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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
32/67

32.届いた発注品

わたしは夜空にきらめく星を見上げていた。

この世界は太陽も星もあるけど、月はない。

ここが異世界なんだと実感させられる。


あの後、オーウェンさんとブルーノさん、ドム爺さんにカレブの話をした。

最初は疑わしいと反対されたけど、次の日にカレブも交えて話し合いをし、結局その案に乗ることになった。

わたしがじっとしてられない事もあったんだけど…。


そしてオーウェンさんが急ピッチで話を進めてくれて、今はホテルの屋上で、クルートの到着を待っている。


塔を撮影した自家用クルート。

それを貸してもらえる事になったのだ。


「緊張した顔してるなぁ、アリス」


隣でカレブが言う。


「当然でしょ」


わたしは即座に言い返す。


「お前がお嬢ちゃんを騙すような事があったら、焼き鳥にしてやるからな。力を封印されてたって、腕力は健在だからよ」


ブルーノさんが吸っていた煙草をカレブに押しつける真似をする。


「やめてくださいよ、旦那ぁ!そもそも、なんで旦那がいるんですか?」


「見送りに来たっていいだろ」


カレブは情けない声をあげて、ブルーノさんから距離を置いた。


「夜にクルートがホテルに来て、コウモリが変に思いませんか?」


そんな2人に構わず、わたしは不安をオーウェンさんに尋ねる。


「大丈夫ですよ。マイヤーズさんは時折こうして、うちにやってくる事があります」


マイヤーズさんは宝石商のお金持ちなんだそうだ。

きっとここにはわたしたちの世界とは違う、様々な宝石が存在するのだろう。


「そういえば、オーウェンさん。この間、発注しているものがあるって言ってましたね?」


「ええ、そうなんです。かなり無理を言ってお願いしてたんですけど…」


オーウェンさんは懐中時計に目をやり、


「もうそろそろ、到着してもおかしくないですね。今回のリアンさん奪還には必要なものです」


今度は屋上へ通じるドアへと目をやる。


「先にクルートが着いたらどうするんだろ?奪還に必要なものが届かなかったら困るよ」


「おや。ちゃんと奪還の成功を考えてくれてるんだな」


わたしに小声でささやくカレブに、ドム爺さんが冷やかす。


「…地獄耳なジイサン」


「それも聞こえてるぞ」


緊張が続いてるわたしも、2人のやりとりに小さく微笑んだ。


バタン!!


その時、屋上のドアが勢いよく開いた。


「はぁ…はぁ…」


肩で大きく呼吸してるその人に…


「マイスイートハート!」


オーウェンさんが呼びかけた。


「デイジー…!」


「ゲッ、気の強い兎娘…」


白く長い耳。

相変わらずの胸元が大きく開いた、ミニのワンピース。

久しぶりに見た彼女の姿に、わたしはハッとし、カレブはくぐもった声を上げた。


「ほんとに…無茶させるよね…!あたし、ほとんど寝ないで作業したんだけど」


呼吸をなんとか落ち着かせると、デイジーはヒールをコツコツいわせながら、オーウェンさんに近づいた。


「デイジー、君ならやってくれると思ってたよ。君は天才菓子魔法士だ」


「なによ、そのおだて方は」


オーウェンさんを睨みつけると、デイジーはわたしを真っ直ぐに見た。


どんな顔をして、何を言ったらいいのかわからず、わたしは立ち尽くす。


「あたしはね!本当は嫌だったの!でもオーウェンが毎日!毎日!しつこいから!」


デイジーは大きな声で叫ぶ。


「素直じゃないな」

「本当に」


隣でドム爺さんとカレブがささやき合ってる。


オーウェンさんはニコニコしていて、ブルーノさんは煙草を吸いながら様子を眺めている。


「何よ。なんなのよ」


デイジーは彼らを順番に睨みつけると。


「アリス、今から持って来たお菓子の使い方を説明するから覚えてよね。色々用意したから」


「う、うん」


ピンクのポーチを取り出し、わたしに向かって軽く振る。

わたしはデイジーに近寄った。


「…無事に帰ってきてよね」


風にかき消されそうな小さな声で、デイジーはポツリと言った。


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