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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
40/67

40.水面

「…まったく。あの花火を見ていたら、なんだか急に胸騒ぎがしたんです。嫌な予感というのか」


コナーは乱れた金茶色の髪の毛を右手で撫で付けた。


「それで急いでここに向かったわけなんですけど…予感は当たってた様ですね」


そして、黒縁眼鏡を人差し指で押し上げるとニッコリ微笑む。


「…有能な方なんですねぇ」


リアンがのんびりした調子で言うと、すぐさま笑顔を引っ込めて鋭い眼差しを向ける。


そして足元を見やり、


「凄い量の水ですね。誰が掃除すると思ってるんだか」


と片足で水面を蹴る様にして音を立てた。


「お嬢さん、わざわざ彼を助けに来たんですか?泣かせますね、そういうの」


全く心がこもってない台詞を彼はつぶやく。


「ハワード氏のところにいれば、私たちも手出し出来なかったのに。それでもこうやって1人で乗り込んでくる。男冥利につきますね?」


「そうですね」


リアンは涼しい顔で答え、コナーは片方の眉毛を上げる。


張り詰めた空気にわたしは呼吸するのも苦しくなった。

オーウェンさんからいただいたコンパクトをぎゅっと握りしめる。


「…貴女をあの時、一緒に拘束しておけば良かったかも知れませんね。少々乱暴になりますが、こんな風に」


言うが早いか、コナーは指先をわたしに向けた。


指先から電撃のようなジグザグした光が向かってくる!


「!?」


バチン!!


その光はわたしのすぐそばで、大きな音をたてて消滅した。


「…え?」


わたしは目を丸くし。


「…なんだ?」


コナーも驚いて自分の指先を見つめている。

その表情はいつもより子供っぽく見えた。


「アリス。今の瞬間、瞳の色が紫に戻りました」


「え!」


リアンに指摘され、コンパクトを見ると確かにいつもの薄紫の瞳に戻っていた。


コナーの魔法を弾いたのは青い瞳の力…?


あぁ、考えるのは後だ!


わたしはコンパクトの鏡を水面に向けた。


水面の一部がスポットライトを浴びたように丸く光った。

あの場所から帰るんだ!


「リアン!」


リアンもすぐ察したようだった。


わたしたちは丸い光へジャンプする。


床があった筈なのに、わたしたちの体は沈み込む。


「くそっ!」


コナーの悔しそうな声が遠くに聞こえた。


そして。


わたしたち2人は不思議な空間に降りたった。


前後左右、上下。


揺らめく薄い水色の膜に囲まれた世界だった。


「鏡での移動は一瞬ですけど…水を使った形だとそうはいかないみたいですね」


声が少しエコーがかかったように響く。

なんだか方向感覚がおかしくなってしまいそうだけど、このまま進んでいいのかな…。


「アリス、コンパクトを開いて下さい」


リアンに言われるまま開くと、白い光が前へと一筋に伸びていく。


「この光の通りに進むといいみたいですね」


「どうしてわかったんですか?」


「勘です」


リアンは楽しそうに笑う。


「いずれ皆のところへ着くでしょう。それまでお散歩ですね」


わたしは頷き、これまでの事を話した。


オーウェンさんとドム爺さんに凄くお世話になったこと、デイジーと意見が別れてしまったけれど、最終的には力を貸してくれたこと。


リアンがマフィンをあげて、力を貸してくれたカレブ、元・窃盗犯のブルーノさん。

そして、マダム・グレース…。


リアンは興味深そうに、そして恐縮しながらその話を聞いていた。


「リアンは今までどうやって?」


「ファイルに吸い込まれ、あの部屋に送られてからは、ただひたすら時間を重ねていました。食事時にそれを運んでくる人と顔を合わす以外はずっと1人で。

本が何冊か置いてあったので、それを読んだり。後は、アリス、貴女の事を考えたり」


え?


本当に驚いた時は声なんかでないものだ。

わたしはぐっと息を飲んだだけだった。


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