30.黒い協力者
「もしかして、あの時の…?」
リアンからデイジーの店のマフィンを貰い、コウモリが近くにいると告げたカラス?
「そう。あの時はマフィンを貰った」
わたしの心の中を読んだようにカラスは言うと、ゴミ箱に着地した。
「リアン・アンダーソンはあの背の高いオニイサンの名前だね?」
わたしはカラスの意図がわからず、ただ見つめ返す。
「やっぱり異世界からの侵入者だったんだね。オニイサンだけじゃなく、多分君も」
カラスは小首を傾げる。
「そして、君はオニイサンの奪還をしようと思ってる。ブルーノの旦那がここのホテルに入っていったのを見て、ピンときたんだ。塔の情報を知りたがってるんじゃないかって」
汗が噴き出しそうになった。
カラスが賢いとは聞いていたけれど…
奪還がバレたら行動しにくくなる。
これがコナーの耳に入ったら?
頭の中がぐるぐる回り、目の前が暗くなる。
「ブルーノの旦那が派手に活躍してた時はさぁ、本当に大変だったんだ。コウモリのやつらに俺たちは無能扱いされて、ひどくボロクソに言われて。…あれ」
お喋りを続けてたカラスはわたしの顔色を見て、クチバシを一旦閉じた。
「そんな顔しなくて大丈夫だよ。警戒する必要もない。えぇと、自己紹介しようか。俺の名はカレブ。人型にもなれないし、ちゃちな魔法しか使えない、お喋り好きなカラスだよ。好きなものは甘いもの。ただ、他の奴らよりは頭がキレると思ってるんだ。もちろんコウモリよりも」
再びクチバシを開いたら、一気にまくし立てる。
「だからさ、コウモリたちにバカにされると頭きちゃうんだよな。絶対あいつらより俺たちの方が脳みそ大きいのにさ!特にコナーみたいなプライド高いやつをぺしゃんこにしてやりたくなる」
カレブはその場で翼をばたつかせた。
そして、わたしを小さな丸い瞳で見上げる。
「つまり、君に協力したいと思ってるんだ」
黙りこくっていたわたしは、ようやく口を開いた。
「…それを信じろって言うの?」
思った以上に小さな声しか出なかった。
「そうだよね。普通はそう思う。罠じゃないの?って。それが正解。この話にすぐ乗ってきたら、この子大丈夫か?奪還なんて無理じゃないか?って、俺はきっと思っただろうなぁ」
硬い表情のわたしを気にする様子もなく、カレブは明るく答える。
「それにしても、オーウェン・ハワード氏を味方につけたのは大正解だよ。誰も手出しできないからね。あの人は国宝級だから。君には運も味方してる。それも面白いと思ったんだ」
そして、今度は声のトーンを落とす。
「オニイサンは他の異世界の侵入者とは違う存在だった。ずっと黙秘してるから詳しいことはわからないけど、この世界にも昔から良く来てるようだし、自分の世界でもこちらの魔法を持ち込んでる様だ。そんな重要人物を捕まえられて、コナーは大得意になっている。そんな噂は俺たちの間でもすぐに広まった」
「リアンは無事なの?ひどいことされてない?」
ダメだ。
リアンの話をされると黙ってられない。
カレブをどこまで信じていいのか、わからないのに。
「俺のこと、どこまで信じてくれるのかわからないけど」
再び心を読んだ様にカレブは言う。
「君は塔に侵入して、上りながら。あるいは下りながら、オニイサンを探すかも知れない。あの塔は80階建てなんだよ」
80階!
その中を移動して、リアンを助けて脱出できるだろうか?
どのくらいの時間が必要なんだろう?
「でもね」
不安が顔にでるわたしに、カレブは朗らかに言い放つ。
「オニイサンは塔の地下にいるんだよ」




