだか通常の《運命の女神》の力よりも、かなり上の能力に聞こえますが」
「ここが魔法の世界だから、効果が上がったのかも知れません。ただ、元々母は自分の膨大な力のせいで病弱だったそうなので…その為なのかは、よくわかりません」
わたしはなんとなく、手を目の下まで伸ばす。
「瞳の色が戻ったってことは、今は魔法の力が引っ込んでしまったのかも知れませんね。その力をコントロール出来る感じはしますか?」
そう尋ねられ、即座に首を振る。
「いいえ。どうやったらいいのかは全く。さっきだって、ただリアンに会いたくて、必死で願ったら…」
そこまで言って、口をつぐむ。
何かとんでもなく恥ずかしい事を口走った気がする。
「あの、ここまで来て、助けられなかったら困るなぁ、と思って」
あわてて付け足して、とりあえず笑ってみた。
リアンは微笑み返ししてくれた後、
「《運命の女神》の力…。コナーの魔法…」
と呟いて、何かを考えてる表情で黙り込んだ。
良かった、わたしの動揺を変に思ってないようだ。
ホッと胸を撫で下ろして、これからの事を考える。
脱出は成功したけれど、これでますます立場が悪くなったんだろうなぁ…。
脱獄なんて凶悪犯だ。
デイジーが怒るのも無理はない。
でも、それでも。
もう離れ離れは嫌だな…。
ちらりとリアンの横顔を盗み見る。
わたしの中の目覚め始めたこの力。
わたしや周りの人を守ることができるんだろうか。
歩き続けてると、前方がどんどん明るくなってきた。
そのまま進むと、白くて丸い光が目の前に現れた。
「もしかして、これが出口でしょうか!?」
自分が思ってる以上に明るい声が出た。
「多分そうでしょう」
リアンが頷く。
皆が待ってる!皆にまた会える!
嬉しさがこみ上げてきた。
「アリス、先へどうぞ」
2人で横に並んでは通れなそうな大きさなので、わたしたちは縦に並ぶ。
わたしが光の中に体を進める瞬間、リアンは体を屈めて、耳元で囁いた。
「私も会いたかったですよ。最後に見たのが貴女の泣き顔だったので、それが辛くて」
「え?」
振り返ろうと思ったとたん、優しく背中を押されて、そのまま光の中へ。
その次の瞬間。
「アリス!」
「リアン!」
わたしたちは仲間の待つ部屋に移動していた。




