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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
24/67

24.なみだ

気がついたら、わたしは冷たい床に両手、両膝をつけていた。

薄暗い室内にキラキラと光の粉が舞っている。


「大丈夫ですか?」


大きな体を縮めて、オーウェンさんがわたしの顔を覗き込む。

茶色の毛が汗で濡れていた。

わたしはなんとか首を縦にふる。


そばにはへたり込んでいるデイジーとドム爺さんの姿があった。

だけど、リアンの姿はない…。


「リアンさんは…?」


恐る恐る、といった感じでオーウェンさんが尋ねた。


「コウモリに捕まった」


デイジーがぶっきら棒に答える。


「ごめん…僕が時間かかったから…」


「なに、お前さんのせいじゃない。お前さんは立派にやり遂げてくれた」


目を伏せ、言葉を詰まらせるオーウェンさんの腕をドム爺さんが軽く叩く。


「で、ここはどこなんだ?」


薄暗い部屋には段ボールや木の箱が積まれていて、布がかかったものが沢山置いてある。


「ここは倉庫です。父が作った鏡を見て、解析してみたんです。ただ無理矢理こじ開ける形になったんで、負担がかかりました」


振り返るとわたしたちが出てきたであろう鏡は激しくヒビが入っていて、かすかに光を放っている。


「地下室の鏡はどうなってるの?」


「あっちも粉々に」


デイジーの問いにオーウェンさんはシンプルに答える。


それを合図にわたしの目から涙が溢れ出した。

いつかの涙が出るキャンディを食べた時の様に。


「うっ…うぅっ…」


嗚咽が止まらず、両手で顔を覆った。


もうこのままリアンに会えないのだろうか?

これからどうなるんだろう?


不安や寂しさ、悲しさがどんどん溢れてくる。


「アリス…」


「場所を移しましょう。暗い場所にいるとますます気が滅入る」


オーウェンさんはそう言うと、荷物のように簡単にわたしを小脇に抱えた。


1人で歩けます、と言いたかったのにしゃっくりが邪魔して喋れない。


そしてわたしたちは倉庫の扉を開けて廊下に出て、鏡を潜り、応接間へと通された。


ブラウンのテーブルとソファ、ダークブルーの落ち着いた壁紙。


オーウェンさんがティーセットを運んできた女性に何か耳打ちをしている。


わたしはそれをぼんやりと眺めながら、涙を止めることが出来ない。

心と頭が麻痺してしまったようで、何も考えられない…。

やがて女性はピンクのバラの花束を運んできた。


オーウェンさんは尖った爪で花弁を摘むと、わたしのティーカップに入れ、紅茶を注いだ。


「アリスさん、飲んでください」


わたしは言われるままに口に運ぶと、一口飲んだ。


すると、すぅっと気持ちが落ち着いてきた。

胸の苦しいつっかえが楽になる。


「オーウェンさん、これ…」


「ホテルの近くの花屋には、魔法の花を育てられる人がいます。リラックス効果のあるものを配達してもらいました」


「…ありがとうございます」


そうだ、落ち込んでる場合じゃない。

何か良い方法を考えなくちゃ…。


「初めてリアンに会ったのは、あいつの家の庭だって言ったな?」


唐突にドム爺さんが口を開いた。


「はい。覚えています」


「正確に言うと、あいつが暮らす孤児院の庭だ」


「孤児院…」


「そう、あいつには親がいない」


ドム爺さんは両手で大きなカップを持ち、一口紅茶を飲んだ。


「そのせいかガキの頃から、どんな時も笑顔で本心をなかなか見せない。言葉遣いもいつも丁寧でな」


「そう。あたしも最初はそれが苦手で変なヤツ!って思ってた」


デイジーは自分の髪の毛を指で弄ぶ。


「父ちゃんから聞いて、そんな身の上を知ってからも…やっぱり変なヤツ!って思ったけどさ」


「だから、さっきの様なリアンは初めて見た。本当にお前さんを守りたかったんだな」


ドム爺さんの優しい声。


「あのアイツが真顔で頼むんだもん。…仕方ないじゃん」


デイジーの声が後半涙声になり、彼女はそっぽを向いた。


リアン…。


初めて会ったお菓子屋さんの店内。


トランクの中の階段を下ってこの世界にたどり着いた。


出会ってからのことがページをめくる様に思い出される。


リアンの姿はどれも笑顔で、わたしに刻まれてる。


「わたしは」


もう涙は止まっていた。


「リアンを助けに行きたいです」


もう会えないかも、じゃない。


絶対に会うんだ。



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