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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
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34.夜空のお喋り

クルートは夜空を滑るように移動していく。


小さな丸い窓からは街の灯りが見下ろせた。


クルート内には向かい合わせにダークグリーンのソファが置かれていて、正面のマダム・グレース・マイヤーズが優雅に足を組んでいる。

わたしは背筋をピンと伸ばし、両手を太ももの上に置いていた。

隣にカレブがいるから、幾分緊張が和らぐけど。


「そう固くならないで。塔までは1時間近くあるわよ」


マダムはカチカチのわたしに微笑む。


「行くまでに疲れちまうよ」


カレブも同調する。


「…そうですね」


わたしは息を吐き、なんとか体の力を抜こうと努力してみた。


「お話ししましょう」


マダムは少女のように無邪気にそう言い、


「貴女は異世界から来た。この世界に来てみてどう?」


と、尋ねた。


「魔法が溢れた不思議な、素敵な世界だと思います。ここに来てから驚くことばかりで」


「そうね」


マダムは窓の外に目をやった。

鼻が高くて、横顔もとても美しい。


「ここは魔法によって守られ、魔法によって様々な生活が楽になり、生まれつき不思議な力を持つ人たちが沢山いる。このクルートも魔法で運転してもらってる。でもね」


そこで一旦言葉を切り、目を閉じる。

長い睫毛が揺れた。


「私はなんの力もないの」


再び、マダムは漆黒の瞳でわたしを見つめる。


「なんの魔法も、力も持ってない。それは珍しいことではないんだけど」


確かにホテルの従業員さんは魔法を持たない人が多数派だった。


「それが私にはとてもつまらなくて。魔法を持つ同級生が羨ましかった。自分の力で、ワクワクするような冒険に出たかったの。だから」


マダムは少し前のめりになる。


「オーウェンと主人が何やらコソコソ相談してるのを知って、私も冒険に参加したいなと思ったのよ。突然ごめんなさいね?」


「いえいえ!ご協力下さって、本当に感謝しています!」


謝られてしまい、わたしはあわてて両手をブンブン振る。


「それで、助けに行くのは貴女の恋人なのかしら?」


恋人!?


「いえ、いえ!違います!」


「そうなの?想い人ってところかしら?」


「お、想い人?いえ、そういうんじゃ…」


一気に頰が熱くなる。


想い人?

一緒に旅して来た大事な人であることは間違いない。

異性として好きかってこと?

リアンの事が??


「あれ、てっきりオニイサンの事が好きなんだと思ってたけど」


頭の中が混乱中なのに、カレブが追い打ちをかけてくる。


「無自覚?今まで異性の免疫がなかったから意識しちゃっただけ?それとも素直になるのが恥ずかしい?」


「うるさいなぁ!よくわかんない!」


わたしが手を振り下ろすとカレブはひょいと横にずれた。


ただリアンに会いたくて、こんな別れ方は嫌で突っ走ってきたけど…みんな、オーウェンさんもブルーノさんもドム爺さんも、デイジーも、わたしがリアンの事を好きで行動してるって思ったかな??


恥ずかしさがこみ上げて、両足をバタつかせたくなる。


だいたいリアンだって、わたしのことなんか絶対そういう風に思ってるわけじゃないだろうし、わたしだってその、好きかどうかって言われても。


わたしの頭の中はカレブ以上にお喋りになっている。

何に、誰に向かって言い訳してるんだろう??


「うふふ。頭で考えても無理よ、そういうことは」


わたしの百面相を見て、マダムは微笑む。


「その人と会った時に、ここで」


そして自分の胸に手を置く。


「感じるものなのよ。上手くいくといいわね」

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