エイプリルフール妖精の可愛い嘘
エイプリルフールの短編小説です。
妖精……それは甘美で魅力的な存在。
オレの名前は四月一日キョウタ。四月一日と書いて、ワタヌキと読む。珍しい苗字だがこれを機に覚えてくれ。
オレは小学校低学年の時に妖精のヒミツなる本を市内の図書館で読んで以来、妖精の存在を信じるようになった。
伝承によると、妖精という生き物は人間が存在を信じないと絶滅してしまうという。
あんな可愛い生き物が絶滅してたまるか!
オレは妖精さんは存在していると色々なところで熱く語り、高校生になる頃には、ただの妖精マニアと認識されるようになっていた。
オレが高校2年生になる4月1日の新年度始まりのある日、世間はエイプリルフールという嘘をついてもいい日の話題で持ちきりだった。
エイプリルフールには一定のルールがあり、嘘をついても許されるのは4月1日の午前中のみだという。
意外と知らない人が多いそうなので、気をつけて頂きたい。
そんな4月1日。
オレは春休みなのをいいことに、自室でネット三昧な生活を送っていた。
妖精のことを発言して、妖精の存在が嘘のものになるのはオレのポリシーに反するので、なるべく他人との接触を避けて妖精さん達の生命を守り抜くことにしたのである。
壁には美少女エルフの特大ポスター、ディスプレイ棚には妖精キャラの萌えフィギュア、至る所に妖精関係の書籍が並べられ、妖精グッズにまみれた六畳の萌え部屋でネットサーフィンをガンガンにしていると『妖精を召喚できる魔法陣』という、超絶萌えで神がかった魔法陣を発見した。
今流行りの『ネット魔導師』という人が、オレ達のような妖精マニア向けに作った魔法陣らしい。
サイト運営者のメッセージには、
『妖精さんが呼び出せたらご一報下さい (^ ^) 』
と書いてある。
呼び出してやろうじゃないか⁈
オレはマイパソコンに魔法陣の画像をダウンロードし、妖精文字で書かれた呪文を唱え始めた。
一般人は、この妖精文字が読めなくて挫折するところだろうが、オレは妖精オタク歴が長いので、もちろんいざという時に備えて妖精語をマスターしていたのである。
すると儀式は成功し、パソコンディスプレイの魔法陣から、超絶萌えな美少女エルフが降臨したのである。
しかも、驚いたことにその美少女エルフは画面をすり抜け、三次元の世界に飛び込んできたのだ!
オレのベッドにポスん! と舞い降りた。
身長は、160センチくらいだろうか?
背中には薄く光る妖精特有の羽が生えており、青髪ロングヘアの耳の尖った美少女である。妖精の絵本に載っている通りの、ヒラヒラしたファンタジー風ミニスカートファッションだ。
勝った……。
オレは、今までオレのことをバカにしていたリアリスト達に勝利した!
やっぱり妖精は存在したんだ!
オレが勝利に酔いしれていると妖精さんが、
「あのお」
とオレに話しかけてきた。
可愛い……。
妖精は声まで可愛いのか。
いかにも狙った萌えボイスではなく、若干ハスキーな色っぽい声だったがそれも良し!
「あの……私、エイプリルフール妖精エイプリルです! あなたはどんな嘘をつきたいんですか?」
?
エイプリルフール妖精?
オレ、そんなマニアックな妖精呼んでいたのか?
残念ながらオレの妖精辞典には、
『エイプリルフール妖精』
なるものは描かれていなかった。
新種か?
「えっと、私はエイプリルフールの日にしか召喚できない妖精なので、エイプリルフール妖精っていうあだ名なんです。私を呼び出した人が嘘をつくのをサポートするのが、私の役目なんです……私……嘘つきだから」
嘘つきだと?
こんなに超絶萌えなのに、嘘つきなのか?
オレは動揺したが、妖精さんはいたずらっ子なのでそう考えて納得することにした。
「残念だけど、もう君は嘘をつく必要はないよ……エイプリルフールで嘘をついてもいいのは午前中のみだからね。見てごらん、時計の針は正午を過ぎたところだ。もう嘘つきタイムは終わったのさ……」
オレは妖精さんのハートを射止めるために、めいいっぱい紳士な話し方をしてみた。
「そんな……」
エイプリルたんはちょっぴり哀しいようだ。
涙ぐんでいる。
ごめんねエイプリルたん。
「泣かないでおくれ……エイプリルちゃん。君は今からごく普通の妖精なんだ。もう嘘をつく必要はないんだよ。これからは僕と優雅にやっていこうじゃないか……」
「……いいんですか? ありがとう……私、嘘つきなのに……」
エイプリルたんは、今までついてきた嘘を恥じているのか、申し訳なさそうな表情でオレを見た。
エイプリルたんキャワワ!
そんな感じで、オレは順調にエイプリルたんとフラグを立て1週間が過ぎた。
エイプリルたんは、毎日のように妖精の国からオレの家にパソコンの魔法陣画像経由で遊びに来ていて、オレの家族も公認の恋人となった。早くもお嫁さんになる勢いである。
だが、オレ達はまだ清いお付き合いのままだった。
そろそろ、キッスくらいはしたいものだ。
ある日の夕方、オレは意を決してエイプリルたんにキッスを迫ることにした。
「エイプリルちゃん……交際から1週間。そろそろ恋人になった証に口づけを交わしたいんだ……いいだろう?」
オレは持てる限りのイケメンボイススキルを発動して、エイプリルたんの耳元で囁いて口説いてみた。
エイプリルたんもまんざらではないようで、頬を赤く染めてうなづいている。
「あのね……誓いのキッスをする前に、言わなきゃいけないことがあるの……私、キミに1週間嘘をついていたんだ。エイプリルフール妖精だから……」
エイプリルフール妖精……。
本当に、この子は嘘をつく妖精だったのか?
だがオレのラブパワーの前では、些細な嘘なんか吹き飛んでしまう。
「愛しているんだ。エイプリルちゃん。どんな嘘でも受け入れるよ! 言ってごらん!」
エイプリルたんは、決意を固めた表情でオレに告白してきた。
「私……男の娘なの……」
『男の娘なの……』
『男の娘なの……』
『男の娘なの……』
オレの頭の中に、エイプリルたんのキュートなハスキーボイスがこだました。
そこでふと目が覚めた。
どうやらオレは、ネットサーフィンをしながら眠ってしまったらしい。
もう4月1日の夕方だ。
パソコン画面を起動させると、例の魔法陣がダウンロードされていたが、オレは呪文を唱えずにそっと画像を閉じた。
やれやれ。
とんだ嘘つき妖精だったな。
オレの後ろで、嘘つき妖精が笑った気がした。




