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1 ――せっ! ――せっ!

本作品は残酷なシーンが含まれます。そういった描写に不快感を感じられる方は読むのをお控えくださいますようお願いします。


あらすじにも書いてありますが本作品は残酷なシーン、登場人物の死亡、主人公が殺人を犯す描写が出てきます。なろう内の投稿作品を見ていると該当話の前書きに注意書きをするのをよく見受けますが、本作は該当シーンがネタバレになる部分もあるため前書きでの注意喚起は行わない予定です。また、そのシーンを読み飛ばして読んでも意味が分からなくなってしまうというのもあります。そのため冒頭に当たる第一話での注意喚起とさせていただきます。ご了承ください。


本章は特別篇となり主人公の出番は控えめになっております。ご注意下さい。




 


『――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ!』


 むくつけき男たちの雄叫びが重なり合い、空気を揺らす。


 怒号が飛び交う中、男たちは声に合わせて地面を踏みつける。規則正しく一定のリズムで踏みつけられているせいか、建物全体が揺れ、地震が起きているかのようだ。


「はぁ……。違うなぁ……。絶対違うよなぁ……」


 ため息をついた俺は、とあることと現状の乖離具合について真剣に考え込んでいた。



 あまりにも違いすぎる。


 なんなんだ、この状況は……。


 いくらなんでもおかしいだろ。


 責任者出て来い。



 などと考えながら、周囲を見回す。



 どこをどう見ても巨大な廃倉庫だった。


 内部の資材は全て撤去され、壁際には櫓が設置されている。


 倉庫の中身をスッキリさせたわけだから、本来は見晴らしがよくなっていないとおかしい。


 が、今現在、俺は数メートル先までしか視界が確保できない状況にいた。


『――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ! ――せっ!』



 なぜなら、廃倉庫内は興奮状態のおっさんで埋め尽くされているからだ。


 目を血走らせ殺気全開になったおっさんたちが、喉を枯らせる勢いで叫び続けている。


 ヒートアップして体温が上昇したのか、倉庫内は限界まで汗臭い。



「どう考えても違うよなぁ……」



 やっぱり違う。どう考えてもおかしい。


 俺が知っている限り、こんなものは見たことがない。


 同じ疑問が頭の中で何度も浮かび上がるも、答えに結びつくことは無い。


 そして、腕組みして考え込む俺の上半身は裸だった。――ちょっと寒い。


 納得のいかない俺はつい口に出して言ってしまう。


「俺の知ってる異世界と違う。いくらなんでも違いすぎるんですけど……」


 そう、俺のよく知っている異世界転生される世界と、この場の状況が全くもって違いすぎているのだ。


 なにこの博徒おっさんパラダイス。どこに需要があるんだよ……。


「お前は目立ちすぎた。大人しく殴られて半殺しにされていれば、こうはならなかった。調子に乗ったお前のミスだ。諦めるんだな」


 と、俺の正面に立つ逆三角形体型でスキンヘッドの男が、ファイティングポーズを取る。


『こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ! こ ろ せっ!』


 おっさんたちの大音声が木霊し、廃倉庫内の空気が加熱される!


