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9 デカくてたくましい


 兄貴の視線の方に顔を向けると遠方に赤い影が見えた。


(何あれデカいよ!? 二メートル越えてそうなんですけど……)


 人型のそれはこちらに向かってゆっくり歩いてきている。


 肌は存在感を強調するように赤く、上半身が異常に発達している割に下半身はほっそりして短い。


 腕は地面につくほど長く、肘から下が異常に太くなり手もデカイ。


 生え際に小さな角があり、口から牙がはみ出している。


 目は血走り、こちらを見据えている。


 兄貴が構えたまま通る声で端的に指示を出す。


「オーガだ! 俺が殿になる。お前らは全力で街に走れ!」


「ひ、ひぃ」


 新人の一人が驚いて尻餅をつく。


 もう一人も自分の足に引っかかって転んでしまう。


 そうこうしているうちにオーガはこちらに狙いを定めて走り出した。



「何やってる! 急げ!」


 兄貴も焦っているのだろう、オーガから目を離さず早口でまくしたてる。


「う うわあああ!」


 必死で立ち上がると転ぶようにして走り出す二人。そんな大声出したらオーガをひきつけてまずいんじゃないだろうか。


 しかし、あれが噂のオーガか。赤いから森の中だと結構目立つ。


【聞き耳】で三人組の会話に集中していたので、今まで存在に全く気付かなかった。


 もし俺の側に近づいていたら不意打ちされる恐れもあった。今後気をつけねば。


 オーガの走ってくる様子を見ていると、案外遅い。


 俺の全力ダッシュなら簡単に逃げ切れそうな印象だ。


 だがしっかりと防具を着込んで走っている三人組の速度ではギリギリといったところかもしれない。


 ……大丈夫だろうか。


「くそっ俺がひきつける! お前ら街に着いたら人を呼んで来い!」


 オーガから逃走中、兄貴がフラグくさい事を言いはじめる。


「あ、兄貴! そんな事したら死んじまう!」


「大丈夫だ、ひきつけるだけで戦わない! 適当なところで逃げる! まともにやりあったら死んじまうからな。分かったら早く行け!」


「は、はい!」


 兄貴はその場に残り、新人達は街の方へ走っていった。


【気配遮断】の効果で、オーガは俺には全く気付いていない。


 兄貴がピンチだし加勢したほうがいいかもしれないが、今の俺のレベルでオーガにダメージが通るだろうか?


(行ったはいいが、返り討ちにあったじゃ笑い話にもならないよな……)


 不安要素が多すぎるので兄貴の行動をしばらく見て、これからどう動くか判断しようと決める。


「これでもくらいやがれ!」


 兄貴は追いついてきたオーガに向かって片手剣を振り下ろす。


 オーガはそれをまともに受け、上半身を少し後方に反らした。


 お、効いているのか? と思えるオーガの素振り。意外に戦えているのだろうか。実際、兄貴の攻撃でオーガの肩から腹にかけて傷がついていた。


 だが、オーガは斬られてひるんだのではなく、単に拳を打つために上体を引いただけだった。


「「ッ!?」」


 俺と兄貴がそれに気付いた時、オーガの巨大な拳が突き出され、兄貴の体にめり込む。


 兄貴はその拳を盾で防ぐのには成功していたが、そのままの姿勢で吹っ飛ぶ。そして、後方の木にぶつかるとずり落ちて動かなくなった。


 盾を装備していた腕はあらぬ方向にひしゃげ、だらんと垂れ下がっている。死んではいないようだったが、ぴくりとも動かないところを見るに意識を失っているようだ。


 兄貴の装備していた盾は片腕に装着するタイプの小さなものだ。多分、刃物の攻撃を受けたり逸らしたりするものなんだろう。


 そのため、大きな衝撃を受けるのには適していない。


 今の一撃は車の衝突を小さな盾で防いでいるようなものだ。


 多分兄貴はもう、戦うことも逃げることもできないだろう。


(くそっ、どうすればいい……)


 この状況で俺に何ができるか考える。


 兄貴はレベル8、職業は戦士だろう。


 逃げている時のスピードから予想して、戦士の能力上昇は力が一番伸びて、二番が体力、三番がすばやさ、魔力が0って感じではないだろうか。


 そうすると力の上昇値は下位職とはいえ、暗殺者と同じ位か、戦士の方が上かもしれない。


 つまり今の俺のレベルで攻撃してもオーガには効かないと見たほうがいい。レベル4では、どうしょうもないといったところだ。


 ――ここは逃げるべきだろう。


 俺は倒れて動かなくなった兄貴の方を見る。


 授業料をとるとは言っていたが、教え方は丁寧で好感がもてた。


 オーガが来たときも、率先して殿を務めていた。


 危なくなったら真っ先に残ることを選択していた。



 オーガを見つけたときに新人達を囮にすれば、自分だけは逃げられたはずだ。


 兄貴と面識はない。二日間会話を盗み聞きしただけだ。


 ただそれだけの関係だ。


 だが正直見捨てたくない。


 何か手はないか……。


 俺がその場で考えている間もオーガは吹き飛んだ兄貴の方へゆっくりと近づいて行く。



 迷ったあげく、俺は一か八かアイテムボックスから、あるものを取り出した。


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