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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
19/67

19.接触

「どうしましょう…?」


我ながら間抜けな問いが口から溢れた。


「歩きましょう」


リアンに促され、とりあえずその場から離れる。


「見つかる、見つからないはもう運ですね。コウモリはひっそりとしてるので、近くに来ていてもわからない」


「こんな昼間と夜間ではコウモリの力も差が出るんでしょうか?」


「それは出ると思います。夜行性ですからね。昼間は少し鈍ると考えていいと思います」


わたしたちは小声で会話しながら先を進んだ。


オーウェンさんのホテルがとても遠く感じる。


「コウモリたちはわたしたちを捕まえるんでしょうか…?」


「そうかも知れませんね。とりあえずレヴィ様の所へ連れて行こうとするかも知れませんし、それとも別な…」


そこでリアンの言葉は途切れた。


「リアン?」


わたしはリアンの横顔から、彼の視線の先へと顔を向ける。


オーウェンさんのホテルへ続く路地の手前、花屋さんの方に目をやっていた。


その軒先に上下逆さにぶら下がる黒い塊。


「…コウモリ!」


わたしは息を飲んだ。


実際、図鑑など以外でその姿を見たのは初めてだった。

明るいお日様の下、色とりどりの花の近くにいるコウモリはひどくミスマッチで、間違って嵌められたパズルのピースのようだ。


「アリス、貴女は一度デイジーの店に戻ってください。私があのコウモリと接触してるうちに」


その提案にわたしは首を横に振った。


「そんな…リアンが囮になるってことですか?」


「表現があまり良くありませんねぇ。さぁ、早く」


リアンは静かに微笑むとわたしの肩をつかみ、方向を変えようとする。


「痴話喧嘩、ですか?」


気づくと上空にコウモリの姿があった。


サッと花屋に目をやるともうそこには姿がない。


一瞬のうちに移動してきたんだ…!


「こっちはいきなりの出勤で眠くて眠くて…。いいですね、仲が良くて。楽しそうだ」


コウモリは低く、艶のある声で続ける。


リアンはそっとわたしの前に立つ。

その為彼の背中で視界は遮られ、わたしは首を伸ばしてコウモリの姿をなんとかとらえる。


「早速ですが」


そしてコウモリは1人の男性の姿になった。


細身の黒いスーツ、白いワイシャツに黒いネクタイ。

金茶色の髪は短く、さらっと横に流している。

黒縁眼鏡の奥の眼差しはきりりと鋭かった。


彼は何もない空間からファイルとペンを出現させた。


「お二人とも異世界からの侵入者ですよね。お名前教えてもらえます?」


「…わたしたちをどうする気なんですか?」


リアンの背中越しに尋ねた。


「質問してるのはこっちですよ」


ペンでファイルを叩きながら、コウモリがわたしを睨む。


「帰って一眠りしたいんですよ。ちゃっちゃと答えてもらえます?」


「名前を教えてはダメです」


リアンはわたしの耳元で囁くと、


「レヴィ様の便りを見ました。道が閉ざされ、この世界には異世界の者たちが閉じ込められてる形になってる訳ですよね?」


コウモリへ確認した。


「そうですよ」


「その者たちは強制的にもとの世界に帰す形になるんでしょうか?そして、混乱を招いた者にはそれ相応の対応があると…これは一体?」


「どうでしょうね?」


コウモリは眼鏡を人差し指で押し上げた。


「私たちやカラスどもの今の任務は侵入者全員の把握です。それと」


意地悪げに口元を歪める。


「収容」


短い一言だったけど、絶望的に響く。


「その後、全員の対応、処罰などが決まるでしょう。収容だなんて、ひどいと思います?とんでもない、治安維持の為です。早く元の世界に戻れたらいいですね?」


コウモリはペンをクルクル回し、ピタリと止めた。


「それでは、最初の質問に戻ります。お名前教えてもらえます?」




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