21 カードドロー! 俺はグッレガシーを生贄にLV7のケンタウロスを召喚するぜ
「おーい。ショウイチ君いる?」
俺は扉をノックして呼びかけた。
ショウイチ君はあんまり外に出るタイプではないので多分いるだろう。
案の定、俺の声に反応して扉が開かれた。
「お、お久しぶりっす」
ひょっこり顔を出したのは相変わらずTシャツ姿のショウイチ君だった。
「久しぶり〜、元気してた?」
お互い手を振りながら挨拶をかわす。顔を見る限り元気でやっていたようだ。
「はい。あ、例の物できましたよ!」
……例のもの。
俺がお願いしたのは銃とバイクだ。
そのどちらかができたということなのだろうか。
「まじで!? ショウイチ君凄すぎ!」
諦め半分でお願いしていたことなので素直に驚いてしまう。
「そ、そんなことないっすよ」
俺の言葉を聞いて照れくさそうに頭をかくショウイチ君。
「いや、本当に凄いって。早く見せてくれよ!」
これは早く現物を確認したいところだ。
「なんだ、どうかしたのか?」
盛り上がっている俺たちにレガシーが何事かと近づいてくる。
「ヒィッ!」
しかし、それを見たショウイチ君は震え上がって固まった。
「あ、大丈夫大丈夫。こいつの名前はレガシー。こんな顔してっけどいい奴だから」
「おう、俺いい奴、安心しろ。後、お前小声過ぎて何言ってるかわからん」
ショウイチ君の背をポンポン叩き、落ち着かせようとするレガシー。
「ど、どもっす。ショウイチです」
ちょっとキョドり気味に自己紹介するショウイチ君。
そんな時――
「どうしたのダーリン?」
――三人で話をしていると部屋の奥から女性の声が聞こえてくる。
ダーリン? 紅茶の茶葉だっけ、いやあれはダージリンだった気がする。
ダーリン……何だろうその響き。聞いていると憎しみがこみ上げてくる。
思い出すと危険な記憶が呼び覚まされそうなので忘れることにする。
単語の一つや二つ分からなくても会話くらい成立するはずだ。
大丈夫、俺は喋れる。
「な、何でもないっすハニー」
部屋の奥へ顔を向けながらそれに応えるショウイチ君。
ハニー? 蜂蜜的な何かだろうか。
ハチミツ下さいってチャットで言われたことならある。
その時はもえないゴミを渡しておいた。俺、ナイス采配。
などと考えていると声のした部屋の奥から桃色のボリューミーな髪をなびかせてナイスバディーの女性が出てきた。
「「何でもあるわーーーー!」」
ありえない出来事にレガシーとハモってツッコミを入れる俺。
「ちょっと説明してくれるかなショウイチ君。彼女は何だい?」
ショウイチ君に顔を近づけて事情聴取する。
「えっと、奥さんです。数日前に結婚しました」
俺の質問に照れくさそうに俯いて答えるショウイチ君。
「うおぅい! お、おめでとう!」
衝撃の事実が発覚してしまった。
おめでとう、とは言った。でも憎い。
こっちは悪魔面としばらく一緒だと言うのにショウイチ君ときたら許せんな。
「あらぁ、あなた少し前によく治療した人じゃない。ダーリンの知り合いだったのね。改めまして、ショウイチの家内のローズです。主人がいつもお世話になっています」
外見的特長に見覚えがあるなと思ったらショウイチ君の奥さんはウーミンの街の治療院に務めていた女性僧侶だった。
股間を見られたのが懐かしい。
そして、顔を合わせづらい。
こんなときどんな顔をしたらいいかわからないだ。
「あ、はい、ケンタです。こちらこそショウイチ君には色々とお世話になっています」
とりあえず挨拶しておく。
「お前小声のくせにすげーな」
ショウイチ君の肩に腕を回してバンバン叩くレガシー。
小声は関係ない。
「んもぅ、お客様が来るなら言ってくれないとダメじゃなぁい。メッ」
腕を絡めてメッっと言いながらショウイチ君の頬をチョンチョンする女性僧侶ことローズさん。ちょっと目の毒なんで止めて欲しい。
俺、視覚情報だけで即死しちゃう。
「す、すいませんっす。以後気をつけます」
頬を朱に染めながら俯きがちに謝るショウイチ君。
あれ、何だろう、さっきから目に涙が溜まる。
なんだ、血涙か。
事情がわかりホッとす…………るわけもない!
(俺もメッとかされてえぇぇぇぇええ! あと俺の目の前であんま密着すんなぁぁあ!)
