夜八時
プロローグ
「おっじゃましまーす!」
「ハイハイ、あがってあがって~」
朝夏は、輝月を部屋に招きいれた。これで、来ていないのはあと一人。八時まであと二分。先客四人は、部屋の時計を眺めながら思い思いの姿勢でくつろいでいる。
「遅い! 夜蓮は一体何やってんの!」
時間を守ることにかけては誰よりも懸命な羽吹がとうとうしびれをきらした。
「私は、七時半には来てたのに!」
「そうそう、どーせなら早く始めて、外がまだ明るいうちに帰りたい」
どことなくさえない顔つきの高茶も、棒つきキャンディーを三本なめながらぼやいた。
「なんだよ、高茶。そんなに怖いの?」
やや太めの体の輝月がからかうようにきいた。彼女の右手はポップコーンの袋に、左手はポテトチップスの袋に突っ込まれている。
「そりゃ怖いよ。怪談なんだもん」
「怖いなら、何で来た?」
「…お菓子が用意されてるって聞いたから」
「やるね、朝夏」
今まで黙っていた木鈴がにっこり笑って言った。朝夏は顔を真っ赤にした。
「…だって、みんなで一緒に集まりたかったから…」
「お待たせー」
ドアが開いて、浴衣姿の夜蓮が顔を出した。手に小さいビニール袋をさげている。
「いらっしゃい、夜蓮。着物似合うね。それ何?」
「ろうそく。怪談にはつきものでしょ?」
「雰囲気が暗くならない?」
「暗いほうがいいに決まってるじゃない。そのためにわざわざ買ってきたのよ」
朝夏の青ざめた顔をしり目に、夜蓮は腰を下ろした。これで総勢六人。全員集合だ。
文月朝夏、長津羽吹・高茶、田予木鈴、村田輝月、森夜蓮。この六人が今日朝夏の家でやろうとしているのは、怪談パーティーだった。今は夏の真っ盛りで暑くてしかたがないので、何でもやりたがり屋の輝月が涼みにと提案したのである。本当に涼みになるのかは疑わしいが、こうしてみんなで集まるのはいやではないので、話はすぐに決まった。そして今、わざわざ夜の八時に集まって怪談を始めようとしているのである。
今回の話し手は夜蓮である。彼女はそのために浴衣でこの大会に臨んだのだ。部屋の明かりを残らず消し、夜蓮は一本のろうそくに火をつけた。
「…じゃあ、始めますよ」
やや不気味な声から、彼女の怪談は始まった。