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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
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4.噂を探るものたち

次の日はよく晴れた日だった。


真っ青な空に洗濯物が揺れる。

朝いちで干したものが昼頃にはほとんど乾いていた。

わたしは中庭の小さなベンチに座ってそれを眺めながら、昨日の事を思い出していた。

不思議なお菓子屋と風変わりな店主…

夢か幻だったような気がしてくる。


「ただいま」

「あ、お帰り!」


仕事から戻った父が顔を出して、わたしはなんだか慌てた。


「お昼ごはんは?オムレツでも焼こうか?」

「自分でやるから大丈夫だよ。洗濯ありがとう」


(これって、父に秘密を持った居心地の悪さなんだろうか…?)


思わず早口になってしまう。

父はとくに気にした様子もなかったけれど、右手にいつもの仕事用の大きな黒い鞄、そして左手に紙切れを一枚持っていた。


「それ、何?」


わたしが指差すと、父はわたしの隣に腰を下ろし、紙を見せた。


「これ…」


ザッと目を通すと、お菓子屋の情報を求めてる文章が書いてあった。

怪しい商売をしてるなどの噂がある店はないか、とか。

お菓子を販売してる店は店名、店主名、住所を記して報告せよ、とか。


そして、現在の第1《運命の女神》・ダイアナの署名と、《女神》たちが使っている、瞳をモチーフにした紋章が最後に記載されていた。


「街のあちこちで配られてたよ。レニーの店でもこの紙を置くように言われたらしい」


思わず紙を持つ手に力が入る。

あのお菓子屋さんは大丈夫だろうか…?


「お父さん。ダイアナさまはどんな人なの?お屋敷に出入りしてた時に会ったことあるんでしょう?」


「うーん」


父は顔をしかめて、首をひねる。


「思い出せないの?それともお母さんのことしか目に入ってなかったの?」

「違う違う」


わたしが意地悪を言うと、父は眼鏡を押し上げて、


「気位が高い女性で僕らが挨拶をしても、いつもチラリと一瞥するだけだったな。そして…なんていうか、ライラにコンプレックスを持っていて、怒りやイライラした気持ちを隠していなかった」


「お母さんにコンプレックス?でも、ダイアナさまは当時は《女神》の補佐をバリバリやってて、お母さんの方は安静状態だったんでしょう?」


「そう。それなのにライラが長女の為、第1《女神》であることが気に食わなかった。役立たずで必要ないと僕ら医師に聞こえるように言ったりしてた」


「長女じゃなかったからコンプレックス?」


「いや。その当時の《運命の女神》・ソフィアさま…アリスのおばあちゃんにあたるわけだけど」


一度も会ったことがないので、そう言われてもピンとこない。


「彼女が言っていたんだ。ライラは体に負担がかかる程の膨大な魔力を持ってると。それで体が弱いのではないかって。長い《女神》の歴史上、そういう人もいたらしい」


「そうだったんだ…。お父さんもお母さんもほとんど昔の話をしないから、知らなかった」


「過去はなかった事にして、普通の生活を送りたかったからね」


父は小さく微笑むと、


「もちろん、そのことはダイアナさまも知っていたんだろう。それがライラへのコンプレックス。《女神》同士はお互いの未来を視ることはできないらしいから、後にライラが屋敷を出て、自分が第1《女神》になるなんて思ってもみなかったことだろうね」


「じゃあ、ダイアナさまはお父さんに感謝だ」


その時。


「あっ!」


強い風が突然吹き、干していたハンカチが洗濯バサミから離れ舞い上がった。


「うそ〜!ちょっと追いかけてくるね!」


わたしは慌てて走り出した。


しばらく空の散歩を楽しんでいたハンカチはやがて草むらの中へと落下して行った。


「せっかく洗ったのにぃ」


わたしは道を外れ、草むらをかき分けてハンカチをつまみあげた。

少し土汚れがついてしまっている。


「ん…?」


馬の蹄の音が聞こえた気がする。


わたしはその音の方向へ、草むらをかき分けながら進んでみた。


木々の隙間から見えたのは、五頭の馬と、それに乗った男たち。

腰に剣を携え、腕には《女神》の紋章が入った腕章をしている。


…夏だというのに、いやな予感に鳥肌がたった。


各地にさっきの紙を配ってる人たちだろうか。

あのお菓子屋さんを探してるんだろうか。

店主さんに知らせた方がいいかな。


どうしよう…。


とりあえずこの場から立ち去ろう。


わたしは元きた道を引き返す。


草むらがガサガサっと大きい音を立てる。


走っちゃダメだ。落ち着いて、早歩きで…。


草むらから舗装された道に戻り、家とは逆方向に歩いていく。


けれど、わたしの努力もむなしく、蹄の音がどんどん大きくなってくる。


「失礼!お嬢さん!そこのお嬢さん!少しいいかな」


一頭の馬が背後から近づいてきた。


…仕方ない。わたしは足を止めた。

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