28.銀色の訪問者
わたしたちはドム爺さんが待つ応接室に向かう。
わたしがホテルのお手伝いをしてる間、オーウェンさんはコンパクトを作ってくれていたり、ドム爺さんが
情報を集めたりしてくれてる。
感謝の気持ちが溢れると同じくらい、頑張らなくちゃという思いが込み上げてくる。
「おう」
応接室のテーブルについていたドム爺さんは軽く手をあげた。
豪華なテーブルセットの為、小柄なドム爺さんが益々小さく見える。
「どうでした?」
「情報は持ってきたんだが、まだ外だ」
オーウェンさんの問いかけにドム爺さんは窓を見やる。
「外?」
今度はわたしが首を傾げる。
「その男…ブルーノというんだが。塔の情報を一番知りたがってるやつに直接教えるって言うんだ」
それは…きっとわたしだろう。
「俺が知りたいんだと言っても…そうじゃないだろう、依頼してるやつがいるんだろう、と譲らない」
ドム爺さんは歯切れ悪く続ける。
「金を請求しようとしてるのかと思ったら、そういう事ではないらしい。ただ単に自分の流す情報に責任を持ちたいらしいんだ」
「なるほど」
オーウェンさんは顎に手をやる。
「それで、とりあえずホテルの外に置いてきた」
「その男、危険性はないですかね?」
「塔を出るときに持っていた力は封印されたらしい」
顎の毛を爪で弄りながら、オーウェンさんはしばし沈黙した。
「…わかりました。招き入れましょう」
そう言って電話を取り出し、従業員に指示を出した。
「座って待ちましょう」
そう促され、わたしはドム爺さんの隣に腰を下ろし、オーウェンさんはその向かいに座った。
数分後、鏡が揺らめき、1人の男性が現れた。
姿は狼の様にもシベリアンハスキーの様にも見える。
銀色の毛に水色の瞳。
白いTシャツにカーキのワークパンツを身につけている。
背も高く、体も大きくがっしりしているオーウェンさんと違って、ややスリムな体型だ。
「こいつがブルーノだ」
ドム爺さんが短く紹介する。
「塔の情報を知りたいって、ハワード社の社長からの依頼だったのかよ?」
ブルーノさんはオーウェンさんをジロジロ見ながら、ドム爺さんの右側の椅子にドカッと腰掛けた。
「違う」
ドム爺さんは首を振り、
「そちらのアリス嬢です」
オーウェンさんがわたしに向けて手の平を広げる。
「あぁ?」
ブルーノさんは体を捻り、ドム爺さんの左隣のわたしを見る。
「この子が?」
わたしの顔を指しながら、改めてドム爺さんに確認する。
「そうだ。色々事情があってな」
「色々…ねぇ」
ブルーノさんはわたしをもう一度見たあと、両手を頭の中後ろで組んだ。
「オレはべつに勿体ぶって爺さんに話さなかったわけじゃない。爺さんがどっかのスパイで、塔の話をしたとたん、また捕まったりすんの嫌だったし。そうじゃなくてもどんな依頼者がバックにいるのか、確認したくてね」
「それは賢くて何よりだ」
「褒められてんのか?あの塔を知りたがるなんて変だと思って当然だろ。普通に暮らしてたら、なんの関わりもない。この世界の奴らだって、塔がある事すら知らないやつも多いだろ?」
「そうだな。カラスやコウモリに連行されていっても、その先の事など知らん」
「だろ?で…お嬢ちゃんは塔について知りたいと思ってる。天下の鏡魔法士とこの爺さんを使って、調べさせてる。何者なんだ?」
ブルーノさんはわたしへ身を乗り出した。
「塔の中に助けたい人がいるんです」
わたしも負けずに身を乗り出す。
そして見つめ合うこと、数秒。
「…なるほどねぇ」
姿勢を戻すブルーノさん。
「オレにもそう思ってくれる子がいたら良かったんだけど」
そう言って頭をボリボリかいた。
「さて、じゃあどっから話すかな」




