23.一瞬の光
「よっ、と」
再開の挨拶もそこそこに彼は次の瞬間、縄梯子を何かで切った。
リアンは梯子ごと床に舞い戻って来たが、多少ふらついただけで綺麗に着地する。
続いて天井から軽い身のこなしでコナーが降り立った。
「どうも」
そして眼鏡を押し上げ、わたしたちと部屋を見回した。
わたしはデイジーとドム爺さんに引っ張られ、ジリジリと鏡の前へ後退する。
コナーは天井の方へ一度視線を走らせた後、リアンに目をやった。
彼は小柄なので長身のリアンを見上げる形になる。
「お名前、答えてくれる気になりました?」
「店とマスターは大丈夫でしょうか?」
「質問してるのはこっちですよ」
コナーは棘のある口調で言い放ち、前回の時のようにペンとファイルを出現させた。
「大きな音がしてましたけど」
リアンはそれを気にする様子もなく天井を指差す。
「…大丈夫ですよ」
コナーはゆっくり、優雅に微笑んだ。
「なんの心配もいらないです。全くもって大丈夫です」
「それなら良かった」
「私は質問に答えました。今度は貴方の番ですよ」
心臓が早鐘の様に打つ。
こちらを全然見ない、リアンの横顔を祈る様な気持ちで見つめる。
「お名前を教えて下さい。フルネームで」
コナーはゆっくり、はっきりとした声で質問を繰り返した。
「リアン・アンダーソンです」
リアンは滑らかに答える。
「ありがとうございます」
コナーはファイルを開き、ペンを走らせる。
「よくわかりました。リアン・アンダーソン!」
コナーがリアンのフルネームを呼んだ瞬間、ファイルが光り、そしてリアンの体全体が光り出した。
「リアン!」
わたしの口から悲鳴に似た声が飛び出した。
リアンの姿は光の塊になるとファイルに吸い込まれていく!
コナーがパタンとファイルを閉じると、光は消え、部屋は元の明るさに戻った。
「はい、仕事1つ完了」
コナーはふぅ、と息を吐いた。
足が細かく震えているのが、自分でわかる。
リアン…。リアンが…!
「良心に訴える作戦が有効で良かったです」
「…マスターを人質にとったこと?」
デイジーが低い声で聞き返した。
「上で大きな音がして、店の状態やマスターの様子が心配だったのでしょう?安心して下さい」
嬉しくてたまらない、というようにコナーは頬を緩ませる。
「あれは魔法で作った音なんですよ。実際は何も起こってません。なんの心配もいらない、全くもって大丈夫だと、リアン・アンダーソンにも真実をお答えしました」
「卑怯者!」
今にも噛みつきそうにデイジーが叫んだ。
「卑怯者、大いに結構です。治安の為なら何でもすると、先程言ったと思いますが。その長い大きな耳は飾りですか?」
「…っ!」
「落ち着け。挑発にのるな」
ドム爺さんが静かに口を開き、デイジーは転がっていた本を蹴った。
「良心をお持ちだったのは良いニュースですが、彼はどうなるのか私にはわかりません。記憶を消されて強制送還されるのか、永遠に収容されるのか…どうなんでしょうね?」
コナーは震えを抑えようと必死なわたしを見つめている。
「リアン・アンダーソンと一緒だったお嬢さん。貴女の名前も伺いましょうか。この世界の者たちと似た香りをお持ちだが、異世界からの侵入者で間違いないでしょう?」
冷たい瞳から目を逸らすことができない…。
その時。
カッと閃光が鏡から溢れた。
「行くぞ!」
「早く!」
ドム爺さんとデイジーに引きずられるように鏡の中へ飛び込む。
素早く腕を伸ばすコナーの姿があっという間に見えなくなり、何かが激しく割れる音が聞こえた。