悔しくてかみ締めた下唇から血がピュッと吹き出る。
血涙とあわせて顔が別の意味で真っ赤である。
ショウイチ君と色味的にはお揃いである。
やったぜ。
「おい、俺はずっと投獄されてたからあんま目の前でイチャイチャすんな」
レガシーが殺人的な睨みを効かせて剛速球の直球を投げつけた。
やめろよ、ショウイチ君にデッドボールしちゃうだろ!
「え、投獄?」
それを聞いて身を強ばらせるショウイチ君。そらそうだわ。
「あ、うん。俺も捕まちゃってさ。これからこいつと国外に逃げるとこ。もう、会えなくなるかもしれんから挨拶に来たってわけよ」
すかさず説明を付け足すナイスフォローがうまい俺。
「そうだったんですね」
なるほどといった表情をするショウイチ君。だが、あんまり寂しそうな顔をしてくれない。
やっぱり嫁がいると俺なんてどうでもいいのだかろうか。
「あ、そうだ。結婚してるって知らなかったから特にお祝いとか考えてなかったんだけどコイツをやるよ」
そう言って掌サイズの黒猫のゴマダレを差し出す。
「おお! 小さな猫っすね。でも子猫って感じじゃないですね」
確かにゴマダレはとても小さいが体型は成体と変わらない感じがする。
これ以上大きくならないのだろうか。
「超賢いんだぜ。名前はゴマダレって言うんだ。なー?」
「なーん」
気品あるポーズを崩さず、かわいく相づちを打つゴマダレ。
そのかわいさが嫉妬に荒んだ俺の心を癒してくれる。
あげるのやめようかな。
「俺らはこれから結構厳しい旅になるだろうし、一緒に連れていくより、ここの方がこいつにとってもいいと思うんだけど貰ってくれるか?」
「ハニーは猫とか大丈夫っすか?」
ショウイチ君とローズさんの会話に押し入るようにゴマダレは俺の手を離れてローズさんの肩へするりと昇ると頬へ顔を寄せ、一鳴きした。
「な〜ん」
「やぁん、かわいぃ」
そんな仕草に女性僧侶ことローズさんはメロメロのご様子。
ゴマダレのテクニックに驚愕する俺。
「……大丈夫そうだな」
自分以外にもあっさり懐く様を見てしまうと、なんともいえない寂しさがある。
ちょっとジェラシーを感じちゃう。
「おっとそうだ。本題に移ろうぜ」
「そうっすね! こちらへどうぞっす」
ちょっとしたサプライズがあったが本題のショウイチ君が完成させたブツを確認に行く。
ちょっとしたサプライズだったんだ……。
決してショッキングな出来事ではなかったんだ。
…………
「カプだ」
洞窟を出て平原のようになっているところまで歩くとそれはあった。
この世界に慣れてきたせいか違和感が半端ない。
ベトナムとかで一杯見かけそう。いや、今はそうでもないのだろうか。
「そうっす! イカスでしょ?」
ショウイチ君は完成したブツに相当の自信があるのか珍しくテンションが上昇している。
「おう、確かにイカスな」
しかしどこからどう見てもカプである。
ちなみに俺が元の世界で愛飲していた炭酸飲料はゴガゴーラだ。
だからカプで問題ない。誤字じゃないんだぜ。
この曲線をふんだんに使ったデザインや白と緑のカラーリングも超イカス。
ソバの出前とかするために後ろに安定機もつけたいところだ。
「速度どれくらいでるの?」
見た目は原付だが形だけ似ていて速度はあまり出ない可能性もあると思い、聞いてみる。
「フフッ、聞いて驚いてください! なんと最高三百キロ出ます!」
「ぇ……」
二輪で三百はやばい。
こけたら死ぬ。
間違いなく死ぬ。
「しかも、アクセルを作動させて一秒で最高速度に到達できる超性能ですよ!」
「お、おう」
何そのドラッグレーサー。
曲がれるのか?
