39.確信
突進してきたわたしに押されて、リアンは少し後退したものの、そのまま受け止めてくれた。
わたしはおでこを押しつけ、リアンがきちんとここに存在してる事を確認する。
光となり、ファイルに吸い込まれてしまって…もう会えないかと思った。
だけど、今。
確かにわたしはリアンにしがみつく事が出来ている。
そんな幸せが、じわじわと込み上げてきた。
リアンの手がわたしの頭に触れて、ゆっくり髪をなでてくれる。
そうか、わたし、やっぱりリアンのことが…。
この気持ちに名前をつけるとしたら…。
「1人でここまで来て、不安だったでしょう?もう大丈夫ですよ」
リアンは小さい子供をなだめるように優しい声で言った。
ん?
1人で塔に乗り込んできて。
不安で、リアンに会った瞬間、緊張の糸が切れて、ホッとして。
それで子供のようにしがみついてきたと、思われてる…?
迷子の子供が親とようやく会えたかのように…??
子供、扱い…???
わたしはガバッとリアンから離れた。
「大丈夫ですから!平気です!」
早口で答えると、ポシェットを探る。
「脱出用の道具をオーウェンさんとデイジーに作ってもらったんです」
そして取り出したのは、棒つきのペロペロキャンディ。
透明感のある水色の飴がついている。
「そういえば、ここにはリアン以外の異世界の人たちはいないんですか?」
「よくわからないんですが、ここに連れて来られてからはずっと1人で、他の人には会ってないんです」
ふと疑問に思った事を口にすると、リアンは首を振る。
リアンは特別に塔に連れて来られたんだろうか。
考えてる時間はなさそうだ。
「いきます!」
わたしはデイジーに教えられたように、大きく宙に円を描くようにキャンディを振り回した。
バシャアン!!
「!?」
飴が一瞬光った途端、膝くらいの高さまで、水が出現した。
わたしの手にはただの白い棒だけが握られてる。
「…凄い」
棒と足元の水を見比べ、思わず呟いた。
「この量の水を閉じ込めておけるとは…デイジーもやりますねぇ。で、どうするんです?」
リアンは感心した後、愉快そうに問う。
水面には揺らめきながら、わたしたちの姿が映ってる。
「オーウェンさんがくれた小さな鏡を水面に映して、移動を…」
わたしはコンパクトを開いて、ピタリと動きを止めた。
鏡に映った自分をまじまじと見つめる。
「…瞳が、青い」
薄紫のはずの自分の瞳が、深い青色になっている。
「えっと、実はここにいらっしゃった時から、青かったです」
リアンが固まってるわたしに言いにくそうに伝える。
お母さんと同じ青色だ…!
さっき目が痛くなって、いろんな物が視えたのはこの為…?
でも《女神》は人に触れて運命を視るんじゃ…?
わたしは何も触ってないし…。
見たところ、髪は金色にはなってない。
お父さん譲りの黒髪のままだ。
「アリス、大丈夫ですか…?」
心配そうなリアンの声に我に返る。
とりあえず、ここを出なくちゃ。
「大丈夫です!行きましょう!」
コンパクトを水面に向けようとした、その時。
扉の前に黒い塊が凄いスピードで飛んできた。
そして次の瞬間。
塊は人の姿になり、バシャッと音を立てて水の中に立った。
「はぁ…はぁ…。最悪ですよ」
両手を膝にあてて、肩で大きく息をしてるのは、1番会いたくない人物だった。




