D君の自白
3章
肝試し大会から三日後の夕方、A君のところにD君から電話がかかってきました。
「Dか。どうしたんだ」
「どうしても言っておかなくちゃいけないことがあるんだ。今すぐ、おれの家に来てくれないか」
少し急いているような口調です。
「いいけど…用件は?」
「この間の探検のことだ。BとCも呼ぶ」
「了解」
A君は電話を切るとすぐに身支度を整え、家を飛び出しました。
この三日というもの、D君はA君たちにまるで連絡をよこさず、家に引きこもってばかりいたので、三人はD君のことが気になって仕方ありませんでした。しかし、かと言って、むやみに彼の家を訪れたり電話をかけたりしては悪いということで、三人のほうからも距離を置いていたのです。
「だけどさっきのあいつの声は全然暗くなかったし」
と、A君は考えました。
「また元通り四人でやってけるぞ、きっと」
さて、A君がD君の家に着くとD君が走って出迎えてくれました。その顔はまだ多少青くはありましたがどこか晴れやかで、A君に会えたことをほっとしているようでもありました。
「よう、久しぶり」
「ああ。二人はもう来てるぜ」
「話って何だ?」
「中で話すよ」
D君はA君と一緒にB君とC君の待っている部屋に入り、ドアをぴったり閉めました。そしてポケットから例のカメラを取り出し、語り始めました。
「この三日間、恐ろしくてたまらなかった。肝試し大会のことを思い出すたびに、あの顔が目にみえるようで…。あのときのことを言おうか言うまいかさんざん悩んだけど、もう腹を決めた。言うよ」
そして深呼吸して、
「靴箱のところから離れたとき、おれはカメラでさっき撮ったばっかりの写真を見てたんだ。…ほら、ミスったやつがあっただろ、あれを消そうと思ったんだ。だけど、いざその写真を見てみておれは仰天した…」
そこでカメラの画面を三人に見せ、
「おれたちの足が写ってるだろ」
B君、
「ほんとだ。だけどどこがおかしいんだ?」
D君、
「はじめはおれも気づかなかった。よく見てみろ、何本写ってる?」
B君、
「二、四、六、八…十! 十本ある!」
C君、
「おれたちのほかに、もう一人いたってことか!?」
D君、
「そういうことだ。おれは、自分の目が信じられなかった。ただ茫然としてた。すると背後からスーって音がして、振り向いたら…なんと靴箱の一つが開いてた!…さらに目を凝らしてみたら、なんとなく灰色っぽいものがその前にいて…」
A君、
「ちょっと待て、おれたちはそんな音聞こえなかったぞ」
「お前たちは、ここへ行こうそこへ行こうって、あれこれ大きい声で話してたからな。それに、ほんのかすかな音だったし…」
C君、
「なんでその時、言ってくれなかったんだ!」
「雰囲気を壊したくなかったんだよ。肝試し大会とは言え、おれたちがあそこに行ったのは、探検のためであって幽霊探しをするためじゃないんだから」
そこで不意に声を落とし、
「...それに、そいつはあの時まで特にちょっかいかけてこなかったし」
C君、
「あの時っていつだ。ちゃんと教えろよ」
「実は専門教科の教室を回ってたときも、その灰色のモヤモヤがついてきてたんだ。意図は全く分からなかったけどな。とにかくおれは殿だったから、ときどき振り返ってそいつの存在を確かめてたんだ。今も言ったけど、そいつはただついてくるだけで何もしようとはしなかった。おれたちとの距離感もあった」
ここで一息ついて、
「幻覚だろうって思ってるだろ? そりゃ違う。暗闇の中だってのに、そのモヤモヤは実にくっきりと見えたんだ。で、専門教科の教室をひと通り見て回ったとき...次はどうしようと話しあったとき...Cの提案に賛成して、帰ろうって言おうとしたら...不意に耳元で囁かれた。『六年一組』って...。一瞬、まじで焦った。なんて言っていいか分からなかった。黙ってたら、またも『六年一組』って囁かれた。淡々としてたけど、どこか威圧するような声だった。それで怖くなって『六年一組に行こう』って言った。あの理由は適当だ。だけど、ああ言った直後、後ろを振り返ったらモヤモヤが消えてた。だけど代わりに...女がいた」
