17.慰めるのはどちら?
…それ相応の対応。
つまり、処罰とか…なんだろうか…?
この世界の大魔法使いの署名が入ったその言葉が、ずしりと重くのしかかってくる。
「えぇ〜?あたしはそれに含まれないよね?やだやだ!」
その暗い雰囲気をデイジーが切り裂いた。
「異世界を混乱させたってことは、道を作っただけのドム爺はセーフ?リアンとアリスは間違いなく該当するだろうけど。あたしは大丈夫だよね?」
「…デイジーって本当、ブレないですよねぇ」
半分感心、半分呆れ顔でリアンが言う。
「あたしはアンタに向こうで使うなって言ってたんだからね。自業自得!あたしは巻き込まれたくないの!」
「デイジー、リアンちゃんは幼馴染みたいなものじゃないの。そんな言い方しなくたって」
「そんな言い方もしたくなるっつーの!」
リアンに人差し指を向けるデイジーは、クレアさんにたしなめられても目を釣り上げている。
「…確かに好奇心に負けてルールを破ったのは不味かったと思います。私の判断ミスです」
ふぅっと長い溜息を吐き、リアンは壁にもたれかかった。
「アリス。巻き込んでしまって申し訳ないです。きっとどうにかして、貴女だけでも元の世界に戻れるようにしますから」
わたしが何か答えるより早く、それだけ言うとリアンは店を出て行った。
「リアンちゃん!」
クレアさんがその背中に呼びかけていると、デイジーの方は無言で地下の厨房へ戻っていく。
「ちょっとデイジー?」
「あの、わたし、行きます」
困惑気味のクレアさんにそれだけ言って、わたしはリアンの跡を追うことにした。
「アリスちゃん、オーウェンちゃんの所でじっとしてるのよ!」
「気をつけるんだぞ!」
「はい!」
クレアさんとドム爺さんの声を背中に、急いで長身の黒い影を追いかける。
足の長さが違うから、なかなか距離が縮まらない。
「リアン!」
思い切って大きな声を出すと、リアンは少し驚いた顔で振り返った。
「アリス」
「リアン…あの…謝らないで」
わたしは息切れしながら切り出した。
「こんな事になったけど、不思議な世界や魔法に触れることができて、良かったと思ってるから。わたしは魔法のお菓子を使っちゃったけど、あれがあったから助かったわけで、その…」
会った時からずっと笑顔だったリアンの、傷ついたような寂しそうな顔を見るのが、なんだか嫌で。
わたしは思いつくまま喋っていく。
ぷ。
リアンは口元に拳をあてて小さく吹き出した。
「もしかして慰めてくれてます?」
「…そうかも知れないです」
「普通、逆ですよ。私が慰めなくてはいけないのに。元の世界に暫くは帰れないんですよ…待ってる人だっているだろうに」
そう言って小さく微笑む。
父の顔がちらりと浮かんだ。
それでも。
「あの、わたしの事なら大丈夫ですから!」
「待って下さい、私が慰めますから」
勢い込むわたしを片手で制して、リアンは身を屈めた。
「できるだけ早く元の世界に戻れるよう、努力しますから。心配しないで下さい。貴女だけは必ず守ります」
「…心配してません」
わたしはなんだか恥ずかしくなって、わざとぶっきら棒に答えた。
リアンは笑いながら上体を起こす。
うん。
わたしはこんな風に楽しげに微笑むリアンが見たかったんだ。
その為に追いかけてきた、そんな気がする。
カアカア
その時、カラスの鳴き声が聞こえてきた。
「《カラス》たちが集まってきていますね」
空を見上げてリアンが声を潜めた。
上空に黒い鳥たちのシルエットが見える。