「それでは時間無制限デスマッチ、ケンタ対ジンギ! はじめ!」


 レフリーのおっさんが開始の合図を送ると同時に、「うおおおおおお!」とどよめきが起こる。


「ヒロインドコー……」


 俺の世迷い言は、ギャラリーの熱狂によってかき消されてしまった。


 なぜこんなことになったかといえば、少し時をさかのぼることになる……。



 …………



 秋の柔らかい日差しとほのかに冷たい風を受けながら、俺たちは今日も今日とて獣道を進んで、オカミオの街を目指している。


 運動の秋と言うが、確かに体を動かすには気温と湿度が丁度良く歩くのが気持ちいい。


 元の世界では電車とバスを利用していたので、ここまで長距離をひたすら歩くのは大人になってからははじめての経験だったが、中々気持ちいいものだ。


 元の世界で同じ事をやったとしても、何かに追われて時間を気にしながらの運動になってしまうはずなので、これほど清々しい気持ちにはなれなかっただろう。


 ちなみに俺は今絶賛逃亡中なので、時間には追われていないが人からは追われていたりする。人生ってのはままならない。


「なあ」


 俺がウォーキングの素晴らしさについて思いをはせていると、隣にいた男が声をかけてくる。顔にある角の刺青が目立つ男の名はレガシー。


 ひょんなことから行動を共にしている。

 ちなみに、こちらの世界では人を殺したり脱獄したりするくらいのレベルでもひょんなことで通る。つまりレガシーと知り合ったのも、程度で言えばちょいひょん位だ。


 間違いない。


「どうした?」


 俺は後ろを振り返りながら聞き返す。


「水の音がしないか?」


 レガシーに言われて耳を澄ますと、微かだが水の流れる音が聞こえてくる。


「確かに。あっちからだな」


 レガシーに言われて【聞き耳】を使って更に詳細な場所を探ると、音が発生する正確な方向を聞き分けることができた。水の流れる音の元とは少し距離が離れているようだ。


「行ってみようぜ」


 レガシーは道を逸れて俺が指差す方向へ進み出す。


「きっと川だな。こいつは助かったな」


 俺もそれに続いて道を逸れる。


 水辺へ行けば色々できることがあるし、水を補給できるのはありがたい。


 飲むことができなくても使用用途は色々とあるので、ここは大量に手に入れておきたいところだ。


 俺たちは一旦進行を中断し、川へ向かうことにした。


 …………


「こいつはデケェな」


「ああ」


 辿り着いた川は横幅が二十五メートルを越えるであろうものだった。


 通りで遠くからでも音が聞こえるわけである。


「まずは魚を獲る」


 俺は川を目の前にして魚を獲ることを宣言する。


「唐突だな?」


 レガシーは俺の言葉に疑問を投げかける。


 多分、体を洗ったりしたかったのだろう。


「二人で備蓄の食糧を消費しているからな。食えるものが手に入りそうなときは何とかしたいわけよ」


 今、二人で消費している食料は、俺がアイテムボックスの大きさに物言わせて爆買いした分でもっている。現在、俺たちは逃亡中の身。そのため、補給のチャンスは限られる。


 そういったこともあり、現地調達できるときは、その機会を積極的に利用したいのだ。


「それもそうだな。これからのことを考えると、余分にあったほうがいいな」


 レガシーも食糧事情は分かっているので同意してくれる。


「そういうわけだ。じゃあ獲りに行くぞ!」


「おお!」


(魚獲りも久しぶりだな)


 俺はモリを携え【槍術】、【気配遮断】、【忍び足】を発動すると、川へ飛び込んだ。



 …………



「大漁だな」


 川辺に山積みになった魚を見て、レガシーが満足げに頷く。


「こんなに獲れるとはな……。これで一安心だわ」


 俺も今回の漁獲量にほっとする。


 突発的にはじめた魚獲りは大成功に終わった。



 まだまだ余裕はあるが、やはり備蓄が増えると気持ちにゆとりが出てくる。


 これでしばらくは食料の心配をしなくて済みそうだ。



 といっても狩りをやめたりするつもりはない。


 俺にはアイテムボックスがあるので、物量を気にする必要がないからだ。


 これからもチャンスがあれば積極的に備蓄を増やしていきたい。



「よし、食料も手に入ったし、次は洗濯でもするか」


 レガシーはそう言うと荷物から衣類を取り出しはじめた。



「それもそうだな。じゃあ今日はここで野営だな」


 洗濯物が乾くまでは移動したくないので、出立は早くても明日になりそうだ。



「まあな。まだ気温も高いし、今履いてる靴下も洗っておこうかな……。うお……、半端ない匂いしてるな……」


 レガシーは今着ている服も洗えそうなのは一気にやってしまう腹積もりのようで、バンバン服を脱いで薄着になっていく。


 だが、自身の靴下の匂いを嗅いだところで動きが止まった。


「え、そんなすごいのか?」


 どんなに臭いなのか、ちょっと興味を引いてしまう。


 例えるなら、不味い不味いって連呼しているのを聞くと、ついどんな味か気になってしまうのと似ている気がする。


「嗅いてみるか?」


 レガシーが俺に脱ぎたての靴下を放り投げてくる。


 俺はそれを受け取ると、恐る恐る顔に近づけて匂いを嗅いでみる。くんくん……。


「くさッ!!!」


 駄目なやつだった。


 思わず超反応で靴下を投げ捨てる。


 臭いというか、粘膜が痛いやつだった。


「失礼な奴だな。自分で言うのはなんともないが、人から言われると結構くるものがあるな」


 レガシーは俺が放り投げた靴下を拾い上げながら、ちょっとしょんぼりしていた。


 だが俺はそれどころではなかった。


「ぐっ」


 視界がぼやけ、膝に力が入らず腰から崩れ落ちる。


「おい! 大丈夫か! おいっ!」


 霞む視界にレガシーが駆け寄ってくるのが見える。


「ううっ……」


 この世のものとは思えない臭気が鼻腔を満たしたため、俺はそこで意識を失った。



 ◆



「おい、いつまで寝ているんだ。さっさと起きろ」


 男のぶっきらぼうな声が室内に響く。




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間違いなく濃厚なハイファンタジー

   

   

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