B君、
「女?!」
「ああ。まだ小学生くらいの...ぼやけてて姿はよく見えなかったけど、顔だけははっきり分かった」
D君は言葉を切り、再び青くなった顔を震わせました。
「その時の顔を思い出してもゾッとする。あいつは笑ってたんだよ、目を大きく開けて口を顔の端まで吊り上げて...本当に嬉しくてたまらないって感じで」
A君も共に身震いして、
「写真は撮らなかったのか?」
「撮ったさ。六年一組の教室に入ってからな。それまでは機会がなかったんだ。で、おまえらと教室に入ったとき、暗い中で急におれは腕を引っ張られた。生きてる人間とは思えないほど、冷たい手でな。おまえら三人と離されたって理解するのに少し時間がかかった。それを確信したのは、正面に人の気配を感じてからだ。暗闇の中にあいつはいた。あの女がいたんだ...。さっきと同じ顔で、な。そんで、あいつは口を開いた。腕を掴まれて、あまりの驚きにびっくりして、動けないおれの耳元に囁いたんだ。『来てくれて、嬉しい...いっつも一人だったから』で、こうも言った。『もう、みんな離さない。絶対に離さない!』...しゃべっている間、顔をまったく変えないんだ。おれは、怖かった。何言ってるか分からないし、こいつ人間じゃないと思ったから、逃げたかった。あいつの顔は無邪気すぎて、どこか残忍だったんだ。でも、恐怖で体が動かなかった。周りの音は聞こえなかったし、声を上げることも忘れてた。でも、その時...」
D君はC君を見つめました。
「おまえが怒鳴っている声が聞こえたんだ。『...は我慢できん!』とかなんとか。それでおれは我に返った。そしたら、あいつの手も外れた。あいつの顔はどんどんしおれてった。さっきまでの笑みは嘘みたいだった。また耳元で声が聞こえた。『乱暴はいや。あんたたちは違う。もう、どうでもいい』...その時だよ、すかさず写真を撮ったのは」
D君はカメラの画面を三人に向けました。そこには、髪の長い青白い恨めしげな顔をした、小学生くらいの少女の顔が写っていました。
「あいつは背を向けて教室を出て行った。その時おれは二つのことに気づいた。そいつがすごく汚れた学生服を着てたことと、上靴を履いてたこと。上靴に書いてあった名前は...」
「...紗同陰子」
A君がおずおずと言いました。
「なんで分かった?」
「あいつの上靴が靴箱に入ってたからな。よく考えたら、卒業したら普通、上靴は持って帰るよなぁ。残ってた時点でおかしいと思うべきだった」
B君、
「察するに、紗同陰子の幽霊...だよな。あの学校、だいぶ前につぶれてるし」
C君、
「あの時、おれの足に当たったのは紗同陰子だったのか...それにしてもおれたち、よく生きて帰れたな」
D君、
「まったくだ。もしあの時、Cが怒鳴らなかったらと思うと...」
A君、
「紗同陰子は何がしたかったんだろ。あいついじめられてたらしいし、幽霊になってまで学校をうろついてるってことは...」
「やっぱ、友達探してたんじゃないかな。『もう離さない』って言われたし。そうとういじめられてたんだろうな」
「どういう事情があろうが、おれは幽霊の友達なんてごめんだ。こうして生きて帰れてホッとしてる」
B君がきっぱり言ったので、みんなそりゃそうだと笑いました。
こうして肝試し大会及び後日談は無事に終わり、四人の仲も元どおりになったわけです。あの後、D君はあの晩の写真を全て消し、例のカメラもあまり使わなくなりました。さらに四人はあれから先、肝試し大会も滅多に開かず、なるべく昼に遊び尽くして夜は大人しく寝ることにしたそうです。