「ですが安全面もばっちりです! ブレーキに軽く触れるだけで完全に停止します!」
「そ、そうか」
それだと止まった瞬間吹き飛ばされるだろ! ピーキー過ぎるわ。
あと曲がれないし、絶対死ぬ。
時速三百キロで直進する魔改造カプ爆誕。
いや、ゼロから作ってるから改造じゃないか。
とりあえず普通に乗ることは難しそうだ。
「どうですか?」
相当自信があるらしくズズイと迫ってくるショウイチ君。
「ショウイチ君ってバイクとか乗ったことある?」
気になったので聞いてみる。
「いえ! ですのでとにかく速くて超反応なものを目指しました」
「設計通りだな!」
「はい!」
コンセプト通りで寸分たがわぬ物ではあった。
だが乗ると死ぬ。どうしたものか。
「悪いんだけどさ、一度アクセル作動させたら手を触れなくてもその状態が維持できるようにしてくれない? あと手を放しても安定して直進できない?」
「はい! 出来ました!」
カブに手をかざしてしばらくすると調整が終わったようだ。
なんというあっさり仕様。ラーメンなら俺好みの味付けだ。
「さんきゅー」
これで爆弾を積めばミサイルとして使えるかもしれない。
それぐらいしか用途が思いつかなかった。
「そういや銃の方はどうだった?」
これだけの物が作れるなら銃の方が簡単だし、できているのではないかと期待を込めて聞いてみる。
「……銃はもう作りません」
が、俺の質問に今まで高かったテンションが爆下がりし、梅干し食った唇みたいになって俯くショウイチ君。
「お、おう。作るの難しかった?」
一体何があったんだ。
「銃ってぇあれでしょ?」
黙り込んだショウイチ君に代わってローズさんが後を引き継ぐ。
「ローズさん何か知ってるんですか?」
「ローズでいいわよぉ。えっとね、物はできたんだけどぉ、試射したら反動で両肩が脱臼したうえに銃が肋骨に当たって骨折したのぉ」
(何口径だ! 何口径の銃を作ったんだショウイチ君!?)
普通の銃でも力を抜いて持てば撃ったときに反動で体に当たることがあるかもしれないが、脱臼となってくると話は別だ。
「しかもぉ折れた肋骨が肺に刺さって結構危険な状態になったのぉ。脱臼して両腕が動かせないうえに反動が強力で筋肉が引き千切れてたから大変でぇ」
「えぇ〜……」
俺の脳内に地獄絵図がイメージされる。
それは洒落にならないくらい痛いし苦しいのでは……。
「たまたま側に私がいたから大丈夫だったけどぉ。この島に一人の状態だと死んでいたかもしれないわぁ」
「わぁ……」
絶句である。
銃もカプのように超性能の物をいきなり作ろうとしたのではないだろうか。
「……銃はもう作らないっす」
俯いたまま搾り出すように声を出すショウイチ君。
「な、何か俺のせいでごめん! ほんと無事でよかったよ! 銃はもういらないから気にしないでくれ! ショウイチ君が元気な方が俺も嬉しいから!」
側で見ていれば指摘できたが、完全に任せきりだった俺も悪いので謝っておく。
「……はい」
「それにカプはすごいじゃん! 完璧じゃん! ね?」
少しでも励まそうとカプを褒める。実際凄い性能ではある。乗れないけど。
「そうですよね!」
ちょっと元気になるショウイチ君。
ミサイルに使おうとしていることは黙っておこう。
「あ、これも渡しておかないと」
ショウイチ君は十センチ四方の黒い立方体を懐から出してくる。
「お、助かるわ」
「いつもの失敗作です」
そういって三個の爆弾を渡してくれる。いや、ハードディスクだった。
「わかってるな! ショウイチ君!」
俺は爆弾を受け取ると親指を立ててショウイチ君へ向ける。
「どうせまた使っちゃったんでしょ?」
ちょっとあきれ気味にそう言われる。
「おう!」
バレてた。
「僕も街に出ると物騒な目に何度か会いましたからね。ケンタさんみたいに冒険者になって色んなところを回ればそういう目に会うのも仕方ないと思います」
牢に入れられたうえに国外逃亡を図ろうとしている俺に対して妙に理解がある。
ショウイチ君の性格ならもっとドン引きされるかと思ったので意外だ。
きっとショウイチ君もろくでもない目にあったことがあるのだろう。
「そうなんだよ〜。この世界って結構物騒だよな?」
「全くです。おちおちこの島から出られませんよ」
腕組みして頷くショウイチ君。
心なしか隣に密着していたローズさんがさらに密着したような気がする。
兎にも角にも準備は整った。
後はこの国を出るだけだ。
「あ、そういやまずったな」
国を出るだけと思っていたが一つ問題に気がついてしまった。
「どうしたんです?」
「いや、身分証が冒険者ギルドのカードしかないんだけど、身バレするから使えねぇなと思ってさ」
街に正面から入ろうとすれば身分証がいる。
冒険者ギルドが国ごとの登録ならありがたいのだがそうでなかった場合、チェックされた時点でまずいことになってしまうだろう。
