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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
22/67

22.再会、再開

「こういった感じで逃走するのは、重大な問題ですよ」


コナーは子供を諭すように優しい口調。


「鏡は?」


「まだだ」


リアンの短い質問に、鏡に手を押し当てドム爺さんが答える。


「この場所から強い魔法反応を感じたんですよ。いくら寝ぼけ眼の私でもそれくらいはわかる」


見透かしているようにコナーは続けた。


「出てきてはくれませんかね?」


わたしたちは黙ったまま、天井を見上げる。


思わず息も止めてしまいそうだ。


「このまま隠れんぼを続けます?私はいいですよ。その内、夜がくる。夜は私たちの味方だ」


「夜までには鏡、完成しそうじゃない?」


デイジーが不安げにささやく。


「わからんよ」


ドム爺さんは静かに首を振る。


「そうは言っても、早く片付けてひと眠りしたいのが本当の所です。さっきも言いましたけど」


コナーはひときわ明るい声を出す。


「だから出来るだけ早くしてくれると助かります。そうでないと…」


ガシャン!ガタガタッ!


上でガラスが割れる音や大きな物が倒れる音がする。

そしてそれはピタリと止まり。


「お店が滅茶苦茶になってしまいますよ?こちらのマスターにも異世界の侵入者を匿っているのか、少しお話を聞かせて貰わなくてはならない」


「トート…」


ドム爺さんが心配そうな声を上げ、


「脅すつもり…?」


デイジーが唇を噛んだ。


「本当はこんな事したくないんですよ。レヴィ様は手荒な真似はお嫌いだし。街で破壊行為をしたら、昼間はカラスどもがうるさい。でもね」


コナーはそこで言葉を切り、また、コツコツ、と2回ノックをした。


「私は自分の仕事に誇りを持っているんです。治安の為なら何をしても構わない。汚れ役大いに結構、なんて思ってるんです」


本気で言ってる。


それが刺すように伝わる。


「マスター!地下室の鍵、ありますか?」


ガシャン!


また何かが割れる音。


「ないわけないでしょう?貴方の店ですよ?」


マスターの声は聞こえない。


大きな音とコナーの詰問だけ聞こえてくる。


わたしたちがいるせいで、マスターが…。

どうしよう…。


何も出来ずに立ち尽くしているしかないなんて。


デイジーが鏡の中へ腕を差し入れる。

それは肩くらいまで吸い込まれた。


「この感じだと、後、5分くらいかな…」


ガシャン!バタン!


上の階の物音は続く。


「5分で店は…トートはどうなってしまうのか…」


苦しげにドム爺さんがうめく。


「決めました」


そこで、リアンがキッパリと言った。


「これ以上マスターに迷惑はかけられません。私はコナーの元へ行きます」


「えっ!?」


わたしとデイジーの口から驚きが飛び出した。


「私が出れば店への攻撃は一先ず止まる。そして時間を稼いでる間に皆は鏡で脱出して下さい。間に合えばいいですけど」


「そんな、ダメですよ。一緒に行きましょう!」


「アンタは本当に自分勝手だよねっ!」


「リアン、お前…」


思わず涙目になるわたし、目を吊り上げるデイジー、心配顔のドム爺さん。


リアンはにっこり笑って、人差し指で天井を指差した。

確かに上ではまだ大きな音が続いている。


このままマスターを、店を放っておくなんて…出来ない、けど。

でも…。


「デイジー。ドム爺さん」


そしてリアンは笑顔を消して、真剣な眼差しになった。

今まで見たことないような、強い瞳。


「アリスだけは守って下さい」


「リアン、あんた…」


「守って欲しい。頼むから」


言いかけるデイジーを制する。

丁寧な言葉使いじゃないのを聞くのは、初めてだった。


「…わかった。安心しろ」


先にドム爺さんが返事をした。


「わかった!任せて。あたしがなんとかする!」


続けてデイジーが半ばヤケクソ気味に答える。


「リアン…待って。いかないで」


わたしがそう言うが早いか、涙が勝手にこぼれ落ちてしまった。

不安が、寂しさが、いろんな感情が、一気に心を染め上げていく。


リアンはわたしを見つめ、いつものように微笑むと縄梯子を上り出す。


追いかけようとするわたしの肩をデイジーがつかんだ。

指がぎゅっと肩に食い込む。


そして彼は扉の鍵を開け、顔だけ上の階に覗かせた。


「すみません。お待たせしまして」


「…待ちくたびれましたよ」


明るいリアンの声に、嬉しそうなコナーの声が重なった。

まるで親しい友に会ったかの様に。



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