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奇跡のお菓子屋と運命の女神  作者: 源小ばと
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13.安息と予兆

白いポロシャツを着て、二本足でそこに立っている熊…の様な方。

森でバッタリ出会ったら腰が抜けてしまいそうなくらい怖い顔をしている。

けれど。


「デイジー!久しぶり!会いたかったよ!」


彼は甘い口ぶりと共に、デイジーにまっしぐら。

ハグしようとするけど、彼女は素早くピョン、とかわしてしまう。


「こいつがオーウェン・ハワード。ここの代表で、腕だけはいいから。こっちはリアンとアリス」


そして手短に紹介してくれる。


「さっきクレアお義母さんから連絡をもらったから、大体の事情はわかったよ」


「お義母さんなんて呼ばないでよ」


「異世界の人間なんて訳あり、本当は困るけど、お義母さんとデイジーの為なら引き受けるから」


デイジーにぶっきらぼうにされても、オーウェンさんは全く気にしていない。

小さな黒い瞳は艶々と輝きながら、彼女だけを見つめている。

そんな情熱的な熱いオーラを感じながら、デイジーがここへ来たがらなかった理由がわかった。


「…引き受けてもらえるなら助かったけど。くれぐれもよろしく」


「その代わり、今度デートしようね!」


「えぇ?…いや、あたし結構忙しいからなぁ」


「決まり!絶対だよ!」


顔をしかめるデイジーに念を押すと、オーウェンさんはわたしとリアンを見た。


「異世界から来たのはわかったけど…デイジーとはどういうご関係で?」


身を屈め、牙を見せながら、低い声でリアンへと迫る。


「兄みたいなものです」


「はぁ?」


あっけらかんとリアンが答え、デイジーが変な声をかけ上げた。


「そうですか、お兄さん!僕らは身内同然ですね!」


オーウェンさんは朗らかに笑い、わたしへ向かって、


「お嬢さん、あなたは?」


ここは流れに乗るべきだろうな…。


「妹、みたいなものです」


「アリスが!リアンに毒されてる!」


わたしの返答にデイジーが両手で頰を抑えた。


「そうですか、そうですか。僕らはみんな家族!困った時は助け合うものですよね!」


オーウェンさんは大きな鏡に手を触れると、


「リアンさんとアリスさんも鏡に触れて下さい。登録をします」


わたしたちを促す。


言われるまま手を伸ばすと、ひんやりとした硬い感触。


次の瞬間、鏡が一瞬光って、表面が水面のように揺れて柔らかくなった。


「登録完了しました。このまま中へ進むと、それぞれの部屋に入れますので」


「じゃあ、あたしは今日は帰るから。また明日、店に来てよ」


その様子を見届けてデイジーが手を振る。


「じゃあまた明日」

「ありがとうございました」


わたしたちの挨拶に続いて、


「デイジー!久しぶりに会ったのにもう帰っちゃうの!?」


オーウェンさんが切なげな声を上げる。


「あたしも忙しいんだって。じゃあね」


デイジーが軽やかに去っていき、オーウェンさんはがっくりと肩を落としてる。


そっとしておいてあげよう…。


「では行きますかね。面白そうだ」


リアンはするりと鏡の中に入っていき、姿が見えなくなった。


わたしは少し緊張しながら、勢いよく鏡の中に入ってみた。

体になんの抵抗も感じない。


その1秒後。


あっという間に、わたしは部屋の中にいた。

振り返ると長方形の姿見が1枚。


セミダブルのベッドが1つとその脇にデスク。

クローゼットと、ドアの向こうにバスルームとトイレ。

窓があり、近づいてのぞいてみる。

通って来た路地や遠くに見える飛行船たち。


あれ…そういえば、この部屋には外に出るドアがない。

わたしはもう1度鏡の前に立つ。


よく見るとその側に0から9までの数字が並んだ四角いパネルがある。


どう使うのかと考えつつ部屋の中を見回していたら、デスクの上にホテルのしおりが置いてあった。


わたしはそれを手に取り、ベッドに寝転がる。

マットレスの硬さもちょうどいい。


どうやらホテルのロビー、レストランなど、それぞれ番号が決まっていて、その数字をタッチして鏡をすり抜けるとその場所に行けるようだった。


部屋に帰る時はただ鏡を通るだけで、自動的にここに戻ってこれるらしい。


「便利…!凄いなぁ!」


ここは本当に魔法の世界なんだ。

実感すると同時に疲れと眠気が襲って来た。

移動と驚きの連続で体も心も休息を欲しがってるのかも…。


それからわたしの記憶は途切れ、あっという間に眠りに落ちた。


どのくらいの時間が経ったかわからないけれど、地震のような揺れを感じて目が覚めた。


重低音でビリビリと空気が震えるような感じだった。


「…?」


わたしはぼんやりした頭を無理やり持ち上げ、体を起こした。

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