「なるほど、じゃあ偽造します?」
ショウイチ君がそういえばそうですよね、みたいな顔をしながら凄いことを提案してくる。
「できんの!?」
クラッシャーの通り名は伊達ではないようだ。
俺の中だけでの通り名だけど。
「はぁああ! はい、どうぞ」
ショウイチ君は片手を突き出して掛け声を上げると掌に青い光が発生し、集束する。
光が収まると掌の上にギルドカードが一枚あった。
ショウイチ君は軽い感じで完成したギルドカードを俺に差し出してくれる。
「あ、俺のもいいか?」
その光景を見ていたレガシーもショウイチ君に頼み込む。
「いいですよ。レガシーさんでしたね?」
「そうだ」
「わかりました。はぁぁああ! どうぞ」
「すまんな」
俺のときと同じ要領でギルドカードを作成するとレガシーに差し出す。
レガシーもそれを受け取って礼を言う。
(いやぁ、解決してよかったわ)
ホッとしながら作ってもらったギルドカードを見てみる。
「ってショウイチ君! 俺の名前ケンタウロスになってるんだけど!?」
カードにはLV7 ケンタウロス 戦士 と表示されていた。
何だろう、カードを掲げるとケンタウロスの戦士とか召喚できそう。
来い! ケンタウロス! とか言っちゃいそう。
「いやだって、ケンタのまんまじゃ、まずいでしょ?」
「……そうだよな」
至極最もなことを言われてしまう。
確かに偽名にしておいた方が良さそうだ。
「カーネルとかにします?」
ショウイチ君が別の偽名案を提示してくれる。
また海外で一般的な男性の名前が例に挙がってくる。
なぜだ……。
「……いや、これでいくわ。レガシーのは何て名前になったんだよ?」
偽名はどっちもどっちな気がしたのでこのままでいくことにする。
ちなみにレガシーはどんな偽名になったのだろうかと思って聞いてみる。
「俺? 俺のはグッレガシーだ」
「そ、そうか」
なんか微妙だった。
グッドなレガシー的な感じなのだろうか。
「あ、それとこれもどうぞ」
俺たちが互いのギルドカードを見せ合っているとショウイチ君がさらに何かを渡そうとしてくれる。
「腕輪?」
それは金属の腕輪のように見えた。
「そうっす。大体一章に一回ここへ戻って来れる転移装置っす。武器のメンテナンスとかするときに使ってください」
「ショウイチ君。さすがにそれはメタ過ぎるぞ!」
それ以上はいけない。
「そうだぞ! もうちょっと頑張れよ!」
レガシーからも駄目出しが入る。
「がんばれ♡ がんばれ♡」
ローズもショウイチ君を応援する。
「えーっと……じゃあ、周囲の魔力を吸収してここへ帰ってこれる転送魔法を起動できる腕輪です。人や魔石からの魔力供給はできないので数ヶ月に一回くらいの頻度でしか使えません。あと起動に一日かかるので緊急回避にも使えません。たまには同郷の人と飲みたいので顔出して下さいよ」
「やるな! ショウイチ君!」
俺はサムズアップをしてショウイチ君を賞賛する。
「はじめからそう言えよ! 見直したぞ!」
ショウイチ君の肩に腕をまわしてバンバン叩くレガシー。
「さすがぁダーリン!」
密着するローズ。
「えへへ」
ショウイチ君もご満悦の様子だ。
これで何の問題もないだろう。
大丈夫だ。
さっき国を出るといってもさして驚いていなかったのもこの腕輪のせいだったのだろう。
ありがたく頂戴しておくことにする。
「じゃあ、俺たちは行くわ。色々ありがとう! あとこれお土産!」
色々バタバタして渡すタイミングを失っていたお土産をショウイチ君に渡す。
土産の中身は米や醤油、そして豆腐などに加えてバターやチーズ、燻製なんかを渡しておいた。ショウイチ君ならうまく保存できるだろう。
「ありがとうございます! お二人もお元気で!」
お土産を抱えて上半身が見えなくなったショウイチ君が普通に聞き取れる声で挨拶してくれる。
「どこに行くか決めてるのぉ?」
ローズが行き先を聞いてくる。
「国外に出ることは確定してるから、とりあえず国境沿いにあるオカミオの街を目指そうと思う」
俺は事前に仕入れておいて情報を話しておく。
「こいつの世話は俺に任せておきな!」
俺の肩をはたくレガシー。
「誰が誰を世話するって?」
肘でレガシーをこつく。
「おっと耳が遠くなってきたのか? 老化が早いな。だが俺に任せておけば安心だ!」
レガシーが俺を肘でこつき返す。
「気をつけてねぇ」
ローズが笑顔で手を振ってくれる。
「いつでも来てください! また飲みましょう!」
ショウイチ君は土産が重過ぎてなんか海老反りになってきている。
ショウイチバウアー状態だった。
「また来るよ!」
「じゃあな!」
俺たちは二人に手を振ると無人島を後にした。
次の目的地は国境沿いにあるオカミオの街だ。
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